Ⅱ
ディアナがメイドのジュリアに持ってきてもらった紅茶を飲みながら二人でおしゃべりをしていると階下から何やら大きな物音が聞こえた。何事かと階段を降りるとそこには黒髪の青年を担いだ父の姿があった。
「ジュリア、部屋の用意を。あとトムを呼んでお父様の手伝いを頼みなさい。」
ディアナはそう指示すると薬箱を取りに二階へ階段をかけあがった。
*
男が目を覚ますとそこには見知らぬ天井があった。これがどこのものかはわからない。わかるのは、ここが上流階級の邸宅だろうということだけだ。
横になったまま周りを見渡していると、控えめなノックがして木の箱を抱えた女性が部屋に入ってきた。体を起こすと後頭部に激痛が走る。押さえた手の感触から頭に包帯が巻かれていることに気付いた。駆け寄った女性に男は頭を押さえたまま質問した。
「すまないが、ここがどこなのか教えてくれまいか?あと、あなたのなまえも教えてもらいたいのだが。」
「ここはラルドア王国王都郊外にあるライルズベリー伯爵領の伯爵邸ですわ。私はライルズベリー伯爵の娘のディアナと申します。あの、失礼ですがあなた様のお名前を教えてはいただけませんか?」
男はディアナの問いに答えようと必死で自分の名前を思い出そうとしていた。というのも彼は自分が何者であるかということがまったく思い出せないからである。
男がしばらく黙ったままでいるとディアナは突然ある男の名前を口に出した。
「もしかして、あなたはアルフレッドとおっしゃるのではありませんか?」