大会1日目 A・B
『では、そろそろ始めたいと思います。予選Aグループバトルロイヤル、かぁぁぁぁいしぃぃぃぃいいッ!!』
司会のシューベントにより、最初の戦いが始まった。
その瞬間、フィールドからは野太い雄叫びとともに、選手たちは近くの相手に切りかかり、殴りかかる。
獣人はその驚異的な身体能力をフルに活用する。スピードで翻弄し、パワーで力任せに切り倒す。
エルフは高い魔力からあらゆる魔法を繰り出し、一度に多くの敵を吹っ飛ばす。中には精霊を召喚し、強大な精霊魔法を放つエルフもいる。
ドワーフは恐るべき力によって大きなハンマーやバトルアックス等を振り回している。ドワーフ特有の小柄な体型に油断し、近づいた瞬間潰される者も多数いる。
これらの種族はそれぞれ似たような戦い方をしているようだ。しかし、人族はちがった。
人族は特出した能力を持っていない。その分、あらゆる戦法を使うことができる。
『おおーっと!開始早々、白熱した試合だぁ!これは期待がもてますね!カルニアさん!』
『そうですね。ですが、まだ始まったばかり。大会はこれからです』
「おらぁぁぁぁぁああ!!」
「くたばれぇぇぇぇぇええ!!」
「勝つのは俺だぁぁぁぁああ!!」
フィールドでは男たちの気合とともに、激しい戦いが続いている。
剣が、拳が、斧が、魔法が。フィールドのあちこちで繰り広げられている。この場限りのチームを組む者たちや、周囲のものを手当たり次第に潰していく者など、バトルロイヤルらしい様々な戦い方が見られる。
「ぐあああッ!」
「ちっちくしょぉぉぉぉおお!!」
『おお!徐々に敗者も現れているようです!』
『そーですね。一見、魔法使いが有利に見えますが、彼らもスピードで翻弄されて、魔法があたっていません。一概に誰が有利か、などはまだ言えませんね」
『初めて解説らしいこと言いましたね!カルニアさん!』
そうこうしている間に選手はどんどん減っている。60、50、40。始まって既に30分以上がたってる。
フィールド内の選手はもう最初の半分をきった。
「くッ!仕方がない」
そして、一人の人族が精霊魔法を放った。水色の髪から、おそらく彼は水属性。しかし、彼はこの後、信じられない技を放ってきたのだ。
彼の前に赤い小さな人形のようなものが現れた。火の精霊らしい。彼の周囲を一気に燃え上がらせ、一度で十数人もの選手を脱落させた。
『一気に脱落!?あの魔法は一体なんでしょう、カルニアさん!』
『あれは……火の精霊ですね。人族が精霊と、しかも中位の精霊と契約しているなんて……彼は高位の精霊魔法士らしいですね。是非、うちの魔法師団に欲しいです』
『おおッと!まさかの高評価!!彼は思った以上にすごい選手のようですね!』
『選手名簿によると、彼の名前はディアント・A・スレイン。スレイン侯爵家の長男のようです』
彼は貴族のようだ。説明している間にも、ディアントは精霊魔法で相手を蹂躙している。彼の魔法に抵抗できる選手は居ないようだ。
しかし、彼の表情を見る限り、余裕というわけではないらしい。どうやら精霊魔法もフルで使えるわけではないようだ。
最後の一人を倒し終えた頃には、膝をついて息を切らせている。
Aグループの勝者は彼のようだ。
『ついに決着!勝者は、ディアント・A・スレインだぁぁぁぁああ!!』
『素晴らしい闘いでしたね。惜しかった選手も多かったですか、この負けをバネに、精進して欲しいです』
「キャァァァッ!ディアント様ぁ!」
「スゲー魔法だったぜ!」
「かっこいいぃぃ!」
ディアントに対し、観客からたくさんの声援が飛ぶ。女性の比率が多いのは、彼がそれなりに整った顔立ちだからだろう。
『黄色い声援が羨ましいッ!ですが、それも納得の強さです!』
