大会前
現在、表通りは人で賑わっている。2日後にユスティ姫の誕生祭を控え、連日人が増え、屋台の準備も始まっている。
普段はギルドの受付嬢として毎日働いているミーナだが、この日は久しぶりの休日であり、表通りにて買い物中である。
ギルドではあまり表情の変わらないミーナであるが、流石に休日になると気も緩むらしい。若干表情が優しく見える。
そんな時、ミーナはある人物が目に入った。その人物は異様な格好であり、ミーナ以外の人々もその人物を見ている。その目には少々怖れが見えている。
その注目の人物は茶色い大きなローブを着ており、フードを目深くかぶっている。顔はよく見えないが、何やら銀の仮面のようなものが顔の上半分をおおっているようだ。
どうやらミーナの方へ向かっているらしい。やがて、ミーナの前で立ち止まった。そして――――
「こんにちは、ミーナさん」
ミーナに声をかけてきた。その声はミーナが最近聞き慣れたばかりのものであったため、なんとなく予想がついた。
「リュート……さん?」
その怪しい人物は、異例の新人冒険者、リュート・カンザキであった。リュートは仮面とフードを取り、ミーナに素顔を見せる。相変わらずの美青年っぷりであり、周囲は異様な格好の正体がめったにお目にかかれないような美青年であったことに驚きを隠せないようだ。
「ミーナさんは買い物中?」
「ええ、まあ。……それより、その格好は一体?」
「ああ、これは昨日カナさんが教えてくれたんだ」
「カナが?」
どうやらカナの入れ知恵らしい。
――――昨日の冒険者ギルドにて
「お疲れ様っ。リュートくん」
ここは冒険者ギルドの受付。リュートが午前中に依頼を終え、サイン付きの依頼書をカナに渡しているところだ。笑顔と共に報酬をリュートに渡し、カナは話を切り出した。
「ところでリュートくん、剣闘大会に出るんだよね」
「へ?もちろん出るけど……」
どうやら数日後に行われる剣闘大会についての話らしい。疑問に思いつつも、リュートは話を聞くことにした。
「リュートくんの銀の髪って、すごく珍しいじゃん?それに、リュートくん自身もすっごい目立つし」
それはそうだろう。リュートの髪は大陸中に一人しかおらず、珍しいどころの話ではない。さらに、リュートは絶世の美男子である。
今回の大会はユスティ姫の誕生祭も兼ねているため、シュベリア王国内の国民だけでなく、同盟国からも観客がくる。シュベリア王国が三大国の一つというのは伊達ではなく、多くの観客や貴族が来る。シュベリア王国に至っては、王族がそろって見に来るらしい。
その昔勇者が開発した映像魔法具というものがあるらしく、それで国中に放送されるらい。リュートは確実に目立つだろう。貴族たちの目に留まるのは確実である。
「だから、どーにかして姿をごまかさないといけないと思うんだ」
「なるほど……。でも、どーやって?」
「それはね……」
カナはリュートにその方法を話す。その方法とは、フードと仮面を身につける、それだけである。それが一番手っ取り早く済むらしい。
「なるほど……それは面白そうだ♪」
「でしょッ♪」
納得してしまった。リュートは前世の頃から興味をもったものには手を出す性格だった。どうやら正体を隠すということは、彼にとって興味の対象となったらしい。
「もうすぐ祭りでしょ?もう屋台を出してるところも多いから、仮面もフードも適当に探せば見つかると思うから」
「わかった、探してみるよ」
そう言ってリュートはギルドを出て行った。
「……ムフッ♪」
その後ろで、カナが悪戯が成功した子供のような顔で笑っていたとも知らずに……
「そうですか、そんなことが……」
リュートら話を聞き、ようやく納得するミーナ。
「それでそんな格好を……。本当にあったんですか?」
「まあね。今日は着心地を確かめてるんだ」
相変わらず、リュートは周りの視線を意識していないらしい。もはや感嘆してしまう図太さである。
「まあ、その格好はともかく、正体を隠すというのは私も賛成です、リュートさんは確かに目立ちすぎますからね」
どうやらミーナも賛成らしい。
「そうだ、リュートさん。私、大会ではリュートさんを応援しますからね。優勝は難しいでしょうが、頑張ってください」
そう言って微笑むミーナ。その笑顔は普段は無表情なだけに、とても美しく見えた。クールな女性の微笑は現在、リュートに向けられている。
そのリュートといえば――
「ッ!?」
珍しくも動揺し、ミーナに見惚れたらしい。それだけ今のミーナは美しかった。
「じゃ、じゃあもう行くから」
「はい。試合、頑張ってくださいね」
そう言ってミーナはまだ微笑んでいる。リュートは心臓の鼓動が飛び跳ねたかのようになり、自分の状態に疑問を持ちながらも、その場を離れた。
そうしてさらに店を巡る事一時間。多くの屋台から香る、食欲を挑発してくる料理の匂いに何度も負けそうになりながらも、あまり金を使わないようにと決めていたリュートは、結局串焼きを三個買うだけにとどめた。
