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姫と自由への道

ルリアは10日間、なんとかして少しでも自由を得るために舞踏会で繰り広げるある計画の準備をしていた。



ノーランド王国の女王の呼びかけでリヴァイア騎士団の対応を決める会議が開かれることになった。


会議に呼ばれたのは表向き「ノーランド王国の都市へのリヴァイア騎士団の侵攻に対して援軍を出してくれた」ホーリーレムレシア帝国構成国のジクセン、プロセリオン、バイローエンの各国で、彼らは嫌々ながらも参加することになっている。


ジクセンはノーランド女王毒殺に失敗してノーランドに弱みを握られ、さらに陰謀に誘ったプロセリオン王国から「持ちかけられた話と違う」とこれまた相当恨まれていて立場は最悪だ。


3国を歓待するノーランド側は、裏の思惑はとにかくとして、表向きは至って歓迎ムード一色だった。


国際会議には宴会が付き物で、そこでの客のもてなし方でその国のレベルが分かるもの。ノーランドも会議を主催する手前、かなりカネをかけた宴会を企画し、担当官は大忙しでほぼ連日徹夜している。


11月も迫ったある日、西のほうから続々とレムレシア帝国3国の代表者や使者が到着した。


宴会や舞踏会には会議に直接関係ない人も多く参加する。国際会議本体はほとんど出来レースだが、舞踏会は違って恋から陰謀まで、いろいろと飛び交う裏の国際会議に変貌する。


特に貴族の女性が正式に参加できる"国際会議"は舞踏会くらいだから舞踏会から国際問題に発展するような色恋沙汰もよく起こるものだ。



ルリアは閉じ込められた現状を少しでも変えるため、この舞踏会を利用することを心に決めている。


客というのは時として主の家族よりも家の中を自由に歩けることがある。客人はマナーと決められたことを守れば多少わがままは効く。


ノーランド王国の王城クラフトも例外ではなく、使用人から王族まで女王の顔色をうかがいながら厳しい規則と監視の中を生きているが客人は別だ。


このチャンスを生かすのだ。



プロセリオン王国は現国王の代理として長男、次男、三男を寄越す予定だったが、長男は体調不良を理由に欠席した。


というのもこの長男のゲオルグ・オッフェン王子は、リヴァイア騎士団が戦場を脱出する際にそれを迎え撃ち、相手の大将トブロクと戦い、派手に負けてしまって面目が立たないから仕方ない。


一応欠席理由が腹痛ということになっているものの、精神的にはしっかり本当に病んでいるに違いない。


長男の不甲斐なさで王国代表にされてしまったプロセリオン王国の次男と付き従う貴族は会議出席に胃が痛くなる思いだった。それを尻目に第三王子の三男ベルキス・オッフェン王子は見るからにウキウキとしていた。


「ルリア姫にまた会える!」と。そうこのベルキスは8月のルリア誕生日のとき、舞踏会でルリアと踊って以来、ルリアに一目ぼれしてしまい気持ちは今でも変わっていないのだ。


ルリアはこのベルキス王子を利用することにした。


前世は元男のルリアとっていかにベルキスがイケメンだろうと興味は薄かったが、一目ぼれしているということはもう分かりきっているし、短期間とはいえ協力を仰げそうで、しかも王城を自由に出入りできるのは今回の客であるベルキスくらいだ。


ルリアは計画実行の為に小さな紙を取り出して手紙を書いた。



それから間もなく、冬の空気が舞い込み始める季節、舞踏会は予定通り開催された。


会議1日目が終わるとお待ちかねの宴会と舞踏会。

夕方、赤くなった太陽が地平の向うへ沈むころ、代わって赤ら顔の人々が顔を覗かせる。


銀の皿に大盛りのフルーツが載り、たくさんの肉、パン、手の込んだ料理の数々が顔を覗かせる。ノーランドいちのシェフらによるシエルダンジュ風の料理が給仕らの手で次々と運ばれていく。


酒を盆に載せた女性らが埋め尽くす人をすり抜けて次へ次へとテーブルを巡る。



ルリアはやはり女王の横の席にちょこんと座り、自由にテーブルを行き来することができない。


王族の席には高官のほか、公爵レベルの王族が順位順に左右に並んでいる。が、女王の権勢を前に今や彼らは豪華な服を着た、ただの人形に過ぎない。


ルリアは宴会場を見回し、ベルキス王子を見つけるとさり気なくアイコンタクトして盃を軽く掲げた。


ベルキス王子はずっとルリアのほうを見ていたから、有頂天になって笑顔がこぼれている。(あぁ天使よ!ルリアは僕に乾杯してくれたのだ!これ以上嬉しいことはない)



