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姫と瀬戸際の戦場

暗い街を囲む明るい光。


包囲を続けるリヴァイア騎士団は夜を徹して作業していた。


大型投石器が続々と到着。丸く削った石を満載した補給馬車も列を成して順々とやってくる。


投石器は設置に時間がかかり、石を射出するためにはさらに準備が必要だ。


リヴァイア騎士団遠征隊2万を率いる軍団長トブロクはてんやわんやの大忙し。


「軍団長!攻城塔は足が遅く、到着まであと2日ほど掛かるようです!」


「構わん。投石器さえあれば勝てる、早く投石準備をさせろ!」




一方、包囲されるグダンチアは街の灯も消え、静まり返っている。


唯一の例外は、騎士館の一角の鍛冶場。


ふいごの吐く熱気の中、カンカンと鉛の水道管を叩く職人が詰めている。


ルリア姫の指示で古代の水道管を引っこ抜き、ロケットの胴体を作るために集められた職人が何十人もいた。もっとも、この職人たちも指示されるままにモノを作っているだけで、自分たちが何を作っているのか分かっている人は誰ひとりとして居ない。


水道管を運び出すのは城の兵士。彼らもなんで今更道路工事、もとい道路破壊なぞして、大昔の水道管を引っこ抜いているのか訳が分からなかった。


でも、命令なのでやっている。上の命令は絶対。例え8歳の女の子の命令でも姫とあらば絶対。兵士とは因果な職業だ。


「遅い!国の将来がかかっているのよ!義務を果たしなさい!」

少しでも動作が遅い兵士がいると、兵士をロッドでぺちぺち叩いて喝を入れる。


あろうことか、ルリア姫に叩かれることに名誉を感じて気にせいかもしれないがわざと遅くしているように見える兵士すらいる。ルリアにイライラが募っていく。


王女に「敵に突撃して死ね」と言われれば喜んで死ぬ。そんな兵士たちも、水道管を死ぬ気で引っこ抜けという命令には戸惑った。


とにかく、何かの役に立っているのだろうと思って兵士たちは敵軍に突撃する気で掛け声をあげ、水道管の大群に斧を振り上げ突撃を掛けた。




土木工事の現場監督業務を終えたあとは、鍛冶場の工場管理者に変身だ。飛ばすのに一番良いであろう形を指示し、水道管を使ってロケットの胴体と翼を作らせる。


頑張った甲斐もあり、午前1時には5発分のロケットが完成。あとは火薬を詰め込んでシュヴァイツに任せればなんとかなるだろう。


ルリアは急いでロケットに括り付けるリヴァイア騎士団の大将宛ての手紙を書いた。


======


我が同盟国であるホーリーレムレシア帝国・ジクセン王国の軍隊があなた方を討伐するために軍隊を国境に集結させています。我がノーランド王国でも援軍の編成が終わり、あなた方を挟撃する準備があります。

私たちはあなた方が想像もできない方法、火を吹く道具で遠くの国と連絡が取れます。この手紙があなたに届いていることがその証明です。


援軍がいるかどうかも、嘘だと思ったら偵察でも出しなさい。

そこでご提案ですが、私たちは貧乏な国ですからクローナ金貨2万相当の品を置いていけば、我がノーランド軍はあなた方を見逃し、危害を加えません。


           ノーランド王国王女ルリア・グラクフ・レメリスク

======

ルリアは手紙をロケットに括り付け、城壁の上でシュヴァイツを待った。

ほかにはロケットの準備を手伝う兵士5人ほどが待機している。


15から20メートルほどある城壁。それよりも更に10メートル以上高い塔の上。ちょっとした高いビルほどの高さ。


これを超える建物は教会と騎士館の尖塔と遠く見える港の灯台くらいだ。21世紀の街より高い建物が少ないためか、すっごい高さに感じる。


ちょっと身長が足りないが、背伸びして胸壁から外を覗いてみる。


すると…


突然ガコンという音が数十聞こえ、間もなくドシン、バコンと大きな音が響き、地面が揺れルリアは倒れた。近くの兵士に起こしてもらい、周りを見晴らすと下に見える城壁の上部の一部が吹き飛び、家々が大きな音を立てて煙を吐いて崩れ落ちていく。


