新しい家と奴隷
「リュート様、メアリー様、おはようございます!」
城へ行き、新しい屋敷をもらった翌日、リュートとメアリーは既に屋敷の前にいた。挨拶をかわし、二人で談笑しながらユスティを待っていると、その当人は馬車に乗ってやってきた。
ユスティは馬車から降りると、すぐにリュートとメアリーに元気良く挨拶する。それに返す二人。
「おはよう、ユスティ」
「おはよう」
今日は屋敷の中を見てまわり、部屋割りなどを決める日なのだ。ユスティは昨日はいなかったため、なんだかワクワクしている。
「それでは、早速参りましょう!」
中へ入ろうとするが、護衛の者たちははついてこない。リュートが護衛はいいのかと尋ねると、メアリーが
「私とリュート様がいるから大丈夫」
と言ってきたので、それもそうかと思い、この話を終える。ユスティが先頭に立ち、三人は中へ入る。
門の中は大きな庭のようになっており、芝生が敷き詰められている。少し歩けばすぐに屋敷の玄関へついたため、今度は屋敷の中へと入る。
三人が最初に向かったのは食堂だ。ここも広く、ざっと30人くらいが一斉に食事できるほどの広さがある。すぐ隣が調理場だったため、メアリーが「料理、頑張る」と意気込んでおり、彼女が料理ができるということに驚くユスティとリュート。
次に向かったのは、風呂場だ。この屋敷には風呂がついており、実際、リュートはこれが一番嬉しかったりする。風呂の大きさは日本の小さな温泉ほどしかないが、それでも十分である。
「リュート様、お風呂、好き?」
「大好きだよ。昔は毎日欠かさず入っていたからね」
そう言うリュートは本当に嬉しそうだ。そのため、後ろでユスティとメアリーが何やら話し込んでいることに気づかなかった。
次は各自の部屋決めだ。この屋敷は3階建てのため、3人は3階へと向かう。結果、リュートは一番景色がよく見える、東側の大きめの部屋を。ユスティはその向かい側で、メアリーはリュートの隣の部屋を選んだ。
家具がまだないためかなり広く感じるが、ここが自分の部屋なんだと改めて実感し、顔がニヤけるリュート。ただし、この日も仮面をつけているため、口元しか分からないが。
「家具はどうしよう?何もないと、今日はここでは寝れないんだよね」
「リュート様、それならば私におまかせください。既に業者に頼んでいますので、お昼過ぎには大抵の家具は揃うと思いますわ」
「本当?ありがとう!それならあとは細かいものだけでいいね!」
こうして次々と部屋をみてまわり、だいたいの部屋をまわり終わった。この屋敷は約20ほどの部屋があり、それぞれがそれなりに大きかった。一部屋だいたい二人ぐらいは住めると思うので、この屋敷に住めるのは約40人ほどだろう。
これだけ住めても貴族の屋敷としては小さいということに、またもや驚くリュート。
一息つき、今度は使用人について話し合うリュートたち。これだけの大きさだと、掃除などが大変そうだからだ。
「じゃあ、使用人はどれくらい雇えばいいかな?そのあたり、あんまりわかんないんだよね」
「まずは5,6人ほどでしょうか。それくらいならば、日雇いで十分だと思いますけど……」
「奴隷を買えばいい」
「奴隷!?」
初めて聞く「奴隷」という言葉に驚くリュート。本当にそんなものがあるとは思っていなかったのだ。
「奴隷というのは、犯罪や契約を犯した人たちがなります。なので、裕福な方であれば、奴隷を買っている方は多いんですよ」
「奴隷は最初は高いけど、買えば、あとはタダ。経費削減」
どうやらこの国の奴隷というのはまともな商売らしい。しかしユスティの話では、どこかの国では誘拐等による違法奴隷が扱われているとい噂があるらしい。それに対して眉をよせるリュート。
「リュート様は、奴隷がおきらいですの?」
「いや、誘拐してってのが気に入らなくて……。まあ、それは今はいいや。じゃあ、奴隷を買う、ということでいいかな?」
頷くメアリーとユスティ。
「じゃあ、奴隷はどこで売っているか知ってる?」
「それなら、王都でも1,2を争う「バーボン商会」というのがありますわ。大抵のものが売っておりますので、そこに行けば買えると思います」
「どこにあるの?そのバーボン商会ってのは」
「闘技場から南の方へまっすぐ行けば周りより飛びぬけて大きな建物があります。看板もあるので、すぐに分かると思いますよ」