ルリアは気が付かなかったが、この動きを注意深く見る集団があった。

プロセリオン王国の第二王子のエルクト・オッフェンと代表団だ。彼らはベルキス王子がルリアにぞっこんなことを知っていた。


だからこそ警戒する。ベルキスとルリアを結びつけるのは当初良いことだと思っていたが、ノーランド王国に弱みを握られている今、二人が結婚するのは得策とは言えない。


「なんとかして阻止すべきではないかね」

エルクトが代表団に問う。


「当然、今結婚の沙汰はまずいでしょう。ただでさ弱みが握られているのですから、婚姻話となるとノーランド王国は相当我々に不利な条件を付けるでしょう」

代表団が口をそろえていう。


エルクトは断固ルリアにベルキス王子を近づけないようにしようと誓った。



宴会が終わると程なくして舞踏会が始まった。


突き抜ける高さのダンスホールで各組が誘い誘われダンスが始まる。

エルクトがベルキスを呼び寄せ念入りに「ルリアには気を付けろ。絶対に彼女を好きになっていはいけないよ」と念入りに忠告を入れた。


王族の婚姻は政治が絡むので個人の意思で結婚はできない。とはいえ、恋心を持つのは自由だ。好きな相手に情報を流して破滅する貴族も多い。


ルリアの行動は早かった。真っ先にベルキスの元へ向かい、スカートをふわりとつまんで細やかなお辞儀をする。

「ベルキス様、私と踊っていただけませんか」


エルクトの念入りな忠告は一瞬で破られた。

兄の「おい」という声も入らずベルキスはルリアの手を取る。

エルクトに念を押されたことで、逆にベルキスは反抗したい気持ちに駆られたことも幸いした。


舞踏の曲は10分ほどで終わってしまう。その間にルリアは必要なことをベルキスに伝えなければならない。


ルリアは心に決めて話す順序を組み立ててダンスに臨んだ。しかしベルキスは年相応というか、自分の頑張った話やらを手に汗握りながらルリアに上目づかいのはにかみ顔で伝えてくる。なかなか話を切り替える糸口が見つからない。


焦るルリアに対してベルキスは想いを伝えるのに必死で傍から見るとふたりとも緊張して踊っているようにみえた。


ベルキスは10歳。10歳といえばルリアより年上なのだがルリアの中身は20歳代の記憶を持つから、ルリアにとってベルキスは大きなお子様に過ぎない。


「僕は侍従を振り切ってひとりで外庭に逃げたことがあったんだ。僕はすごいぞ、侍従から逃げ切ったんだからね」

と自慢するベルキス。ルリアはすかさず手をうった。


「お付きの者に見つからずお庭から逃げ切れたのね。それはすごいことだわ。ねえベルキス様、勇気がお有りなのですから、きっと冒険はお好きなのでしょう」

冷静に話を切り替えすルリア。


「うん、好きだ!それに得意だ。なんだって僕はできるんだ」

と尚も自慢気なベルキス。


「…私もあなたと同じで冒険が大好きなの。ねぇよかったら一緒に勇気を試してみましょ」

ルリアのこの提案に無条件でうんうんと頷くベルキス。それを遠目に見る兄のエルクト。しかしエルクトもダンスをせねばならず、舞いながらちらちらみるだけで二人の会話など聞こえてこない。


「ねぇ何をするんだい?」

ベルキスはやる気まんまんに聞いてきた。


「今ね、城の外で不思議な大道芸人がいるんだけど、大きな音を出す出し物らしいの。あれを近くで見てみたいんだけど、私はあなたみたいに勇気が無いから、外に出られないわ。この手紙にはあの大道芸人をお城にお招きしたいって書いてあるの。私の為にあなたは誰にも見つからず手紙を手渡す勇気があるかしら?」


回りくどく言っているが、つまり手紙を渡せということだ。ルリアは外に出られないがベルキスは自由に行き来できるから簡単な仕事なはずだ。


ベルキスは内容がどうあれ、ルリアに恋心を抱いて心酔している時点でやらざるを得なかった。自分の勇気とルリアへの愛が試されていると知った以上、なんでもやる覚悟だった。


二つ返事で了承し、さっと手紙を受け取って隠すと曲が終わりルリアとベルキスはお辞儀をして次のダンス相手の元へ消えていった。


舞踏会が終わり、エルクトはすぐにベルキスを呼び出した。


「何を話した?言え、ベルキス」

兄のエルクトはベルキスを詰問する。しかし兄よりもルリアに心を寄せているベルキスは頑なに口を閉ざした。


10歳の彼は、適当に質問を受け流して言い訳することを心得ていない。ただ黙るだけで、エルクトはベルキスが何かを隠していることを瞬時に悟った。


というより、ニヤニヤしているベルキスの顔を見れば、隠していないと思う方が無理だ。だが、きっと会話が弾んで浮かれているんだろうと、そう思うにとどまった。ルリアはなにせ8歳の少女に過ぎないのだから、と。