そんな中、リュートはあるものに目を惹かれた。
そこは、露天販売、日本ではフリマとも言われそうなほど、多種多様なものを売っていた。
古ぼけた食器や服、果物なども売っていたが、言ってだれも足を止めてみる事さえしていない。はっきり言って、ただ場所を過剰に捕っているだけの邪魔でしかない。
しかし、そんな中で一つ、大きな剣が壁に置かれていたのだ。気になってしょうがなかったリュートは、その露天を開いている男に声をかけてみることにした。
「すいません、この大きな剣ってなんですか?なんだか奇妙な形をしていますが……」
大きさはリュートよりも少し大きい程度だから、180~190ほどだろうか。全体が黒で染まっており、片刃であること以外、特にこれといった特徴はない。しかし、この世界では両刃が主流。片刃など、見たことがないのだ。
「ああ、これかい?兄ちゃんも面白いところに目がいくね。これは、昔俺の知り合いの鍛冶師が造ったやつでね。切れ味と耐久度だけを意識した結果がこれらしい。ただ、材質やら製法やらが特異なもんばっかで、重すぎるんだよ。誰もうまく振り回せる奴がいないんだ」
見ただけではわからないが、下の方を見ると確かに少し地面にめり込んでいる。石で整理されているこの地面にめり込むとは、確かに相当な重さなのだろう。
「あの、その大剣持たせてもらえませんか?」
「はぁ?兄ちゃんがかい?やめとけやめとけ、兄ちゃんじゃ動かすことすらできねえって」
冗談だと思われたのだろう、しかし、リュートはその形状がすごく気に入っているのだ。一言男に「失礼します」と断りを入れ、大剣に手をかける。
「ほいっと」
そしてリュートは、重さを感じさせないほど軽々と持ち上げた。片手のみで。それを見て驚いた男と、見世物と思ったのか、いつの間にか集まっていた観客たち。
「……うん、重さもまあまあ良いし、やっぱり形がなんかカッコいいよね。というわけで店主さん、これいくらですか?」
「あ、ああ……いや、金は要らねえよ。もらってやってくんな」
「いいんですか?」
「ああ、それを造った鍛冶師も死んじまって、重すぎて移動もままならねえしよ。正直持て余してたんだ。むしろ、あんたみたいに普通に扱えるような奴が見つかってくれて嬉しいさ」
この剣を移動させるのに、一般の大の男3,4人は必要とのことだ。無料で人手を借りれるならいいが、そうじゃないほうが多い。その場合、この店の売り上げからして間違いなく赤字になるのだという。たしかに邪魔でしかない。
ということなので、リュートはありがたくいただいた。
とは言えリュートよりも大きいがために移動の際はやはり邪魔なので、残念ながらアイテムリングの中に収納することになったのだった。
良いものを手に入れた喜びで、仮面の男が鼻唄を歌いながら通りを歩く。はっきり言って、すごく不気味だということに本人は気づいていない。
祭り開始まで、残り2日。
***
王都から離れた、とある村。この村は数年前に廃れており、今ではもはや名も無き村となっている。ゆえに今はもう人がいるはずがない。
しかし、その村にはある集団がいた。彼らは皆同じ服装をしており、あきらかに怪しく、それでいてどこか不気味だ。
「隊長、祭り、しいては大会まで残り二日です」
「ああ、分かっている」
その中の二人が言葉を交わした。隊長と呼ばれた男がこの集団のリーダーらしい。「隊長」というからには、どこかに属しているのかもしれない。
「お前たち、もう一度確認する。俺たちの目的はシュベリア王国第二王女・ユスティ姫の誘拐だ。」
「手順を説明する。大会最終日、優勝者へ賞金とトロフィーを授与するのはユスティ姫らしい。これは密偵からの情報ゆえ、確実と言っていいだろう。ユスティ姫が出てきた瞬間、アレを投入する」
「ッ!アレをですか!?」
その瞬間彼らは驚きを隠せず、つい聞き返してしまう。隊長と呼ばれた男は気にせず、話を続ける。
「アレを投入すれば、たとえ優勝者たちのような強者でも、ある程度時間を稼げるだろう。それに、観客や貴族たちは必ずパニックを起こす。その騒ぎに乗じて、我々でユスティ姫を誘拐・即座に脱出する」
そして、最後に一喝。
「いいか!この作戦は絶対に失敗は許されない!確実に任務を成功させろ!わかったか!!」
「おおッ!」
彼らは皆、暗躍することでのエリートばかりで構成されている。これまでも任務に失敗はなかったし、今回は切り札まで投入される。
失敗するなど、微塵も思っていないのだろう。
しかし、彼らは知らない。その大会にはイレギュラーすぎる男が出場することに。
皆さんに質問です。
現在私は、2千~3千ほどを目処にこの小説を書いています。このくらいの方がサクサク読めて良いという意見があります。
しかし、もう少し長く、具体的には4千~5千ほどがいいという意見もあります。
私はどっちにすればよいでしょうか?よければ意見をお聞かせください。




