赤竜の安らぎ亭
白金貨=金貨100枚=1000000円(百万円)
金貨=銀貨10枚=10000円
銀貨=銅貨10枚=1000円
銅貨=100円
ギルドを出たリュートは、宿を探し始めた。すでに夕暮れになっているため、寝床を確保しようと思ったのだ。
「宿ってどこだろう?ギルドでミーナさんに聞いておけばよかったなぁ」
と、そんなとき、一つの看板が目にはいった。「赤竜の安らぎ亭」と書かれた看板には横に赤いドラゴンの絵が描かれていた。
リュートはその名前の店に興味がわき、入ってみることにした。
「すいませーん」
「あいよッ。お客様かい?……おやまぁ、なんだい?その髪は。えらく綺麗だねぇ」
「これは生まれつきです。それより、表の看板って、どーゆう意味なんですか?」
「ああ、あれはねぇ。旦那が言うには昔、赤皇竜様が泊まってくれたらしいんだよ。その記念ってことで、あの看板にしちまったんだ」
「てことは、やっぱりここは宿なんですね?やっと見つけられた」
明らかにホッとした表情のリュート。その表情が、彼がこれまで探し続けていた苦労が感じられる。
「お泊まりかい?なら、一泊夕食、朝食付きで銀貨一枚、一週間で銀貨5枚だよ」
「じゃあ1週間で。それよりも一泊銀貨一枚って安くないですか?」
「うちは飯はそれほど美味いわけじゃないからね。ほとんど寝る場所を貸してるだけって感じなのさ。ああ、あたしはダナって言うよ。夫と二人で経営してるんだ」
そう言って豪快に笑うダナさんは、恰幅のいいお母さんのような人だ。親しみを持ちやすく、おそらく人に好かれるタイプなのだろう。
「僕はリュートです。よろしくお願いします」
「あいよっ!夕食は7時からだから、その頃には降りてきな」
彼女に言われ、リュートは階段を上がろうと足を上げかけた。しかし、ここでリュートは聞き捨てならないことを耳にした。
「7時?あの、もしかして時間って1日24時間でわけられてます?」
「そうだよ?古代文明の名残って言われてるけど、まあ本当の理由はわからないねぇ。まあ、別にどうってことないんだけどさ」
「そうですか……わかりました。ではダナさん、7時ですね」
リュートの部屋は、階段を上がってすぐ横にある。
リュートは階段を上り、あてられた部屋に入っていった。
***
「いや~、まさかこの世界の時間が地球と同じだったとはねぇ。古代文明って、西暦やら太陽暦やらを理解できる人がいたんだね」
ごわごわとしたあまり質がいいわけではないベッドに横になり、リュートは先ほど言われた言葉について考えてみる。
こういった地球との類似点を考えていると、いい思い出の無かった日本が無性に懐かしくなってしまうリュート。そんな自分が不思議でたまらない。
「まあ、昔と同じならわかりやすくていいし、そんなに気にすることじゃないかな」
無理に考えるのではなく、今あることをありのままに受け止めるリュート。こういった順応力の高さも、リュートの良いところだろう。
「それよりも、もう金が銅貨8枚しかない……」
そう、リュートはこの日一日で、銀貨8枚と銅貨二枚を使ったのだ。既に金欠である。
「服も買いたいのに……明日からギルドの依頼、頑張ろう!」
ちなみに、現在のリュートの服装はウンディーネにもらった、質素な服装、有り体に言えば、どこにでもいる村人の格好のままだ。ウンディーネがもっといい服を持ってこようかと言ってくれたが、これ以上彼女の世話になるのも気が引けたという理由で断ったのである。
綺麗な整いすぎる顔立ち、首下まである長めの銀の髪、リュートより小さい程度の長さの変わった形の剣、そして村人のような質素な服。
絶妙なまでのアンバランス感に、好奇の視線だけでなく奇異の視線も多かったのは仕方がないだろう。
服を買うために、依頼を頑張ろうと決意したリュートであった。
***
「いただきますッ」
今は午後7時を過ぎた頃であり、待ちに待った夕食の時間である。
メニューは乾いたパンと野菜のスープ、一個の果物のみである。
味もたしかに美味しいが、絶賛する程ではない。にもかかわらず、それなりに人が多いのは、ダナたち夫婦の人徳であろう。
「そうだ。せっかくだしここで小遣い稼ぎでもしようかな?」
そしてリュートがアイテムリングから取り出したのは、「ギター」である。
実は、リュートは前世にて、暇をまぎらわすために興味を持ったこと全てに手を出しているのだ。ギターもそのひとつである。
暇人ゆえに多彩な男なのだ。
もちろん地球の歌だ。リュートの声はそれほど大きくないにも関わらず、不思議と酒場に居合わせた人々全員に響き渡った。
彼らはリュートが歌う歌詞の意味をあまり理解しきれないだろう。エンダーゲイルの共通語で歌っているとはいえ、地球で生まれた歌なのだ。
しかし彼らは皆、リュートの声に、ギターの音色に、完全に聞き入っていた。
時に高く、時に低く、テンポを変え、リュートはいくつもの音程を巧みに使い分けて歌った。
ジャンッ!と弦を弾き、残響が酒場中に響き渡る。
計4曲を歌い終えたリュート。その顔には満足感が浮かんでいた。
しばしの静寂のあと、「赤竜の安らぎ亭」内は地響きと錯覚するほどの大歓声に包まれた。
「「「「「おおおおおおおッ!!!」」」」」」
「なんだよ兄ちゃん、今の歌は?」
「よくわからんけど、いい歌だってのはわかったぜ」
「もう一曲、もう一曲だけ歌ってくれねえか!?」
リュートは多くの客から様々な言葉をかけられる。リュートの歌は彼らを感動させることができたようだ。
「不思議な響きの歌だったねぇ~。あんた、吟遊詩人だったのかい?」
「いえ、吟遊詩人ではないですよ。ただ歌が好きなだけです」
「へえ、まあいいけどね。あんた、明日からもうちで歌ってくれないかい?」
「もちろんいいですよ。こっちもお金を稼ぎたいんです」
「じゃあ、僕はもう部屋にあがりますね。明日は仕事をしたいので」
そう言って、リュートはその場を離れた。彼がいなくなったあとも、酒場の中はまだ喧騒で賑わっていた。
こうして、リュートの王都での一日は終わりを迎えた。
ちなみに、リュートはもちろんその歌声とギターによる音楽をウンディーネたちにも披露したことがある。その時はウンディーネも一緒になって口ずさんでくれたり、動物たちが気持ちよさそうに鳴いていたりなど、小さな合唱会になった。
天にいくつもの才能を与えられたリュートは、この世界にてようやくその才能を発揮できるようになったのだった。
今回、リュートが歌う場面を書いてみましたが、ちゃんと表現できていたでしょうか?
正直、自信がありません。