「夜襲!夜襲!!投石攻撃!!」


兵士の叫びが聞こえる。

騎士館の警報を知らせる鐘の音が響き、叫びが連呼した。


「殿下!ここは危険です、一度安全なところへお退きください!」


「嫌!私は待つの、待たないとならないの!それに今やどこだって安全とは言えないわ」

ルリアは食い下がる。まるで恋人を待つ乙女のように。待っているのは恋人などではなく火薬と食えない錬金術師だが。


命令とあれば従わなければならない。ついでにここに投石が来たら一緒に死なねばならない。兵士とは因果な仕事だ。


無意味と知りつつも5人の兵は盾でルリアを囲み、防御陣形を取った。


ドーン、ドォォォォンと音が響き、ゴゴゴゴゴと崩れる音が続く。


衝撃が続くたびに、兵士の鎧がガチャガチャと軋む音がルリアの耳に響く。


「殿下、お待ちどうさまでした。今から火薬を入れましょう」


シュヴァイツ!恋人が来たときのようなときめき!は感じないが、とにかく感動に目から涙がこぼれそうだ。よかった!


でもここからが本番。ロケット制作の間に投石攻撃が来ないこと、うまく飛ばせて我々の技術力を見せつけること。


これが出来ないとならない。


30発ほど投石が断続的に行われたが、装弾の為か攻撃が止んだ。


火事の音とたまに建物の音が崩れる音、それ以外は静けさが戻る。それから数発、投石攻撃が行われていったが、今度は別の城壁に向けて撃たれたため、ルリアのいる塔が攻撃される心配は少なくなった。


今がチャンスと急いでロケットに設計通り火薬を詰める。


「早く!」

ルリアが急かす。


「大丈夫ですよ殿下。こんなに楽しい夜なんですから、きっときれいに打ちあがります」

シュヴァイツは適当言っている。が、そのシュヴァイツの手元も多少震えていた。


それはこの世界では奇跡とも世紀の発明とも言えるロケットを完成させられるという思いか、単純な恐怖によるものかは分からないが。



「よ、よし、まず真上に撃ってみましょうルリア殿下」


発射台を80°ほど傾けると、シュヴァイツはルリアの命令を待たずしてロケットをセットして火を点けようとしている。


勝手に進めていくのでちょっとかちんと来たのでルリアは「いいよ、やって」と後付けで返事をした。


自爆の可能性があるので、兵士はルリアの前で壁を作った。


導火線に火を点ける。シュヴァイツは避難しない。まるで自信があるかのように。


シュバッ!ヒューゥ…


聞きなれた花火の音、ちょっと大きなロケット花火。だが初めて聞く音シュヴァイツは「アッハハハハハ」とテンションが壊れたかのように手を広げて叫んでいる。


周りの兵士はポカーンと上を見上げる。


真夜中に火の玉が天に向かって進んでいく。


そして


ドドォォン!!


