始まり
最初のあたり、けっこう改稿しました。何かあわないな、と思われる方は、どうんどん指摘をお願いします。感想もどんどんお待ちしております!
――かつて、世界は光に溢れた時代があった。
金は朝、始まりの光。
銀は夜、終わりの光。
二光は世界の中心に座し、常に世界の人間たちを見守っていた。
ヒトは光を求め、敬い、“神”として崇めた。
――かつて、世界に争いがあった時代があった。
金は銀を、銀は金を飲み込もうとする様は、この世の終わりを暗示させた。
山は砕け、海は裂け、大地に亀裂が走る。ヒトは抗った、生き残るために。巻き込まれない為に。
ヒトはその戦いを、“聖戦”とも“滅戦”とも呼んだ。
――ここに、ヒトの文明が、一つの時代が、終わりを迎えた。
――二光はその後、世界から消え去り、新たな時代が始まった。
――そこに、二光の姿も、記憶も存在してはいなかった……
***
日本のとある街、そこは、昼も夜も人と光で満ち溢れる空間。
その中の一つ、大きなゲームセンターの中に、彼はいた。
「兄ちゃん兄ちゃん!もっかい勝負しようぜ!」
「何回でもかかってきなよ。僕に勝てるならね」
いわゆる「格ゲー」というものの、通信機能を使った対戦中のこの男、名を「神崎龍斗」という。服装は高校の学ラン姿。背丈はそれほど高くなく、良いとも悪いとも言えない容姿である。
彼は、このゲーセンの中ではちょっとした有名人だった。
全てのゲームで対戦し、未だ負けなしなのだ。彼に勝てれば最強、そんな話も出ているほどである。
今日もまた、学校帰りに寄ったらすぐに知り合いとなった中学生たちと勝負をしていたのである。
「おりゃおりゃおりゃおりゃあッ!」
「フッ、まだまだ甘いね。これでも喰らいなよ」
「なあああッ!?ま、また負けた~~!」
画面に映るのは「K.O」と「YOU WIN」の2つ。得意げな龍斗と悔しそうに地団太を踏む男の子という、いつもの構図が出来上がった。
勿論、これで終わりではない。次の挑戦者が現れたのだ。当然龍斗は受ける。
「懲りないね、君も」
「当然だろ!あんたには絶対勝つんだからな!」
レディーファイト、戦いが始まる。慣れた手つきで操作し、徐々に優勢となっていく龍斗。反対に、挑戦者の方は必死になっている。
このまま、またもや龍斗が勝つんだろう、そう観客が思ったとき。
――――ゾクリ
「――――ッ!?」
誰かの視線を感じた龍斗。鋭く、強烈な何かを感じさせるそれに、背中が震え、思わず手を止めて周囲を見回す。しかし、その時にはもう感じず、誰の者か特定できなかった。
「よっしゃあああああ!」
「えッ?ああッ!?」
その一瞬の隙を見逃さなかった挑戦者は、必殺技を繰り出し、ついに、龍斗に対する初の勝者という快挙を遂げた。
周囲から歓声が沸く。嬉しそうに跳び上がり、周りに手を振る挑戦者と、がっくりと肩を落としすチャンピオン。
「次ッ、次は俺がやるぜ!」
「よしきた、次は負けない……ありゃ、もう100円が無いや。ごめんだけど、今日は帰るね」
「ええ~~~ッ、そりゃないぜ~~~……」
明らかに気を落とす挑戦者と、申し訳なさそうに謝る龍斗。今日は、これでお開きとなった。
「なんだったんだろう、さっきの視線……」
一つの疑問を持ちながら、龍斗は帰路に就く。
***
――――ゾクリ
「――うわッ、また感じだよ。今日で何回目だろ?」
あの日以来、たまに感じる鋭い視線。もはや慣れてしまったその視線に、龍斗はだんだん気にしなくなっていった。これほど多くては、それも仕方がないだろう。
現在は彼が通っている高校の、もはや封鎖されているはずの旧校舎の屋上。周囲を見れば街の風景しか見えない為、誰かに見られているはずがないのだ。これも、龍斗が気にしなくなった理由の一つだろう。
封鎖されているはずのこの場に何故、龍斗がいるのか。それは、彼が何故だかピッキング技術を持っているからだ。何故持っているのかは、突っ込まないでもらいたい。