話が決まったため、リュートは早速買いに行こうとする。ユスティは業者を待たなければならないらしく、メアリーはユスティの護衛兼話し相手として残るらしい。結果、リュート一人で行くこといなった。
***
「ここが“バーボン商会”、か……」
リュートは現在、大きな建物の目の前に立っている。看板には「バーボン商会」と書かれているため、間違ってはいないようだ。
大きな扉を開け、中に入る。中は大勢の人で溢れており、買い物に来た人で賑わっている。とりあえず奴隷を買うため、受付にいる男性に聞いてみることにした。
「すみません。ここって、奴隷とか売ってますか?」
「もちろんです。ですが、奴隷販売は隣の別館で行なっております。申し訳ありませんが、そちらまで移動願えますか?」
「もちろんです。ありがとうございます」
どうやらこの建物では扱っていないらしい。考えてみれば、奴隷と商品を同じ建物で扱うのもおかしい話だ。リュートは納得し、すぐに隣にある建物へと入っていった。
「こっちはあまり大きくないんだな。でも、中は意外ときれいだ」
中には初老の男性が一人いるだけだった。彼は先ほど受付で会った男性と似たような格好をしているため、おそらく従業員だろうと思い、話しかけてみる。
「すみません、奴隷を買いたいんですけど……」
すると、初老の男性は笑顔で振り返る。
「いらっしゃいませ。バーボン商会へようこ、そ……」
すると、彼は驚いた表情でリュートを見た。
「どうしましたか?」
「いえ、あなたはもしや、リュート様では?先日、大会で活躍していた。」
「ええ、まあ。そうですけど……」
「やはり、そうなのですね!銀髪と仮面の男性など、リュート様しかいないでしょうから」
その言葉に納得するリュート。大会は映像魔法具で国中に放送されていたため、彼も見ていたのだろう。
「申し遅れました。ワタクシ、バーボン商会会長、バーボンと申します。奴隷をお求めでしたね。ご希望等はおありですか?」
「そうですね、なるべく女性がいいです。あとはそれほどありません」
女性がいいと言ったのは、ユスティがいることを考慮したためだ。万が一にも男の奴隷がユスティを襲ってしまったらいけないと思ったのである。別に、リュートにやましい気持ちがあったわけではない。
しかし、バーボンはわかっておりますよ?と言わんばかりにニヤついており、なんだか納得いかないリュートであった。
「それではリュート様、こちらへどうぞ」
バーボンに招かれ、リュートは奥へ入る。この建物は3階建であり、一階は普通の奴隷、二階は主に戦闘や家事など、なにか特技がある奴隷、三階は高級奴隷を扱っている。
「高級奴隷って、なんですか?」
「敗戦国の元貴族や、犯罪奴隷の中で特に容姿の優れた奴隷です」
戦争が起こり、敗戦した国の貴族が奴隷として売られることは少なくない。シュベリア王国は戦争はしていないが、同盟国から輸入することが偶にあるのだ。
そして、バーボンはリュートを連れ、三階へと向かった。その途中、リュートは疑問に思い、訪ねてみる。
「あの、犯罪奴隷って、暴れたりとかしないんですか?」
「それならご心配には及びません。奴隷には隷属の首輪が付けられております。これを付けられていると、主人の命令には逆らえませんし、危害をくわえようとすれば、首輪が激痛を与えることになります」
(結構えげつないな、その首輪って)
どうやら三階についたようだ。バーボンが扉を開ける。
「うわぁ……」
リュートは中の様子に驚く。牢屋の中にいるので、少しは小汚いと思っていたのだ。しかし、実際は綺麗に掃除されており、牢屋一つ一つに十分な設備が整えられていた。
奴隷達はたしかに見目麗しい者が多く、皆キレイな服を着せられている。
「では、この中からお選びください。お気に召しませんでしたら、他の階の奴隷もお見せします」
奴隷には大きく分けて二つある。目が既に死んでいる者と、まだ生きる気力のある者だ。たとえ高級奴隷とはいえ、全ての奴隷の待遇が良くなるわけではない。
そのため、リュートはなるべく気力のあるものを選ぶつもりだ。
リュートは牢屋を一つ一つ、じっくり見ていく。しかし、仮面をつけた男に見られるのは怖いのか、かなり引かれている。
そして、十分に考えた結果、4人を選んだ。この店には面会室というものがあり、そこで奴隷と直に会うことができる。大抵は自己紹介などに使われているのだ。
