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対面

 やはり予想通り二人は帰りでも言い争いを繰り返し俺はそれを聞くはめになった。

 HRを終え、花梨、結を送り届けた後の帰り道。辺りは夕日で赤くなっていた。幸いにも結と花梨の家は近くそれほど時間はかからなかった。

 でも悪運悪く俺の家と彼らの家は逆歩行にある。そのため往復することになるのでかなり時間がかかるのだ。

「はあ、いつもの二倍は歩いてるよなきっと」

 肉体は鍛えているためあまり疲れてはいないのに足が重く感じてしまう。

「一日でこうなると、後がかなり心配になるんだよな」

 深い溜息を付きつつも自宅への道をめんどくさそうに歩いていく。

 今の時間帯のこの時間帯は朝や昼よりも人の数が少ない。車は通っても数人程度しか歩いていないのはいつものことだ。

「とりあえず、そろそろルシファーについての探索をしなくてはいけないのに」

 いくらルシファーを退治するのが俺の目的だとしても、一介の学生に奴らを探すための力などあるはずがない。事件が周辺で発生してからルシファー探しを始めてはいるが全く手掛かりが掴めていない。

 掲示板を探して以来内容を確認できればいいんだろうけど、あいにく家にはネット環境なんてのは無い。

 おじいちゃんにそこんとこ聞いいとけばよかったな。

 今更後悔してもし方がないと思う。

「今更そんなことを考えて―――」

 ふと異変に気がついた。ビルの隙間を普通に横に通り過ぎようとした瞬間、その隙間から鉄錆の臭いを感じ取った。

「何だ、この嫌な感じがする臭いは……」

 ビルの隙間に恐る恐る足を入れると、体全身にここを通ってはいけないという自己の危機察知能力が働き足が急に重くなる。だがそんなことなどお構いなしに俺は足を動かす。

 まさかこれは血の臭いか?

 鉄さびの臭いを頼りに少し歩き続けると、そこは外れにある小さな廃墟ビル。あまり人が近づかないため気味が悪い。近づくと異臭漂う臭いがさらに強くなるのを感じ、この場所だと確信する。

 慎重に廃墟ビルに入り込む。扉を開け薄暗い廊下の先にはテレビやドラマでしか見たことのないようなものが塊が無残にも転がっていた。

 塊に近づくと臭いが一気にきつくなり、服や何かで押さえ込まないと鼻が壊れそうなほどだ。倒れ込んでいたのは間違いなく、死体だ。見たところ血はもう止まっているようだがぴくりともせず、動く気配が感じられない。

「死体だもんな。動く(リビング)死体(デット)なんて漫画や映画の世界だけにして欲しいよ」

 一礼し、その場を後にしようと思ったが死体の格好にふと疑問が生じた。死体が着ている服は服ではなかった。警察の特殊部隊なんかが着るような銃弾なんかを弾く、特殊仕様なものだった。

「この格好、まさか警察が動いているのか?」

 もしだ。何らかの騒ぎを嗅ぎつけて、その事件に巻き込まれたせいで死んでしまった。というのなら問題はないが、それでもこの格好でいるのはおかしい。

 警察は何らかの組織か何かの動きを嗅ぎつけ、この装備を最初から着た状態で現場に向かったということ。だが、そんな武装組織などがいるなどテレビどころかネットでも報道していない。

となると……これは秘密裏に行なっていることか。

そう考えるのが妥当だろう。

自然と心臓の鼓動が早くなり、手のひらに汗が滲む。

「こんな装備を着た状態の警察を殺せるほどの相手。くそっ、間違いなくあいつらだ」

 死体に銃弾の跡がついていなかった。周りは水浸しで、代わりに何か尖ったものが貫通したんだろう、死体の近くに跡が残っていた。

 こんな現実離れの状況を作れるのは俺らしかいない。

 ルシファーか。

「今日が初の対面になるのかもな」

 廊下を後にし、二階へと急ぎ足で駆け上がる。

 階段を登り、二階に上がったところで一つの部屋から複数の話し声が聞こえた。

「あそこか!」

 考えるよりも早く俺はその部屋に向かって走っていた。


     ★


「おいおい、俺らを殺しに来た割にはあっけねーな」

 部屋の片隅に声を発した男性が居た。黒いスーツにサングラスというその出で立ちは怖さを感じるが、その姿以前に彼からは何か人とは違う感じがする。

「はあ……はあ…」

 その黒いスーツをきた男性が向く方向には先程の死体と同じ姿をした人たちが頭から血を流しながら立っている。見たところかなり傷が深く、立っているのがやっとのように見える。