大きな音を立てて空中で炸裂した。


「ちょ、ちょっとシュヴァイツ!あなた何したの?なんで爆発なんてしたの!」


「あ、あれですか?思ったんですよ、あれ兵器にできるんじゃないかって。だから推進用の火薬と爆発用の火薬を分けて…」


「あなたちょっと!それで私たちが吹っ飛んだらどうするつもりよ!」


「そしたら、皆死にますから何もしなくてもいいじゃないですか」


ルリアは思った。この男はやっぱ狂っている!でも今はとにかく、手紙の打ち込みをしないと。


「シュヴァイツ!手紙を括り付けるヤツには絶対爆破しないやつを使うのよ!」


「大丈夫、ご安心をハハハ」




発射台に備付け、照準を合わせた。


ルリアが男子大学生だったころ、友達とやったパソコンゲームのロケットランチャーを想像して、敵総大将のテントに向けて照準を合わせる。

総大将のテントは一目でそれと分かるほど、巨大なものだった。


別に命中させる必要はない。近くに落とせればいい。たぶん近くまで飛ぶだろう。


城壁の外では音に驚いたリヴァイア騎士団兵がうろうろと出てくる。それを司令官らしき人物が落ち着かせようと躍起になっているのが見える。


「いいわ。やって。ひと思いに!」

ルリアの命令が出た。シュバイツは子供のようにはしゃぎロケットに点火する。


導火線がジーッと音を立てて短くなる。


ボッ!シュバァァァ!と闇夜を一点の光が突き進んだ。弾道が多少ブレているが、大体まっすぐ飛んでいる。

手紙は括り付けてカプセル状にした胴体部分に入れてある。


間もなく地面に当たって光が消えた--




-リヴァイア軍陣-


「何かが着弾!」


「分かっている、分からないのはその何が着弾したかだ!岩か?敵の投石攻撃か?」


「いえ、火の玉です。大きな音を立ててこちらに…」


上空に火の玉が打ちあがって大きな音を立てたと思ったら、次は光の玉が司令官トブロクのテントにまっすぐ飛んできた。


初めて見る光景に、誰ひとり近づけないでいる。


燻るひん曲がった筒から煙が出ている。火薬のにおいが立ち込めているが、火薬のにおいを知っている人はいない。

魔法のにおいか、魔術攻撃か、上から下までリヴァイア騎士団は混乱している。


「誰もアレを拾いに行くヤツはいないのか!腰抜けめ、直接俺がいく!」


「危険ですトブロクさま!あれは魔術か何かの類、呪われたらどうしましょう」


「あの匂いが魔術なら、俺はもう嗅いでしまったし終わりだ!お前もな!」


報告した兵士はショックに顔をゆがめ、下がった。魔法にかかってしまったかもしれない。祈りの言葉を必死に唱える。


トブロクは剣の柄で2~3回、謎の物体をガシガシと叩く。


「これは…ん?羊皮紙…手紙か?」


トブロクは手紙を読んだ。


======


我が同盟国であるホーリーレムレシア帝国・ジクセン王国の軍隊があなた方を討伐するために軍隊を国境に集結させています。我がノーランド王国でも援軍の編成が終わり、あなた方を挟撃する準備があります。

私たちはあなた方が想像もできない方法、火を吹く道具で遠くの国と連絡が取れます。この手紙があなたに届いていることがその証明です。


援軍がいるかどうかも、嘘だと思ったら偵察でも出しなさい。

そこでご提案ですが、私たちは貧乏な国ですからクローナ金貨2万相当の品を置いていけば、我がノーランド軍はあなた方を見逃し、危害を加えません。


         ノーランド王国王女ルリア・グラクフ・レメリスク

======


「ふ、ふむ。火を吹く道具がこれか…これで遠くの国と連絡が取れると…?確かにこんな道具は見たことがない…が援軍はハッタリかもしれぬ…」


トブロクは独り言を唱えると、部下を呼び、国境方面へ偵察へ向かわせた。


「おい、何をしている!攻撃を再開しろ!」


リヴァイア騎士団の夜間投石攻撃が再開されたーー





-グダンチア城内-


「おい、何をしている!攻撃が再開したぞ」


「殿下、投石攻撃が来ます!避難を!」


護衛の兵に囲まれて、ルリアとシュヴァイツは騎士館に避難した。どこも危険だが城壁の上よりはマシそうだ。


「おお、殿下ご無事で…投石攻撃が再開されましたな」


コメルジェフが分かりきったことを言う。もう祈るしかない状態で、コメルジェフ率いる城兵たちからルリアに報告することは何一つ無かった。


「大丈夫、成功したわ。朝には彼らが勝手に逃げ帰ってくれるはず」


ルリアはそういうが、なんとなく頼りない気がしてならない。

神の力とか、得体のしれないものにすがる時、人は安心するが、いざ神がなんとかしてくれるという段になると不思議とにわかに信じがたくなる。


不思議な技を使ってきたルリアだから、いるかどうかすら分からない神より何かやってくれそうだという気はする。でも確証などどこにもない。

そんなものに自分たちの命を預けるのだから、コメルジェフらも明るい気持ちにはなれなかった。


コメルジェフはじっと待つことができず、部下に命令を出した。だがやれることはほとんどなく、意味の薄い命令を繰り返すことになる。


セルディエフは指示する兵隊がいるわけではないので、ずっと地図にしがみついてルリア姫をいざというとき逃す算段を考え始めた。


シュヴァイツはまたいつの間にか姿を消し、一緒に気球に乗ってきた狩場管理人に風の方向やら強さを聞いて、ロケットを作る指示を与えまるで今の状況など目に入らないかのごとく火薬を作り始めた。