よって、リュートも面会室を利用することにした。リュートが面会室の高級そうなソファーに座っていると、若干化粧をほどこされた4人が、バーボンに連れられてやってきた。彼女たちはリュートの前に並んで立つ。
「では、自己紹介といきましょう」
「じゃあ、名前と年齢、得意なことと、奴隷になった経緯を教えて」
リュートが要求し、向かって右側の子から始まる。
「私はターナリアです。年は20。特技は弓と水の魔法で、奴隷になった経緯は、依頼仲間に騙されて借金ができ、それを払えなかったからです」
ターナリアは人族で、元はペルセア王国の冒険者だったらしい。ある依頼のために集まった冒険者の仲間が、失敗した原因を全てターナリアに押し付けたまま、別の国に逃げたらしいのだ。失敗のため、違約金を払えとのことだがもちろん払えず、結果奴隷となってしまったようだ。
「ギルドは調査してくれなかったの?」
「依頼を失敗した場合、責任は全て依頼を受けた者たちが負うことになります。私以外の全員が私だと言ったため、調査する必要はないと言われたんです」
そう話すターナリアの目は悲しそうに細めらており、、涙が溜まっている。リュートはそんな彼女に何も言えず、彼女が落ち着くのをただ待つしかなかった。
「――それじゃあ次のひと、お願い」
「イレーナ、23歳。特技は剣。元はメリオ国の軍人だったが、戦争で負けた結果、敵に捕まり現在に至る」
イレーナは軍隊長を任されていたらしい。敵と交戦中、敗戦して部下と共に捕まってしまったとのことだ。
彼女は軍人らしく鋭い目をしており、凛とした雰囲気も合わさって、「カッコイイ女」という感じだ。
「ありがとう。それじゃあ次、お願いね」
最期の二人は顔が少し似ている。おそらく姉妹だろう。
「ボクは妹のカレン。14歳です。こっちは姉の……」
「ウルフルだ。19歳」
妹のカレンは明るい印象を受ける、いわゆる「ボクっ娘」というやつだ。対して姉のウルフルはブスっとしており、少し敵意を感じる。二人は狼の獣人のようだ。
「あの、どうかした?」
リュートが聞いてみると、ウルフルは歯をむき出しにして言う。
「ふん!あたしらを買おうってやつが、仮面なんかかぶってくるなんてね!失礼だとは思わないのかい!?」
「お、お姉ちゃん!?それじゃあお姉ちゃんの方がしつれ『ごめんね』……え?」
「ごめん、確かにこれじゃあ失礼だね。今取るよ」
そう言って、リュートは仮面を取る。奴隷の4人と、なぜかバーボンまで見ている。仮面の下の素顔がどんなのか気になっていたらしく、リュートが仮面を取るところを凝視している。
「これでいいかな?」
リュートが仮面を取り、軽く前髪をかきあげる。何も言ってこない5人を不思議に思い、見てみると、全員、唖然としていた。頬を赤くし、カレンとターナリアにいたっては目をトロンとさせている。
久しぶりの反応に戸惑うが、原因に気づいたリュートは苦笑し、5人を再起動させることにする。
「あの~。もういい?」
「あ、えと、おう。もういいぞ」
ウルフルが答え、それを皮切りに全員が動き出す。しかし、頬の朱はおさまっていない。
「じゃあ、続きをお願い」
「はい、えと、ボクたちは元盗賊でした。小さい盗賊団に所属していたんです」
「だが、ある日偶然Aランクの冒険者に遭遇し、全滅させられたんだ」
悔しげにうつむくウルフル。そんな彼女を気遣うカレン。
「そうか……まあ、これでだいたいのことはわかった。僕が君たちを買いに来たのは、家の使用人をしてほしいからなんだ」
それを聞いて、4人が驚く。4人とも、もちろん家事等はあまり経験がないのだ。そのことを伝えても、
「別にきちんとして欲しいわけじゃないよ。僕たちも手伝うから」
「ん?『たち』って、他にもいんのか?」
「あと二人いるんだ」
「……あんたって、貴族なのか?」
「違うよ。ちょっとしたことで報酬がもらえてね。その報酬が小さな屋敷だったんだ」
もしかしてすごい人なんじゃ、4人がそう思い始める。これからは、リュートの奴隷といて生きていくことになる。どんな人物かは知っておきたいのだ。
「じゃあ、これからよろしく!」
奴隷メイドができました。長くなりそうなので、二つに分けますね。
女の子キャラでどんなのを出したら嬉しいか、要望がありましたら是非教えてください!




