奴隷は家族
「それでは計、白金貨1枚と金貨50枚となります」
「これでいいかな?」
「少々お待ちを……はい、丁度ですね。ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
奴隷4人の自己紹介は大体終わり、リュートは金を払って買い物を済ます。リュートは既に仮面をつけている。外で騒がれないためだ。
「じゃあみんな、ついて来て」
号令と共に、リュートと4人は店を出た。彼女たちは若干、居心地が悪そうだ。やはり、奴隷というのはあまりいい気分ではないらしい。気晴らしにと思い、リュートが4人に話しかける。
「それじゃあ、まずは屋敷に戻ろうと思う。もうそろそろ家具も届いただろうからね」
「ご主人様、それではまるで、最近引っ越してきたというふうに聞こえますが?」
「そうだよ。今日から住むんだ」
絶句する奴隷達。普通、引っ越すその日に高級奴隷を4人も買う者はいないからだ。自分たちの主人は大丈夫なのだろうか、それが今の4人の感想だ。
それから数十分ほど歩き、ようやく屋敷が見えてきた。周りに立派な屋敷が建ち並んでいる中、やはりリュートの屋敷は小さい。
「あ、あれがご主人の家なのか……?」
「そうだよ。まあ、今日から住むんだけどね」
ウルフルが驚き、リュートが苦笑して返す。屋敷を見てみると、門の前にはメアリーとユスティの二人が立っていた。
「あれ?業者はどうしたの?」
「もう終わりましたわ。王族御用達の業者ですから、速さも一流なんですの!」
ユスティは胸を張り、自慢げに言う。
その瞬間、ユスティの胸が、たゆん、と揺れ、そこにいた全員の視線が向く。結果、リュートが赤くなりながら目をそらし、カレンが自分の胸に手を当てて涙目になる。そんなカレンを励ますウルフルの構図ができあがった。
そして、未だにガン見しているメアリー、ターナリア、イレーナの視線に気づいたユスティが顔を真っ赤にし、腕で胸を隠そうとする。
しかし、そのせいで胸は隠れるのではなく、逆に腕の上に乗っかり、強調されていることに、ユスティは気づいていない。
「ま、まあいいや。立ち話もなんだし、とにかく中に入ろう」
リュートの少しうわずった号令とともに、7人は屋敷の中に入る。
中はリュートが出る前と違い、少し豪華になっていた。床にはカーペットがしかれており、窓にはお洒落なカーテンがかけられている。
これだけでも、まるで朝とは違う屋敷のように感じる。ユスティ、メアリー以外の5人が感心していると、広間についた。ここにも高そうなソファーや机などが置かれている。
7人はソファーに座った。奴隷たち4人がまとまって座り、その対面に残りの3人という形だ。
「それじゃあ、自己紹介を『お待ちください』……どうしたの、ユスティ?」
「リュート様、彼女たちは皆、高級奴隷ですね?いったいいくらしたんですの?」
リュートが話を始めようとすると、ユスティが金額を聞いてきた。それに対して、リュートは軽く答える。
「えっと、たしか白金貨1枚と金貨50枚だったよ」
その値段に驚くユスティとメアリー。さすがに、最初からそれほど高額になるとは思ってなかったのだろう。
「……何で、そんなに高い奴隷を買ったの?使用人として買うんじゃ、なかったの?」
「彼女たちが一番元気だったから、かな?それに僕は、良いものを買うときは値段を気にしないタイプなんだ」
「……そう」
二人は真面目に話すリュートになにも言えなくなった。当の4人はじっとしているが、リュートの話が気になっているようだ。耳を傾けて聞いている。
「戦闘ができるかどうかは、あまり関係ないんだ。家事がてきないも、あまり気にしていないよ。これから覚えていってくれればいいからね。ただ、買うなら彼女たちだって思ったんだよ」
そう言って仮面越しに笑うリュート。その言葉にカレンとターナリアが嬉しそうに笑う。ウルフルは済まし顔だが、狼獣人のフサフサな耳が揺れている。イレーナは表情が動かないため、よくわからない。さすがは元軍人、ということだろう。
「それじゃあ改めて、自己紹介をお願い」
その声を機に、奴隷たち4人はユスティとメアリーの二人に自己紹介をする。その内容はリュートに話したものと同じようなものだったため、今回は割愛させてもらおう。
「そっちの自己紹介は終わったところで、次はこっちの番だね。それじゃあ僕から。僕の名前はリュート・カンザキ。Fランクの冒険者で、今日から君たちの主になるね。呼び方は好きにしていいから。あと、敬語とか別に必要ないからね。これからよろしく!」
まずはリュートが話す。内容はひどく簡潔であり、まったく面白みのないものだった。しかし、4人は引っかかる部分があった。
「――ちょっとお待ちください。敬語はいらない、呼び方は好きにしていいだなんて、普通は言いませんよ。ご主人様は何を考えておられるんですか?」