ルリアは内心叫びたい気分だが、じっとして耐えた。今だけは神になろう。すべてが成功するのが見えるかのように。


人々が希望を失わないように。すべてはルリアにかかっているから、すべての人がルリアに注目していた。慌てたらすぐに士気など崩壊するだろう。




-リヴァイア軍陣-


リヴァイア軍の陣中に朝日の光が差し込む。


投石攻撃が断続的に続き、城壁はところどころボコボコになっている。さらに攻撃が集中した西側城門は崩壊寸前だ。

城壁塔の多くが吹き飛び、がれきとなった家々がところどころに見える。


そんな中リヴァイア騎士団の早馬が引き返してきた。


「ジ、ジクセン軍旗を掲げた部隊が森に潜んでおりました!偵察隊は壊滅し、戻れたのは私だけです…!」


報告を受けたリヴァイア司令のトブロクは飛び起きた。


「何があった!敵援軍は本当にいたのか!」


「はっ…、国境付近ではなく、すでにノーランド領内奥深くまで来ています…大軍です。我々を超える数がいると思われます。ジクセン軍だけじゃなく、ホーリーレムレシア帝国所属の数カ国が集結しており…」

そこまで言うと偵察隊員は倒れた。命に別状は無さそうだが、もうしゃべるほどの体力は残っていないようだ。


「ああ…あの光る矢のせいだ…あの手紙の内容は本当だったんだ…」


焦燥したリヴァイア軍の指揮官トブロクは無表情で指示を出した。

「全軍、北西に向け撤退だ」


「どうしてです!あと少しで陥落しますよ!どう部下に説明するのですか!」

部下の一人がいきり立つ。


「馬鹿者!落したあとのことを考えろ、あの崩れかけた城壁で守る側になってみろ!三日でホーリーレムレシア軍に駆逐されるわ!

いいか、北西のルートを通ればまだ敵が少ないはずだ…」

ロブロクも大声で返す。


「そ、そうですね!分かりました!撤退の指示を出します!」

部下も正直、内心は逃げたいと思っていたところだ。最後まで戦う姿勢を見せておかないと、勇気が無いと言われかねないからいきり立っているふりをしていた。

これで撤退の責任は上司の、トブロクが負うことになる。


「この武器や補給品を置いておけば…まあ2万クローネくらいにはなろう!グダンチアのルリア王女に使者を出して、せめて背中を襲わないよう申し入れておけ…あ、このことは全軍には言うんでないぞ」


「心得ました!」


こうして来た時より慌ただしく、リヴァイア騎士団は夜逃げならぬ朝逃げの準備に移った。


「クソッ、諮られたわ…女王の危篤などというエサを出して、裏で長距離の連絡が出来るあの光の矢まで用意していたとは…我々を最初から嵌めるつもりだったのか…思えばそもそも、ノーランドを攻めるよう提案したのがジクセンという噂もある…その時点で気づくべきだったのだ…!」


トブロクはあれこれ考えたが後の祭りだ。トブロクは優秀な指揮官で取り乱して全軍を城内に突っ込ませるなどせず、堅実な撤退を選んだ。もし城内に突っ込ませていたらルリアの運命も尽きていたかもしれない。トブロクが優秀で結果助かった。


だが、指揮官は優秀でもその部下は優秀とは限らない。あと少しのところで急遽撤退を命令された一部の騎士たちは、命令を無視して最後の突撃準備を整え始める…


戦いが泥沼化すれば、ジクセンに「平和維持のため」にこちらに来る口実を与えてしまう。


リヴァイア騎士団、そしてノーランド王国の運命はいかに。



つづく

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