『ともかく、午前はこれで終わりです。1時間の休憩を挟み、午後からBグループの試合です』
***
「すごかったなぁ」
「かっこいい!ディアント様」
「精霊魔法とか、俺初めて見たよ!」
観客たちは未だに試合の熱気が抜けないようだ。お互いに感想を言い合っている。上の席では貴族たちも少し興奮しているようだ。
「どうやらご子息が勝ち進んだようですな」
「スレイン家も安泰ですな」
貴族たちがこぞって一人の男に祝いの言葉を並べる。その男こそディアントの父であり、現スレイン家当主、ディール・A・スレインである。
「まだまだ、次期当主としては足りませんな」
言葉ではそう謙遜しているが、内心鼻が高いディールである。国を挙げての大会で予選を通過するというのは、それだけで大きなステータスとなる。貴族の出であれば、その家にも名誉がつくのは当然だ。
「まあ、このまま優勝でもしてきてほしいですな」
そして笑うディールと周囲の貴族たち。彼らはディールが優勝すると信じているようだ。
***
『みなさん、休憩はもうよろしいでしょう!そろそろ午後の試合が始まります!』
『実は次のBグループ、魔法使いが多いらしいです。私としては、この試合が一番楽しみですね』
『なるほど、それはまた、激しい闘いになりそうですね!おっと、選手たちが出てきました!』
入場口からBグループの選手たちが出て来た。なるほど、確かに魔法使いが多いらしい。多くの選手が似たようなローブを着ている。
おそらくこの試合は、魔法戦になるだろう。
『それだは、観客のみなさんも待ちきれないようですし、そろそろ始めましょう」
『では!予選Bグループバトルロイヤル、かぁぁぁぁいしぃぃぃぃいいッ!!』
午前の試合とは違い、今回はそれほど気合の声は聞こえなかった。そのかわり魔法の詠唱の声があちこちから聞こえてくる。
しかし、選手全員が魔法使いな訳ではもちろんない。戦士は詠唱の隙をついて、魔法使いたちを倒していく。
負けじと詠唱を終わらせた魔法使いたちが、己の得意な魔法を発動する。
魔法と魔法がぶつかり合い、魔法で戦士がやられ、剣で、拳で魔法使いが倒される。
『すごい、これはすごい闘いです!フィールドのあちこちで魔法が飛び交う中、数少ない戦士たちも応戦している。これほど激しい闘いを見るのは初めてではないでしょうか!?」
『これはかなり見ごたえがありますねぇ。……おや?』
どんどん選手がリタイアしていく中、二人の男が一際目立っていた。
一人は素早い動きでフィールド内を駆け回り、魔法を躱しては目にも止まらぬ速さで敵を斬る狼の獣人。
一人は火と氷、反性であるはずの二つの属性の魔法を同時に繰り出し、攻守共に隙がないエルフ。その肩には、小人ほどのサイズの青い人形のような少年が腰かけている。
そうして二人は危なげなく敵をどんどん脱落させていき、いよいよ残るはこの二人のみとなった。
つまり一騎打ちである。
『ッ!?2つの属性を、それも同時にですか……!』
『もう一人もすごく早いです……。せ、説明しますね!素早く動く選手はフウヤ!なんと、Aランクの冒険者です!その目にも止まらぬ動きから、疾風の二つ名がついています!もう一人の火と氷の魔法を使う選手は、これまたAランクの冒険者、なんと、本日二人目の精霊魔法の使い手、氷炎のバルトです!』
「すげえな……ふたりともAランクなんて」
「マジかよ……まさかもう一人精霊魔法使えるやつがいたとか……!」
「私知ってる!信じられないくらい速いらしいよ!」
「俺も!」
「どっちが勝つかな!?」