翌日、ルリアの忠実な下僕と化したプロセリオン第三王子ベルキスは、勇み足でノーランド王都の広場に陣取る大道芸人の元へ歩いていった。


大道芸人は火を噴く不思議な筒を空中に飛ばして大きな音を出す業をやってのけている。ノーランド王都の住民らは怖いもの見たさや興味本位で十重二十重の囲みを作っている。


そっと後をつけたエルクトも人ごみに紛れてしまってベルキスを見失ってってしまったほどだ。ベルキスはただ手紙を渡すだけの仕事なのに彼は恋心か緊張か、胸が張り裂けそうになりながらよろよろと大道芸人を目指す。


人ごみの雲の中心はぽっかりと空いていて、所狭しと道具が散乱していた。


数多くの道具の中心に鎮座する大道芸人の長らしき人物と、忙しなく火を噴く道具を用意している下っ端らしき7人の人間がいる。手紙は長に渡せばいいのだろうか。


ベルキスは長らしき人に手紙を手渡そうとすると、急に下っ端のひとりが横に出てきて手紙をふんだくるようにして受け取った。


「何をする!僕はそこに座っている座長に手紙を渡さねばならぬのだ!どけ!」

ベルキスが叫ぶと下っ端は手紙の内容を確認することもなく座長に手渡した。


「それは失礼いたしました。これでよろしいですかな」

と下っ端。


いきなり高貴な服装の子どもが割り込んできたので大道芸人たちを囲んでいる住民は戸惑い始めた。


ベルキスはあたりから奇異の目で見られていることに気がつき、そそくさと退散する。とにかく任務は達成したし、これでルリアも振り向いてくれるに違いない。


大道芸が終わり、住民らが散会していくと、さきほど手紙を受け取った下っ端はふんだくるようにして座長から手紙を奪い取る。


下っ端に化けていたシュバイツはローブを脱いでから手紙を読むと、早速ロケットの道具をしまいこんで一同に告げた。


中央に座っていた座長と思われた人は、シュバイツに「この格好をして座っているだけでいい」と雇われたただの酒飲みだ。シュバイツは先のグダンチア攻防で顔を晒しているため、無用な危険を招かないようににダミーを立てているのだ。


「諸君、ノーランド王城に大道芸を売り込みにいくぞ!」

シュバイツは水を得た魚のように飛び上がって言った。


手紙には

「私ルリアはあなたの大道芸を間近で見てみたいのですが、自由に動けません。


つきましては我が城の女王に大道芸を売り込みに来ていただけませんか。


私はあなたの大道芸に役立つ夜に輝く錬金術を知っています。知りたければ会いに来てください。


私の部屋は王城西館の第三塔横の2階にあります。」


とノーランド語で書いてあった。

王族など高貴な人間のうち半数くらいは高等言語とされる古代レムレシア語を理解していて、国際言語になっている。もちろんルリアとベルキスが会話する際もレムレシア語を使っている。


だがベルキスはノーランド語が分からないのだ。

ベルキスに読まれても大丈夫なようにそうしたのだが、結局ベルキスは盗み見は男として恥と、決してルリアの書いた手紙を開けることはなかった。



手紙を受け取ったシュバイツは女王が復活したことを知っていたし、たぶんルリアが不自由な身になっているだろうと予測もできた。


それでも力を失ったルリア姫をわざわざ助ける理由はない。

不思議な業-ロケット発射-を広場でやって目立ち、錬金術に興味を示すノーランド王国のサンドラ女王に、改めて自分を売り込めれば良いかと、その程度の気持ちで王都に来ていた。


ところがルリアはただ打ち上げてこの音が鳴るだけのロケットに、さらにすごい錬金術を付与すると言ってきた。


シュバイツの探究心は火のついたロケットのように舞い上がる。なんとしても新たな業を習得したい!

反応を示さないサンドラ女王はひとまず置いておいて、ルリア姫を頼ってさらにすごい業を身に付け、そして改めてサンドラ女王の御前でロケットを実演してやるのだ!


シュバイツはさっそく、ルリアと連絡を取る方法とロケット演舞を王城に売り込む方法を練り始める。


ところが--




悩むシュバイツにあらぬ方向から答えが歩いてきた。


黄昏の中、飛ぶ鳥も帰路につく中、ひとり怪しげにローブを被った男がシュバイツに歩み寄ってきた。しかも名前だけの団長を素通りして下っ端の格好のシュバイツに直接だ。

「こんばんはシュバイツどの。私はジクセン王国の使いの者でございます。こちらの手紙をご覧いただきたく…」


(こいつ、私がシュバイツであることを知っている?ジクセンの使いだと…?)

シュバイツは差し出された手紙を受け取って中身に目を通すと、驚愕して手を震わせた。


「おい!おまえ!…!」

シュバイツが前を向くと既にローブの男は居なかった。


シュバイツは手紙をそっと閉じると、ゆっくりと準備を始めた。


手紙には王城へ入るための答えが載っていたからだ。同時に罠の香りもしたためて。



つづく


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