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5話

AT。正式名称AbsoluteTool。

日本語に訳せば『絶対的な道具』とされるそれが世界に発表されたのは今から十年前、

三人娘がまだ小学校に通っている頃のこと。実績もスポンサーもなかった

とある一人の天才青年科学者が突如世界中のマスコミに向けてネットで公開したそれは

「概念」そのものを機能とする全く新しい次元の機械だった。

ATの外観や細かいスペックは千差万別だが、「これがAT」と決定する定義はたった3つしかない。

一つ、「ブレイン」と呼ばれる高度AI――人工知能を搭載していること。

二つ、各機体固有の「概念」に応じた特殊機能を備えること。

そして三つ―――



「特定の女性を『マスター』とし、その命令に従うこと。

反面、何故か男性にはブレインが一切の反応を示さず扱うことができないこと・・・っと、

まぁここまでは一般常識の範囲だな」

AT部、と書かれたドアプレートが掛けられた扉の内側、

グラウンドの西端に位置する部室棟一階の隅の部屋に案内された二木、海菜、詩織の三人は

始めて来た学校ということもあってかしきりにそわそわと落ち着かない様子で

ソファの上で尻の位置を動かす。キャスター付きのホワイトボードに黒のペンで

文字やイラストを書き込みながら説明していた湊はそこで一旦話に区切りをつけ、

三人の方を振り向く。ピィー!という甲高い音を立てながら湯気を漏らし始めた

ヤカンをガスコンロの上から外し、自然な所作で近くの棚からマグカップを取り出す。

「全員コーヒーでいいか?いつもは緑茶が多いんだが、タイミング悪いことに

一昨日演劇部の奴らが来た時に茶葉は使い切っちまってな」

「あ、はい。ありがとうございます」

二木が代表して伝えて待つこと数十秒、インスタントのコーヒーを人数分、

それに砂糖壺とコーヒーミルをテーブルの上に置いて少女たちの対面の位置に湊は腰を降ろす。

「湊先生はここの部の顧問さんなんですかぁ?」

「ん、いやちょっと違うな。部活やりたい部員がいて顧問がついたわけじゃなくてその逆、

俺の趣味の延長で勝手に部活動作って生徒募集したんだけど、いやぁこれがなんと参加希望者が

まさかの皆無でなぁ。そのせいで今はもっぱら他の部活の手伝いで暇をつぶしてるようなとこだ」

「なるほど。それでほなら別の学校から生徒呼んで無理やりにでも部活したろと思いたったわけか。

なんちゅうか、アホみたいな発想と行動力やな。素直に感心するわ」

壁に立て掛けられた模造刀(演劇部の備品)とヤクザ顔を交互に見、事実呆れより

感心に近い声音で詩織は納得する。

「まぁ私は別にいいけどね。リコちゃん先生との取引は美味しい話だったし」

「取引?あいつなんかお前らと約束でもしたのか?」

リコに生徒の紹介を頼んだのは湊本人だが、彼は彼女が言った『取引』とやらに関しては

完全ノータッチだった。なにか変なことでも考えてるんじゃなかろうな、と

飲み仲間の呑気な顔を思い出し途端に怪訝な表情になる。

が、それを察した詩織はすぐに「いやそんな大したことやないて」と軽く否定した。

「実はリコちゃんなぁ、ここの部活に協力してくれたら色々融通してくれるそうやねん。

具体的には内申点とか」

「・・・俺が言うのもアレだが、良いのかソレ?」

「うちに言われても判別つかんなぁ。ただうちら二年生やし、今から別の部に入るにしても

新入生と一緒っちゅうのはなんか恥ずかしいとこもあったりしてなぁ」

後頭部を掻きつつそう言う彼女の言葉に二人も同意するようにこくこくと頷く。

一方の湊はというとしばらく苦いものでも噛んでいるような微妙な表情をつくっていたが。

「・・・まぁいいか。俺が文句言える立場じゃないしな」

「それでそれで?具体的にはここの部活ってどんなことをするんですかぁ?

ATの理論について勉強するとか?」

「えぇー、そんなんなら悪いけど私今からパスさせてもらうわよ。

自慢じゃないけど機械系は嫌いなの」

「そう言えば海菜ちゃん理数系の科目は毎回赤点とそこからの補習がデフォルトだったっけ」

「嫌なこと思い出さないでよ二木。誰にだって苦手の一つや二つあるでしょうが」

「一見まともな言葉やけど、毎回100点満点のテストで正答率1割以下っちゅうんは現役高校生として

どうかと思うで。おかげで数学の吉野先生やら物理の谷先生やら時間が削られるって

この間も職員室で愚痴を・・・」

「詩織もシャラップ!」

「なるほど、じゃあ陰山に関しちゃどんだけ練習時間長くしても問題ないな。

元がどん底ならテストの点が悪くなっても部活のせいにはすぐこないだろうし」

「それが教師のする発言かよ!?」

ズバズバ心を斬りまくる言葉の刃を連射してくる湊と詩織に遂にキレた海菜を、

一人先に口論の和から抜け出ていた二木は見守ることしかできなかった。


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