観客たちもさらに盛り上がっていく。その上では、貴族たちが彼らをどうやって取り込むかを考えている。やはり実力がある者は欲しいらしい。特に、片方は精霊使いとして二つの属性を操れる者だ。実力的にも、希少の度合いにしても、手に入れれば知名度は上がるだろう。
「「「おおッ!!」」」
どうやら試合が再び動いたらしい。先に動いたのフウヤだ。
「いくぞオラァァッ!」
一瞬でバルトの前に踏み込み、双剣で素早く二連撃。誰もが彼の踏み込みを認識できなかった。消えたように見えただろう。
ようやく気付いたのは、フウヤの双剣がバルトの周囲に展開されている氷の結界にはじかれた時だった。
「――――チィっ!」
「そう簡単にはやられんよ。次はこちらの番だ!」
「――“火炎連弾”」
バルトの突き出した右手に炎の球体がうまれ、そのままフウヤめがけて発射された。即座に距離を取るフウヤ。「連弾」とついている通り、何発もの火球がフウヤを襲う。しかし――
「そんなもん喰らうかよッ!」
フウヤは持ち前の素早さで躱し続ける。未だに一撃も当たってない。だが、どうやらフウヤも近づけないらしい。
このままでは、バルトが先に魔力切れを起こすか、フウヤが先に体力切れを起こすかが勝敗を決める。誰もがそう思っただろう。
しかし、そうはならなかった。
連弾の一瞬の隙をつき、双剣の片方をバルトめがけて投げたのだ。虚をつかれたバルトは思わず避けてしまい、体制を崩す。
魔法が途切れ、一気に踏み出すフウヤ。
(これで終わりだ!――――――なあッ!?)
残りの片方で斬りかかろうとした瞬間、バルトから大きな魔力が膨れ上がるのを感じたフウヤ。彼の肩に乗っている小さな精霊が、薄く微笑んだのをフウヤは見た。すぐさま方向転換しようとした瞬間、フウヤは盛大にこけた。
「ふぎゃッ!……な、なんだ!?」
見ると、フウヤの足が凍っている。
実は、バルトが体制を崩したのはわざとであり、フウヤを誘うための罠だったのだ。来るとわかっていれば、対策はしやすい。
計画通り、隙ができたと考えたフウヤがバルトに接近したため、あらかじめ用意していた氷の魔法を発動、フウヤの足を凍らせた。
フウヤはバルトの罠に、見事に引っかかってしまったのだ。
「終わりだ。“氷炎地獄”!」
「なあ!?う、う、うわああああああ!!」
ドガァァァァァアアア!!!
バルトの持つ中で最強ともいえる魔法を放つ。うまく動けないフウヤはまともに食らってしまい、一撃で脱落してしまった。
無傷のはずのAランク冒険者を一撃で倒してしまう魔法。その威力は尋常ではなく、炎と氷がせめぎ合うその風景は、まさしく地獄であった。
ともかく、これで勝者が決まった。
『つ、ついに決着ぅぅう!!死闘を制し、見事勝利を掴んだのは、氷炎のバルドだぁぁぁ!!』
〈ワァァァァアアアアアッ!!〉
『フウヤ選手も強かったですが、バルド選手はさらに強かった!そーゆうことですよねッ!さすがは精霊魔法の使い手ということでしょうか、カルニアさん!!」
『そうですね。最後の魔法、あれは混合魔法ですね。ディアンテ選手に引き続き、まさかバルト選手まで精霊と契約しているとは……。高度な技術を必要とする魔法ですよ、あれは』
珍しいものを見た、とばかりに笑うカルニア。
『とにかく、これで一日目の試合が全て終わりました。明日はC・Dグループの試合です』
『明日もまた、我々を熱くさせてくれるでしょう!!ではみなさん!また明日、会いましょう!』
こうして、剣闘大会一日目が終了した。脱落した選手たちは悔しそうな、観戦していたた人々は満足そうな顔をしていた。
Aグループ勝者:ディアント・A・スレイン(精霊魔法士・水炎)
Bグループ勝者:バルト(精霊魔法士・氷炎)
今回頑張りました。
しかし、主人公以外の闘いって、書きにくいですね・・・




