前編
手を伸ばせば、いつかは届く存在だった。
なにせずっと一緒にいたのだから。
1
「これどうかな?」
可愛らしいスカートをひるがえして、くるりと回ってみせる愛梨。
その愛嬌のある姿は、彼女自身とても可愛かった。
「・・・いいんじゃない?」
「え、なにその間!沙織ってば、本当のこと言ってよー」
うーんと唸ると、なになに?とアドバイスを求めてくる。
「一成は清楚系がタイプだから、もう少しシンプルにした方がいいかも。」
「清楚系?でも私、そういう服持ってない・・・。」
「大丈夫。私の貸すから。」
「本当!?ありがと!」
嬉しそうに飛び跳ねる愛梨を見ると、どうしてもはしゃぐ子犬を想像してしまう。
これもまた、彼女の魅力なんだけれども。
「中井君、可愛いって言ってくれるかな・・・。」
はにかんだように笑う愛梨の頭を私は撫でた。
「言うに決まってるじゃない。だって今の愛梨すごく可愛いよ?」
「やだ、沙織。お世辞言ったってなにも出ないよ?」
「本当だって。」
愛梨は、一成と遊ぶ約束をしているらしい。
二人は付き合っていないが、いわゆるデートというもの。
その時に告白することを決めている彼女は、こうして私の家に来てファッションアドバイスを聞いている。お洒落にうとい私に聞いてもアドバイスになんかならないが、私を選ぶのは友達同士ということと、一成の幼馴染だからだろう。
「愛梨。」
「なに?」
「成功するといいね。」
一言そう告げると、愛梨はまた嬉しそうな顔をして微笑んだ。
「ありがとう沙織!」
言えない。
愛梨の恋は応援できないなんて。
付き合ってほしくないなんて。
実は、ずっと前から一成のことが好きだったなんて。
愛梨には、そんなこと言えない。