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大会4日目・VSメアリー

王族席では国王たちとメアリーが話をしていた。メアリーは常に無表情であり、あまり喋らないタイプなので、何を考えているのかは分かりにくい。


しかし、国王であるガルドは幼少期から長年の関わりがある為、ある程度は理解できるらしい。


「メアリー殿、申し訳ない。そして、娘のためにこのような余興を了承してくださり、本当に感謝する」

「気にしないで……私も、彼と戦いたかった」

「そういえば、以前もあの選手に注目しておりましたな。あの優勝選手に何か?」


ガルドの問いに、首を縦に振って答えるメアリー。その視線はフィールドに向けられていた。


「彼……どこか変」

「変、とは?」


再び問うも、今度は首を横に振るメアリー。彼女もどこが変かはよくわかっていないようだ。


二人の話にユスティや王妃たちも混ざり、たわいない話を始める。メアリーは時折相槌を打つだけであり、話を聞くことに徹しているようだ。その時、メアリーは膨大な魔力を感じた。


「っ!?」

「ん?どうされた?メアリー殿」

「どうされましたか?」


どうやら彼らは気づいていないようだ。魔力が漏れたのは一瞬だけであり、よほどの実力の持ち主でもない限り、感じ取れなかったのだろう。


メアリーは魔力の感じた方向へ振り向くと、そこには控え室があったはずだ。


「………」

「な!?本当にどうされた!?」

「め、メアリー様!?」


ガルドたちは驚愕した。常に無表情のメアリーが、わずかにだが笑ったのだ。ガルドでさえ、彼女の笑顔を見たのは6年ぶりだったりする。


「ユスティ、次の試合、楽しみにしてて」


その言葉を残し、メアリーはフィールドへと向かった。後には疑問を浮かべるガルドたち王族たちが残った。









 ***


リュートはフィールドへの入場口に立っていた。この先へすすめば、メアリーと闘える。視線のの先には既にメアリーが立っており、その目はまっすぐにリュートへと向けられていた。そのことに少し疑問を抱きつつも、メアリーと相対するリュート。


『さあさあ、始まります、エキビションマッチ!挑戦者は、今大会の優勝者、リュート・カンザキ選手です!』

『メアリー様と闘えることなんて、普通はないですからね。これは、リュート選手にとって貴重な経験になること間違いなしですね』

『そのとおり!今彼は多くの冒険者から嫉妬をうけていることでしょう!ですが、これは勝者の特権なのです!メアリー様、リュート選手、準備はよろしいですか!?』


二人は同時に頷く。両者、既に戦闘モードとなっており、闘気が溢れているかのようだ。


『両者、準備はよろしいようですね!それでは、スタァァァァトォォォオオッ!!』


ついに、最後の試合が始まった。





最初に動いたのは、意外にもメアリーだった。彼女はバックステップでリュートと距離を取り、開始早々、魔法を放ってきた。


「……“影戦士(ドッペルゲンガー)”」


彼女の周囲に多くの影が浮かび上がる。全て、メアリーの足元から分裂したものだ。そして、それらの影はしだいに形を変え、メアリーそっくりの影の戦士ができあがった。その数、なんと20。


その影のメアリーたちは一斉にリュートへと襲いかかる。リュートは初めて見る魔法に驚きながらも、大剣でもって応戦する。全方位からの影たちの攻撃を素早く大剣を動かすことで防いでいる。それは、さながら剣閃のみでできた壁であった。


しかし、どれだけ斬ったところで、結局は影なのだ。あまり意味は無いうえに、一体一体の影が、おそろしく強い。竜皇の分身であるため、本体ほどではないとしても、やはり、異常な強さを持っている。おそらく、この影たちのみで、一国の軍隊を相手にできるだろう。


「いい加減、めんどくさいな!」


さすがに面倒になってきたらしく、リュートの周囲を炎の壁で吹き飛ばし、影たちは全て消え去った。そして、今度はこちらの番と言わんばかりに攻撃を仕掛ける。


音速の速さでメアリーに近づき、上段から大剣を振り下ろす。ブオォンという風切りの音が、その威力を物語っている。


それに対してメアリーは左手を上げるのみである。まさか、素手で受け止めるつもりなのか!?と、誰もが思った瞬間、メアリーはつぶやいた。


「……“闇の吸引(ブラック・ホール)”」


メアリーの左手から闇が広がり、リュートの振り下ろした大剣と激突する。しかし、何も起こらない。このとき、異常を感じているのはリュートのみである。


「斬った手応えが……ない!?」


そう、大剣を振り下ろしたにもかかわらず、手応えがないのだ。普通、何かを斬れば手応えがはあるし、何かにぶつければ衝撃が手に伝わるはずである。しかし、リュートの手には、何も伝わってこなかったのだ。その後も何度も斬りかかるが、結果は同じだった。


そこでリュートは気づいた。


「まさか、この闇の靄っぽいのって、衝撃を吸収しているのかな……?」

「……そう。そして、放出もする」


メアリーが律儀に答えてくれた瞬間、彼女の左手にある闇そのものから、強烈な衝撃が発生、リュートをおそった。


「うわッッ!?」


おもいがけない衝撃に、逆に吹っ飛ぶリュート。仮面越しでわからないが、彼の目は驚愕で見開かれている。フードの所々が破れ、既にボロボロになっている。


ならばと思い、今度は「氷炎地獄(インフェルノ・ゼロ)」を放った。これもバルトの使っていた術なのだが、今のリュートは当たり前のように使った。


強大な魔力の込められた炎と氷がせめぎ合うようにメアリーに襲い掛かる。しかし、メアリーの左手の闇が大きくなり、今度は氷炎地獄をまるごと飲み込んだのだ。


「お返し、するね」


そして、またもやリュートの魔法が返される。いや、少し違うかもしれない。その「氷炎地獄」はたしかにリュートの放った魔法だが、そこにメアリーの魔力・つまり闇属性が追加され、さらに強力となっているのだ。


