王族との会合
「う、う~ん……あれ?」
「おはよう、龍神様」
リュートは気配を感じ、目が覚めた。ぼやけた目で気配の主を見ると、扉の近くにメアリーがたたずんでいた。
「……変だな。夢でも見てるのかな?」
「夢じゃない。起きて、龍神様」
「おわっ!?」
現実逃避をしていると、いつの間にかメアリーが目の前まで迫っていた。驚き、思わずのけぞるリュート。
「……あの、なんでメアリーさんが僕の部屋に?」
「……龍神様を、呼びに来た。今日は、ガルドと会う日」
「ガルド?……ああ、この国の国王様か。そういえば、今日って大会の賞金とお礼の件で会うんだっけ」
「もう、時間が押してる。急いで欲しい」
「わかりました。……それより、なんでメアリーさんが?普通は使者とかが来るんじゃ?」
「私が使者。……龍神様を迎えるのは、黒皇竜の私」
メアリーの目は真っ直ぐにリュートに向けられている。そして――。
「……寝顔、綺麗だった」
「なあ!?み、見てたんですか!?」
「ばっちり」
リュートは恥ずかしさのあまり、ついベッドの上で悶えてしまう。しかし、メアリーの行動が理解できない。何故、いきなり親しげになったのか、と。そう考えていると、またもやメアリーに急かされる。
急いで着替え、準備を完了させるリュート。ダーナに挨拶をしてから外に出る。すると、外には豪華な馬車があった。周囲は何事かと見物しており、メアリーがいることに驚く。
二人は馬車に乗り、王城へと向かう。馬車の中にはリュートとメアリーしかおらず、話の続きをすることができた。
「それで、なんでメアリーさんが『メアリー』……へ?」
「メアリーでいい。龍神様は、私たちにかしこまる必要はない」
「……なら、僕のこともリュートでいいよ。龍神様ってのも、なんか変な感じだし」
「……いいの?」
メアリーの目が嬉しそうに輝いている。そんなに嬉しいことだろうか?と疑問に思いつつも、話を続けるリュート。
「それじゃあ、よろしく。メアリー」
「……よろしく、リュート様」
様はつくんだ、と苦笑しつつ、二人は握手をした。小さくて、柔らかい手だった。
それだけでなぜかドキドキしてしまうリュート。
「そ、それじゃあ、王城で何か気をつけることってあるかな?」
「特にない。リュート様は私よりも上位の存在。ガルド相手にかしこまる必要もない」
「……本当?」
「何か言ってくるなら、私が黙らせる」
「・・・・・・」
もう何も言うまい、と決めたリュート。その後、たわいない話を二人で続けていると、いつの間にか王城へとついたようだ。リュートが窓から王城を眺める。すると、そこには巨大な城がそびえ立っていた。
「立派な城だなぁ」
リュートが感慨深く思っていると、馬車が止まり、扉が開かれた。馬車を降りると、そこには城の使用人と思われる人々が並んでいた。
リュートが目の前の光景に呆気にとられていると、メアリーが手を引き、リュートを導く。初めて女の子に手を握られたことにドギマギしつつ、リュートは大人しくついていくことにする。
城の中はやはり華美であり、所々に見るからに高級そうなものが置かれている。一体いくらだろうと考えていると、やがて、ひとつの大きな扉の前にたどり着いた。おそらく、ここが謁見の間なのだろう。
扉の前に立っている兵士たちがメアリーを確認した後、扉を開ける。鈍い音と共に開いた扉の先には、レッドカーペットが敷かれ、その横には豪華な服を着た男たちが並んでいる。奥に座っているのは、王族であるガルドたちだ。まさしく王族にふさわしい威厳を持っている。
メアリーに導かれ、王座の前まで進むリュート。しかし、跪くことはしなかった。いや、未だにメアリーが手をつないでいるため、跪くことができなかったのだ。そのことに怒りを表す貴族たちもいたが、メアリーがひと睨みで本当に黙らせた。
その光景を見たガルドは驚きに目を見開かすが、すぐに表情をもとに戻し、話を始める。
「リュート・カンザキ。大会優勝、おめでとう。そなたの闘いは、実に見事であった」
そういい、ガルドは自ら賞金である白金貨10枚の入った袋を持つ。国王自ら!?と驚くリュートと貴族たち。しかし、そんなのお構いなしにガルドは玉座を降り、手渡した。
