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大会4日目・決勝、そして・・・

「お前たち。今日はいよいよ任務遂行の日だ。失敗することは許されん。いいなッ!」

「はッ!!」


隊長とその部下たちは、例の森で作戦の最終確認を行なっていた。今日はユスティ姫を誘拐することが目的であり、任務遂行のその瞬間を今か今かとまっている。


その時、森の奥からズズゥゥン!という地響きと共に、巨大な影が姿を現す。それは、数十体もの飛竜だった。ただし、様子がおかしい。全匹、体表がひび割れのような状態であり、目が逝っている。


「隊長、これはどういうことですか?何やら様子がおかしいようですが……」

「これは我々の祖国、帝国の技術開発部が開発したもので、『操獣リング』というものだ」


そう言って、隊長は大きな黒いリングを見せる。


「このリングに魔力を流すことで、大きさを自由に変えられるらしい。これを首に取り付けることで、魔獣を操ることができるのだ。まあ、全てという訳ではないがな。飛竜ならなんとか操れるらしい」

「す、すごい!確かにこいつらがいれば、作戦の成功は確実だ」


沸き立つ部下たち。飛竜とはいえ、竜種を操れるというのはそれだけで大きな力なのだ。


(ふん、浮かれおって。向こうには黒皇竜がいるのだ。そう簡単にいくわけがないというのがわからんのか?)


部下たちが飛竜の登場に浮かれている中、隊長は冷静に考え、そんな部下たちに呆れを見せている。


「とにかく、油断はするな。たとえ飛竜どもがいるとしても、結局は我々自身の行動しだいであることを忘れるな!」


最後に一括し、再び任務遂行の時を待つ。









 ***


「もう決勝か……いよいよだな」


リュートは今、フィールドまでの通路を歩いている。これから決勝が行われるのだ。外は既に盛り上がっており、シューベントの一言一言に歓声が上がっている。


「よし……行くかッ!!」


そしてリュートは、光の指す入場口へと足を踏み出した。








 ***


『おお~~っと、出てきましたぁ!まずは冒険者Aランク、氷と炎の魔法を操る精霊術士、バルト選手!!』


そして、バルトが入場口から出て来た。その瞬間、観客席から大きな声援が飛ぶ。主に女性が多いようだ。


『そして、次はこの選手!フードと仮面で怪しさ満点!Fランクの冒険者にも関わらず、その強さは怪物級!万能タイプのリュート選手!!』


今度はリュートが出て来た。彼の場合、黄色い声援よりも野太い男たちの声が圧倒的に多い。一体何故だろうと考えつつ、肩に精霊を乗せたバルドと対面するリュート。



『それではいきたいと思います!決勝戦、バルトVSリュート戦!スタァァァアトォォォオオッ!!』


ワァァァアアッ!!


地鳴りのような歓声と共に、試合が開始された。最初に動いたのは、バルドであった。


「君の強さは見ていた。最初から全力でいかせてもらう!」


そう言いつつ、バルトは氷の槍×15をいきなり発動、発射させる。15もの氷の槍はまっすぐ進むのではなく、縦横無尽に進み、リュートに襲いかかる。


普通ならその鋭利な先に驚き、慌てる事だろう。しかし、リュートは落ち着いて対処する。


「僕が見たいのは、それじゃないんだよなぁ。――“火炎の城壁(フレア・ウォール)”」


その瞬間、リュートの眼前に巨大な炎の壁が生まれた。その範囲は広く、ほとんどの氷の槍が溶けて消え去った。しかし、後方から襲いかかる数本の槍がある。


「どうだッ!」


そういいつも、無駄なのは分かっているのだろう、次の魔法の詠唱にかかっている。事実、リュートは大太刀を取り出し、まとめて斬った。


「さて、次は……ッ!?」


次はどんな魔法を見せてくれるのかな?そう言おうとしたら、目の前に今度は炎の波が迫ってきている。


「氷の次は炎か……」


楽しいのだろう。リュートの仮面の奥の目が、キラキラと輝いている。そして、そのまま今度は土の壁を生み出し、またもや防ぐ。


「なッ!?君も2属性持ちなのか!?」

「誰も火属性のみだとは言っていないよ」



(まずいぞ……。このままではこちらの分が悪い!まだ早いと思っていたが、これを使わねば勝てない!)


バルトはAランクということもあり、自分の魔法には自信を持っている。その魔法がことごとく、しかも簡単に防がれる。それが焦りを生み、ついに切り札の魔法を使う。


リュートは刀を持っているにもかかわらず、攻撃を仕掛けてくることがない。舐めているのか!?という怒りも、バルトの冷静さをさらに失わせる。


「くたばれぇ!“氷炎の群石(インフェルノ・メテオ)”!」


バルトが両手を上にあげ、一気に振り下ろす。その瞬間、上空に生まれた複数の氷と炎が混ざり合わさった大きな塊が、まるで隕石のように降り注ぐ。当たれば無事ではいられないだろうその威力は、確かにAランクといえる。


(これが今の私の全力だ……これなら倒せるはず!!)