ターナリアは疑問をリュートに問う。いくら奴隷に寛容な国といっても、流石にそれはおかしいというのが分かっているのだ。理解できない、というふうに首をかしげる奴隷の4人。しかし、リュートはなんでもないかのようにさらっと答える。
「いやぁ。僕、堅苦しいのとか苦手なんだよね。それに、これからは一緒に暮らすんだし、もっと気軽にいこうよ」
それでも言い募ろうとするターナリア。そんな彼女に、リュートはついに切り札を使う。
「じゃあ、主人命令ということで。みんなもいいね?」
ターナリアたちは首輪によって、主人の命令には逆らうことができない。それを利用した方法だ。命令である以上、彼女たちは逆らうことは出来ない。
「よし、それじゃあ次は、ユスティお願い」
「わかりましたわ。それでは皆さん、私はユスティ・R・シュベリア。ここ、シュベリア王国の第二王女ですわ」
「「なっ!?」」
その言葉に、奴隷4人が驚く。こんな所に王族がいるとは、普通は思わないだろう。その反応に苦笑し、ユスティは話を続ける。
「そんなに硬くならなくていいですわよ。ここは王城ではないので、気軽にしてくださいね」
そうはいっても、平民がいきなり王族と気軽に接するなど、普通は無理だ。リュートが普通にユスティと接しているのは、彼の性格であって、彼女たちはまだ無理だろう。
現に、4人とも未だに固まっている。
「……次は私。私はメアリー・レイド。黒皇竜。……リュート様の未来の妻」
「何言ってるの!?」
今度はメアリーが驚かせた。しかも、今回はリュート付きでだ。奴隷の4人は顎が外れんばかりに口を開け、美人が台無しと言えるほどのマヌケづらを見せてしまっている。
「あ、あんたは黒皇竜、なのですか……?」
「ウル、硬いよ。もっとリラックスしないと」
「で、できるかぁぁぁぁッ!?」
ウルが立ち上がり、大声で叫ぶ。黒皇竜とは、人類にたちうちできるものではない、力の象徴でもある。そう簡単に理解などできないのだろう。4人とも、ユスティの時より驚きが大きいようだ。
「なんなんだよこの家は!?一国の姫様に黒皇竜だと!?ありえないだろ!!」
「普通の僕の家だよ?」
「納得できるかぁぁぁぁあ!?」
ゼエゼエと息を切らし、リュートのボケとも思える発言につっこむウル。なんとか落ち着き、再び座る。
「……それでメアリー、僕の嫁ってどういうことかな?」
「ただの嘘……今は」
「最後なんかさらっと言わなかった!?」
「気のせい」
そんな漫才めいた二人を見たユスティを含む5人は、呆気にとられえている。もはや、先ほどから声も出ていない。
「リュート殿、と呼ばせていただいても?」
初めてイレーナが自分から話しかけてきた。そのことに少し驚きつつ、リュートは了承した。
「ではリュート殿。あなたは一体何者なのだ?これから仕える主人として、私たちには本当のことを話して欲しいのだが……」
「う~~ん、確かにそうだね。こらからは一緒に済むんだし、みんなは知っていたほうがいいかもね」
やはり秘密があるのか、そのことを確認した新たな仲間は、ゴクリとつばを飲み込み、真剣な表情で話を聞こうとする。
「僕は人族じゃないんだ。実は、龍神っていう、竜種の王にあたる存在なんだよ」
「・・・・・・」
「龍神だって?なんだい、それは?」
「ボクも知らないです」
「聞いたこともないですね」
『龍神』という言葉に首をかしげるターナリア、ウル、カレンの3人。ただし、イレーナは少し違う反応だった。顎に手を当て、何かを考えている様子だ。
「どうしたの?イレーナ」
「……軍にいたころ、部下が近くの村で怪しい行為を働いているという男を連行してきたのです。その男が、たしか『龍神教』と言っていたと思うのですが……」
「何それ……」
「聞いたこと、ない」
これにはメアリーも驚いたらしい。彼女は世界を飛び回っているが、一度も聞いたことが無いとのことだ。
「その話、今度詳しく教えて」
「わかりました」
二人は約束を取り付ける。リュートも知りたくはあったのだが、同時に自分を祀った宗教かもしれないため、知りたくもなかった。ゆえに、無理に聞くことをやめたのだ。
「まあ、とにかくそういうこと。僕も一応、竜種なんだ」
「リュート様は私たちの王様みたいなもの。だから、私は私の全てを使って、ご奉仕する」
「――なんだか卑猥です、メアリー様」
リュートはもう、何も言わない。メアリーのキャラを理解し始めているようだ。しかし、純情なユスティ、そして意外なウルが顔をわずかに赤くし、カレンは何もわかっていないような顔をしている。
「まあいいや。これからみんなは同じ家で暮らす仲間で、そして家族だ。奴隷だ主人だなんて遠慮もいらないし、楽しくやっていこう!これからよろしく!!」
リュートの締めの言葉に、みんなは様々な反応を見せる。
とにかくこれで、7人の新たな生活が始まった。
「あっ!さっきあたしのことウルって呼んだか!?」
「「「今ごろっ!?」」」
感想にて話題にでた龍神教、登場させてみました。こんど、どのように絡んでいくか、お楽しみください!