校庭から聞こえてくる、一定の感覚で鳴る笛の音と、生徒たちの声。体育の授業中なのだろう。完全にサボりである。
「はぁ~~……ゲームには飽きたし、漫画もラノベも、読みたいものは一通り立ち読みしたし、僕には友達もいない。これから何をしていこうかな……」
世界のすべてがつまらなく見える、それは、彼に何かが満たされていないからだろう――もしそう言われれば、龍斗は間違いなく納得する。
ゲーセンに通っているのは、少しでもそんな自分の渇きを潤すため。しかし、帰り道はいつも、元に戻ってしまう。
何かが違う、何もかもが面白くない。そう感じている彼は、最近考えることが多くなっていた。
「もう、何でもいいから僕の近辺で、事件でも起きてくれないかな。そうすれば、何かが変わる気がするや」
フェンスに寄りかかり、青空を見上げながら、ふと口に出す。それは、本当に、ただの思い付きで言ってみただけの言葉だ。もちろん、本当にそんなことが起こるなどと思って言うわけではない。
しかし、神がいるというのならば、そんな思い付きを叶えてしまった。
――パキン、バキッ、バキバキッ。
何かが壊れる、そんな音がした。かと思うと、次の瞬間には龍斗の体は宙に浮いていた……のは一瞬で、すぐに重力に従って落ちていった。
人は、死ぬ瞬間世界がゆっくりと動いているように見え、走馬灯が見えるという。龍斗は初めて、それを実感していた。
(しかし、なんとまあ、つまらない記憶しかないね、僕って)
落下中にもかかわらず、そんなことを考えてしまう。
生まれつき施設で育ち、里親に預かられてからもどこかよそよそしさを感じ、家族とは言えなかった。
友達も作らず、ただただ流れに逆らわずに生きてきた毎日。
そんな記憶を見せられても、何の感情も浮かんでこない。
その瞬間、ドン、という激しい衝撃と鈍い激痛が全身に走った。
「きゃーーーーーーッ!?」
「ひ、ひとが、おちッ――!?」
「だれか、せんせぇ―――ッ!」
耳に残る、つんざくような悲鳴。視界に映るのは、自分の血と腰を抜かす生徒たちの表情。不思議なことに頭はスッキリとしており、痛みを感じなくなっていた。そのせいか、死に対する恐怖というのを感じなかった。諦めたと言えるかもしれない。
そんな時、声が聞こえた、気がした。
「――――――オ、マ――ワ――キ、ウ――」
ノイズが走ったようなそれを最後に、龍斗の意識は闇に包まれた。
――享年17歳。神崎龍斗はこの日、短い一生を終えた。
***
暗闇の中、彼は目を覚ます。
「…………あれ?えー、と……僕って死ん……え?」
何が起こったか理解できない、まさしくそんな感じだった。目をパチクリさせ、周囲を見回すもやはり暗闇の中。距離感を図るために手を伸ばしてみる。何かに触れた。意外と近くにあったようだ。
「……ん?あれ、僕の手って、こんな感じだったっけ?いつもよりもどことなく大きくて、ごつごつしているような……」
見えないのでわからないが、17年間使ってきた自分の手と違う、それはハッキリしている。さらに頭がこんがらがる中、仕方なく手探りを入れてみる。それで気づいたことだが、どうやらここは、何かの入れ物の中らしい。カーブがかっていることから、球体の箱のようなものだと推測する。
「なんでそんなものの中に……?誰か教えて……くれるわけないか」
はあ、とため息を吐いてしまう。心なしか、体が重い気もしてきた。
と、そんな時、一筋の光が入って来た。亀裂が入ったらしく、そこから光が漏れているようだ。
「やった!これで外に――――」
亀裂の入った箇所を力を込めて押してみる。すると、いとも簡単に割れた。まるで、鏡が地面に落ちて割れるかのように、パリンと。外に出られる喜びで、急いで外に顔を出す。
そして初めて見た外の景色は――――
――――きょとんとした、青い髪の美しい女性の顔だった。