この魔法には膨大な魔力を注いでいる。そのため、既にバルトの顔には大汗が流れている。だが、バルトは絶対に勝つという、強い意志を感じさせる目をしていた。


「この魔法……貰うよ」


しかし、リュートは笑った。それはとても嬉しそうな、そして獰猛な笑みだった。


「“氷炎の群石(インフェルノ・メテオ)”」


リュートは魔法の名を唱える。そして現れた魔法は、まさしく炎と氷の隕石だった。


「…………は?」


バルトの口から間抜けな声が漏れる。しかし、無理もないだろう。相手が放った魔法は、自分のとっておきであり、最強の魔法なのだから。


いや同じではない。魔法、数は同じでも、その威力が圧倒的にちがった。リュートの氷炎の群石(インフェルノ・メテオ)がバルトの氷炎の群石(インフェルノ・メテオ)を突き破り、そのままバルトに激突した。バルトは全力で魔法を放った反動なのか、それともショックからなのか、その場から動けなかった。直撃してしまったのだ。


巨大な衝突音と破壊音が王国中に響き渡り、軽い地震が起こった。それだけでこの魔法の、いや、リュートの魔法の威力がうかがえる。


やがて煙がはれ、そこにバルトはいなかった。そして、リュートのみが立っている。平然とした様子で。


そしてもう一つ、バルトがいた周辺には、大きなクレーターがいくつもできている。これらをまともにくらったバルトは、いろいろ大丈夫なのだろうか?古代技術のおかげで強制的に転移されているとは分かっていても、そう心配してしまうのも無理はないだろう凄まじさ。




『『…………は?』』

「「「「「「…………」」」」」」




会場はまたしても静寂に包まれる。今大会において、リュートの出た試合は全てが異常なために今回はあまり驚かないようにしていた彼らとしても、今の一撃が異常だとわかるようだ。


「―――――は、はは。あんなのありかよ……」

「あいつ、なんでFランクなの……?」

「……てか、あのリュートって選手、この大会で本気出してたか?」

「わかんねぇ。もう何がなんだか……」


一方、司会の二人はというと。


『……こ、これは……やはりというか、なんというか……まあとにかく、リュート選手の勝ちです!どうでしょう、カルニアさん!』

『……』

『カ、カルニアさん?息してませんよ!?』


あまりの光景に、息をすることも忘れていたらしいカルニア。しかし、シューベントが肩を揺らしてくれたおかげで、なんとか再び呼吸を始めた。


『ハァハァ……あ、ありえないですよアレ!彼が3属性も操れることもすごいですが、何より相手の使った魔法と同じ魔法を、相手よりも遅く発動させたんですよ!?尚且つ、相手の魔法よりも強力なのを!というか彼、精霊術士じゃないですよね、なんで反性の属性を扱えているんですか!?もうひとつ言うと、なんでリュート選手はピンピンしているんですか!?』


おそらく一番驚いているのはカルニアだろう。彼は宮廷魔法士である。そのため、リュートがどれだけ異常なのかがよくわかっているはずだ。


王国中を震わすほどの威力を持った魔法を、それも敵が使用した魔法を急造で使っておいて、全く疲れた様子を見せないリュート。さらに言えば、彼は聖霊魔法を使わずに反性の属性を扱った。これを異常と言わずしてなんと言うのか。


普段の冷静なカルニアは消え、信じられない、というふうに次々に言葉を掃き出し、叫ぶ彼に、シューベントや観客は更に驚いた。


ちなみにその頃、リュートは表情の伺えない仮面の奥で、冷や汗をかいていた。さすがにリュートもやりすぎたという自覚はあるらしい。


『と、とにかく!!優勝は、Fランクの冒険者、リュート・カンザキ選手です!彼には賞金、白金貨10枚がおくられます!』




ウォォォォォオオオオ!!!




今大会一番の歓声が起こる。若干ヤケクソ気味に聞こえるのは、驚きすぎてつかれたからだろう。


『それでは、ユスティ姫様による表彰に入り……入りません!!』


表彰に入るかと思った刹那、シューベントは否定し、カルニアが引き継ぐ。





『これより、優勝者であるリュート選手のエキビションマッチが開かれます。相手は、今回のメインゲスト!――――――黒皇竜、メアリー・レイド様ですッ』




その言葉を聞いた瞬間、会場中が呆気にとられる。しかし、一番はリュートだろう。そんな話は聞いていないのだから。


(ほ、本当に黒皇竜と戦えるの?いつかは直接会って話をしてみたいとは思っていてけど、まさかこんなに早く機会が来るとは……)


メアリーは黒皇竜であるため、属性は闇だ。六皇竜の一人であるため、魔法の扱いはうまいはず。リュートは内心、ワクワクしてきた。


『フィールドの修理と休憩を考えて、エキビションマッチは30分後に開始したいと思います。それまで、どうぞご自由にお過ごしください』


その言葉を皮切りに、観客はざわついてきた。黒皇竜と呼ばれるメアリーの闘いが気になるのだろう。六皇竜は強すぎるため、戦う姿など滅多に見ることはないからだ。







リュートは控え室に戻る。最初は104人もいた控え室なのだが、現在はリュート一人であり、若干寂しい。しかし、これからリュートが行うことは、この場所でするのが一番都合がいいのだ。


「さすがに黒皇竜と闘うとなると、弱体化をかけた今の僕じゃキツイかな?というわけで、弱体化の魔法は解いておこう」


リュートは丹田、つまりへその部分に魔力を込める。すると、へその部分に魔法陣が浮かび上がった。その魔方陣を握りつぶすような仕草をすると、魔法陣はあっけなく砕け散った。


その瞬間、彼の体から先ほどとは比べ物にならないほどの魔力が溢れた。すぐに魔力をコントロールし、落ち着かせるリュート。そして、嬉しそうにつぶやく。


「これで準備は整った。彼女が相手なら、僕も全力が出せるかも、だね」





はい、ついに優勝しました。リュートはやはり、異常なのです。


次回は黒皇竜とのエキビションマッチ。実は、大会云々よりもこっちを書きたかったのです。

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