渡し終えると、ガルドは再び玉座に戻る。
「それでは、本題に入ろう。リュートよ。娘を助けてくれたこと、感謝する」
「本当に、ありがとうございます。リュート様」
王族全員が席を立ち、腰を折って感謝を示した。またもや驚くリュートたち。ちなみに、リュートは未だに仮面をつけている。しかし、大会中もずっとつけていたため、そして、黒皇竜となにやら親しげなため、誰も何も言えないのだ。
「娘を救った恩人なのだ。褒美を与えよう、なんでも言ってみよ」
「褒美、と言われましても……」
困ったように首をかしげるリュート。褒美など、考えてもいなかったのだ。いきなり言われても、そうすぐに出てくるものではない。
「ないのか?ならば、我が国に仕えんか?爵位を与えようと思うのだが……そなたほどの強者は是非欲しいのだ」
「あ、それはお断りします」
キッパリと断るリュート。流石にガルドも驚きに目を見開き、貴族たちは今度こそ怒りをあらわにする。ちなみに、メアリーは隣で軽く吹き出していた。
「き、貴様!?国王様に向かってなんという口の聞き方を!?」
「無礼者め!!誰か!この者を牢屋へぶち込め!」
数人の貴族がリュートへの怒りのあまり、騎士団の者たちに捕らえるよう命ずる。すぐにリュートの周囲を抜剣した騎士たちが取り囲む。
「いや、メアリーがかしこまらなくていいって……」
リュートがメアリーを呼び捨てで呼んだことにさらに怒り、そして疑問に思う。
「メアリー殿を呼び捨てにだとッ!」
「待て、メアリー殿が許可したとは……?」
「……リュート様は私たちの王であり神。本来、誰かにかしこまる必要なんてない。だから、リュート様に無礼を働くモノは、私が許さない」
唖然とする謁見の間内の人々。その中にはリュートも混じっていた。
(まさか、こんなところで言うなんて……)
ガルドが確認するように、唇を震わせてメアリーに問う。
「メアリー殿……それでは、リュート・カンザキは龍神だと言っているように聞こえるが……」
「そう言っている」
小さく頷くメアリーに、またもや唖然とする一同。逆にリュートはため息をついている。
(メアリーにちゃんと釘を刺しておくべきだった……)
しかし、今更文句を言うわけにもいかない。もう取り消すことは出来ないのだ。現に、多くの視線がリュートへと向けられている。その中にひとつ、他のものとは全く異質な視線があった。
「ほ、本当に、あなた様が、龍神様なのですか……?」
ユスティが聞いてくる。その目は大きく開かれており、少し涙のようなものが見えている。
とりあえず、リュートは首を縦に振り、証拠のために右腕のみ変幻を解除、銀の龍腕を見せた。
「「「「「ッ!?」」」」」
「ほ、本当なのですね……」
ついにユスティが涙を流した。何事かと思い、少し心配になるリュート。と、次の瞬間、ユスティが席から飛び出し、リュートのもとへ走ってきたのだ。
「あ、あの、龍神様!私、あなた様に一度助けられたことがあるのです!!ずっとお礼がしたかったんです!」
慌てふためき、どこか興奮したように告げるユスティ。その様子に首をかしげるも、すぐに何かを思い出す。
「あッ!もしかして、スイトウ森林の近くで襲われてた小さな女の子!」
「ハイッ!そうです、それがわたくしなのです!」
リュートが龍神の姿であった人物など、そう多くはない。かつて、初めて人間の姿を見たときにひどく頭に残った少女の面影。それが今のユスティに重なって見えたのだ。
二人はすぐに打ち解けたらしい。周りは置いてきぼりである。
「……二人は、知り合い?」
メアリーが少しすねたように聞いてくる。それに対し、リュートは「昔、ちょっとね」と、何故か誤魔化すようにして答えた。
「私は龍神様に、仕えないか、などと申していたのか……」
「ああ、龍神様とか恥ずかしいんで、普通に呼んでください」
何度目かのやり取りをし、「龍神様」をやめさせようとする。それに、恐る恐る了承するガルド。
「ではリュート殿、褒賞は何にするか、選ばれたかな?」
「う~ん……そうですね。なら、家をください。景色がいいとことがいいです」
一度気を許した相手には結構図太いリュート。要求をズバっと言い切った。