炎・氷に加え、闇の属性が加わった氷炎地獄(インフェルノ・ゼロ)。魔力も威力も増加され、もはや別の魔法へと変化していた。


それがリュートへぶつかり、大きな衝撃と振動が観客を襲う。まともにくらったように見えたリュートにさすがにメアリーも心配した。着弾地点へと近づくが、そこには茶色いローブの燃えカスしかなかった。


「……これは?――――ッ!?」


瞬間、後ろから気配を感じ、すぐに「影槍」を放った。しかし、気配の正体、リュートに簡単に防がれる。


そして、お互いに距離を取り、視線が合った。


そして、メアリーの目が、そして観客たちの目が見開かれる。


「お、おい……なんだあれ……」

「髪が……。あんな色、初めて見た……!」

「キレイ……!」


リュートのフードはもともとボロボロになっていたところに、今の魔法で完全に焼けきれてしまった。なんとか仮面は無事だったものの、リュートの銀髪が露になってしまったのだ。


「あなた……その髪……」


メアリ-は今日一番の驚きだったのかもしれない。本来はありえないはずの髪の色に、観客席からはなんだあれは!というような声が上がる。


しかし、二人だけが違う反応をしていた。一人は目の前にいるメアリーであり、何かを考えるような仕草をしている。もう一人はユスティだ。彼女は銀の髪を見て、なぜかは分からないが嬉しい気持ちになっていた。


「ん……今は、試合」


メアリーは考えを振り払うかのように首を横に振り、改めて試合に集中する。そして、またもや大魔法を放ってくる。


今度の魔法は“絶影・八蛇(ハジャ)”。


八匹の巨大な影の蛇が、メアリーの影から浮かび上がり、一斉に襲いかかる。その魔法に込められた魔力は、先ほどの「氷炎地獄」の比ではない。


「これはさすがに……まずいかも」


さすがのリュートも焦りを感じたらしい。そのため、リュートも新たな選択をした。


「ちょっと早いかもしれないけど、ちょうどいいかもね。アレ、使ってみよう」


その瞬間、リュートの方からありえないほどの魔力が吹き溢れ、その魔力量に観客にまで風が吹き出した。


それと同時に「絶影・八蛇」が消え去った。全員が「はあ?」と頭に疑問符を浮かべ、メアリーでさえわずかに目が見開いている。それだけ、今起こった光景が信じられないのだろう。


先ほどのメアリーと同じく、リュートの左手にもオーラのようなものが出ていた。メアリーと違うのは、そのオーラのようなものがリュートの髪色と同じ、銀色だったのだ。


「……それは、何?」


メアリーが聞いてくる。やはり気になるらしい。


「これは混沌魔法(カオス・マジック)だよ。僕のとっておきさ」


そして、銀のオーラは手から大剣に移り、さらに輝きを増す。その輝きは、どこか神々しさと恐ろしさの二つを感じさせる、なんとも言えない光だった、


「じゃあ、これは?」


ならば試しに、ということで、メアリーは「月影・閃」を放つ。縦に振り下ろされた手刀からは大きな闇の刃が放たれ、地面をガリガリと切り裂きながら、リュートへと直進する。


もう少しで当たるかと思われた瞬間、リュートは大剣を横に一閃、やはり、メアリーの魔法は消えてしまった。


リュートの本来の属性である「混沌魔法(カオス・マジック)」は、全ての属性の源ともいえる属性。その特性として、この銀のオーラに触れたものを全て、「消滅(・・)」させてしまうのだ。


銀色のオーラについては、竜皇にはそれぞれ司る属性があるように、すべての属性を操る龍神の属性が「混沌(カオス)」なのだ。


「……やっぱり」


メアリーは何かを納得した様子で、一気にリュートへと接近した。警戒し、腰を落として身構えたリュートだが、驚いたことに、メアリーは何もせず、耳元で囁くように言った。


「あなた――――――龍神様?」

「なッ!?」


今度はリュートが驚く番だった。なぜそれを、と聞こうとするが、既にメアリーは離れていた。しかし、その表情から完全にバレたことが読み取れる。


「――仕方がないですね。今は試合に集中しましょう。その件については、また後でということで」


メアリーは少し考える素振りを見せ、こくん、と頷いてくれた。そして、二人は同時に地面を蹴り、フィールドの中央で相対する。


リュートは刀で斬り、メアリーは躱す。メアリーが闇の魔法で弾丸を放ち、リュートが斬って消滅させる。時にステップを踏み、時に体を回転させての回避行為。


ただそれらを繰り返すだけの、単純な闘い。


黒の髪が、銀の髪が、中央でまるで踊るかのように揺れる。


黒の軌跡が宙を舞い、そこに銀の剣閃が重なる。




この闘いを名付けるとしたら、『銀と黒の舞踏会』がいいだろう。




二人は闘いの最中、仮面越しでありながらも、視線が重なった。わずかに笑う二人は、心からこの闘いを楽しんでいる。


二人がまるで踊るような光景は、ただただ美しく、幻想的であった。この光景を見ていたすべての人々が、息をすることも忘れて魅入っている。


「キレイですわ……」


もちろんユスティもその一人だ。彼女は自分でもわからないうちに、その光景に涙を流していた。そのため、誰もがユスティに近づく背後の者に、気づかなかった。


その者は、背後から気づかれぬように近づきユスティの口に何か布のようなものを押し付けた。



「ムグゥ!?」




ついにバレちゃいました。リュートの正体!

そして、マジで空気を読まない奴等がやって来ました。


今後どのように関わっていくのか、お楽しみくださいね!

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