「そ、その程度でよいので?」
「ええ、まあ。もともと大会に出場したのも家が欲しかったからなんで」
「……了解しました。すぐに探させましょう」
話はついた。これで終わりかな?と思うと、メアリーが爆弾を落とした。
「リュート様、私も、住んでいい?」
「はぁッ!?」
本日何回目かの驚きに、もはや周囲は疲れてきている。しかし、メアリーは止まらない。
「リュート様は私たちの王様。だから、私がリュート様のお世話したい」
「……それ、本気なの?」
「超、本気」
メアリーは本気らしい。そして、爆弾を落とす者が、もう一人いた。
「~~~!!なら、リュート様、私も一緒に住まわせていただけませんか!?」
「ユスティ、君までも……」
ユスティだ。彼女は顔を真っ赤にしながらも、決意のこもった目でリュートに願い出た。そんな娘の様子を意外に思うガルドだが、応援しようとも思っていた。
(ユスティも成人し、結婚も考えなければならない。いくらペルセア王国とはいえ、シュスティンなどというふざけた輩よりも、リュート殿に託すほうがいいのだが……)
「どうです、リュート殿。私としては、リュート殿ならば安心して我が娘を託せるのですが」
そうは言いつつも、ガルドはニヤニヤしている。
(この人、ただ楽しんでいるだけだよね!?)
と、若干イラッとしたリュートを、誰が責められようか。
リュートも男だ。見目麗しい少女と一つ屋根の下で共に暮らすというのは、色々とヤバイのである。
未だにメアリーとユスティはリュートを真っ直ぐに見つめている。どうやら周りにリュートの味方はいないらしく、そのあまりの真剣さに、ついにリュートも観念した。
「はぁ。わかったよ……」
その一言で、二人は喜びを表す。リュートは少しヤケクソ気味だ。
(なんでそんなに嬉しいんだろう?)
疑問に思いつつも、まあいいか、と考えることを放棄した。後ろでは
「頑張るのですよ、ユスティ」
「はい、お母様!……メアリー様、負けません!」
「望むところ……!」
などというやり取りがあったが、深く考えるのが怖いリュートであった。
「では、臣下にリュート殿たちの家を探させる間、いっしょに食事でもどうだろう」
「いいんですか?」
「もちろんですわ。メアリー様も、是非ご一緒に」
「ありがと」
とんとん拍子に話がまとまり、いつの間にか食事をともにすることが決まっていた。途中、ユスティに食事のマナーを学んだり、リュートがこれまでどのように過ごしてきたか等を話したりして、なかなか賑やかな食事となった。
***
「ここが、リュート様の要求に合った物件でございます」
宰相のセディックがそう伝え、リュートたちに大きな屋敷を紹介する。
ここは王都の貴族街の一番東側にある土地であり、丘のような、少し高い位置にその屋敷はあった。そこから見える景色として森があり、さらにその先を見ると、大きな湖があった。確かに景色はいいと言えるだろう。
「これ、家っていうか、屋敷だよね……」
リュートが求めたのは家だ。しかし、紹介されたのは大きな屋敷である。確かに、これまで見てきた貴族たちの屋敷に比べればかなり小さいが、3人で住むには大きすぎるのだ。
しかし、これも仕方がないだろう。何故なら、国の客人であるメアリーと、王女であるユスティも暮らすのだ。これでもかなり妥協している方である。
「でしたら、使用人でも雇ってみては?」
「賞金、たくさんある」
「……それもそうだね」
本当に疲れたのだろう。リュートはまともに考えられていない。
「それでは、我々はこれで……」
「あれ?もう行くんですか?」
「ええ、仕事もありますから」
そう言って、ユスティと共に帰っていくセディックたち。ユスティは王族であるため、さすがに今日から共に暮らすことはできない。そのため、いろいろ準備をしてから、明日、もう一度来るらしい。
なので、この日はユスティに遠慮し、リュートとメアリーの二人で屋敷の中を見てまわることのみで終わった。
前話は納得いかないという意見が多かったのですが、今回はどうだったでしょうか。
これからは、ハーレムらしく、イチャイチャも入れていきたいのです。