「お前ら弱すぎだよ。次からはもっと重装備来ることをお薦めするぜ?まあ、次があればだけどな!」

 男は小馬鹿にしたように鼻を鳴らしこちらを見て薄笑いをしている。

 すると、ははははは!と狂ったような高い笑い声を部屋中に響かせる。

 気色悪い、正にその一言で表現できる。

 瞬間、劣勢の警察の背後から朱い髪の少女が上空へと跳び、両手に構えた刀を黒スーツの相手に向かって振り下そうとする。

「リアン!」

 警察の中の一人がリアンと叫ぶ少女は相手に接近する。だが、

「お前も弱すぎんだよ!」

 男は片手をリアンに傾けた瞬間、次々と氷の塊が出現する。窓から差し込む夕焼けの日に照らされ、煌めきながら彼女へと降り注がれた。

「ぐ…がぁ……」

 リアンの体を次々と掠めていく氷弾。そのうちの数発が彼女を刺し、上空から撃ち落とされる。部屋にあったテーブルに転げ落ち必死に激痛に耐えているのが分かる。

少女の体から血が流れ、テーブルを赤く染めていた。

「く……そ、私らはお前ら……を倒すのが使命…なのに」

「――こっちも見ろよ!化け物が!」

 特殊装備の警官のライフルが火を吹いた。たった一人の人間に対して銃弾の雨を浴びせにかかる。その隙に傷ついた少女を保護する。

「だからさ~、そんな武器が俺らに効くはずがないんだって。何度言ったら分かる?」

 男の目の前をまた新たな氷の粒が発生し、綺麗な結晶から凝固な壁へと状態を変化させていく。その氷の壁に軽々しく銃弾は跳ね返され周辺に吹き飛んでいく。

「そうか、お前ら頭が悪いんだな。悪いから無駄というのが分からないんだな」

 撃たれているにもかかわらず男は余裕の表情で両手を広げるポーズを取るが、

「何だか飽きてきたな~、そろそろ殺そうかな」

 残酷な言葉が彼らへと告げられる。

 今度は両手を警察に向ける。今までとは比べ物にならないほどの数の氷の弾が構築されていく。部屋が氷に冷やされ息が白く凍っていく。

「守らなくて……は…あああああああああああっっ!」

 傷が酷く重症を負っていた彼女は絶叫しながら立ち上がり、刀をへと傾ける。

 それにきずいた警官たちは彼女を下がらせようと前へと出ようとする。

「リアン!お前は俺らの後ろに―――」

「無理だ、それにこいつを倒すのは私の仕事だが、お前たちを守るのも私の仕事だ!」

 前へと踏み込み刀を振り上げ勢い良く足元に差し込む。突如発現した炎がその刀を中心に炎が周りを覆うかのように包み込む。だがその炎は安定してはいないようで、炎が縦に揺れている。

「そんな炎で防ぎきれると思っているのかよ!」 

 氷が彼女の方へと向きを変える。

「防ぐさ……絶対に!」

「そんな甘い考えなんて意味ねーんだよ!死ねや!」

 静止していた氷の弾が発射され、炎のへとぶつかっていく。炎の壁と氷の氷弾が、綺麗な破砕音を響かせながらぶつかり合う。

「っぐぁ……」

 最初は均衡を保っていたが止むことのない氷弾に徐々に押されていく。彼女は限界を迎えたようで炎の勢いがだんだん弱まっていき、次の瞬間炎の壁が吹き飛んだ。

 遮る壁が失われたため氷弾が直接向かってくる。

「ここで終わり……くそっ!」

 もう終わり。

 そう思ったその瞬間、

(ヴァン)

 この場にはいないはずの声突然聞こえた。だが、そんなことに構っている暇はなく腕を前に出し苦し紛れの抵抗をする。リアンはぐっと目をつむり身を低くする。

 だがいつまで立っても体に突き刺さる感触が感じない。

「あれ?氷の……弾が………飛んでこない」

 炎の壁が消失したにも関わらず氷弾が飛んでくることはなかった。

それどころか何もきこえず、風の音がほかの音を遮っている。

えっ?何で室内で風が――――

「おいおい、何だよこの力の差はよ」

 目の前で聞いたことのない声が聞こえ顔を上げる。目の前には見たことの無い、どこかの制服を着た少年が立っていた。

 驚いていたのは相手も同じだったようで聞こえた声は少し揺れていた。

「おいそこの少年、お前はいったい誰だ?」

 少年は落ち着いた表情で応える。

「俺の名前は風間(かざま)秋雨(あきら)

 秋雨と名乗る少年はその部屋の端にある窓を向き、茜色の空を見る。

「おじいちゃん、俺も遂に罪を償うその時が来たよ」

 そう言うと黒いスーツの方を向き直し口を噛み締める、

「俺は戦うんだ、日常を守るために」


     ★


「俺は戦うんだ、日常を守るために」

 俺は自分の戦う理由を叫ぶ。

 これが俺の戦いの始まりの合図だ。

 男は俺の言葉に相手は腹を抱えて笑い出した。

「何だよ、そんなに笑って」

「はは?いや~可笑しくってさ」

 男は笑いを堪え息を整える。

「お前みたいな子供が、守るなんて言葉を使うなんてよ。守る……守るか!、ははは!」

 またもや汚く笑い出す。

 すると俺の後ろにいた少女に声をかけられた。

「ちょっとお前!」

「ん?何だよ」

「お前分かってるのか!あいつは普通の人ではなく異能を使って人殺しをやるような奴なんだぞ!それをお前みたいな奴が―――」

「うるせーな、怪我人は大人しく端っこにでも隠れてろって」

「なっ………」

「お前はセイバーだろ?」

「⁉何故お前がそれを……」

「俺もその集団の一人だからだよ」

 リアンと呼ばれていた少女は俺の言葉に驚いたかのように目を大きく開く。

「だから安心しろって、俺がこの場を守るから」

 俺の言葉にさっきまで笑っていた男が笑いを止め、

「また簡単に守るって言いやがって」

 男の周りの空気がその男の怒りによって震える。空気が張り詰め呼吸が困難になるような感触が身を襲う。

「俺を相手に容易に守るって使いやがって、どんだけ俺を舐めやがってん―――」

「そうか、別に舐めてはいないんだがな」

 優しく包み込むような風が部屋中に吹いた。

 男は驚愕した。先程まで目の前にいたはずの少年が消え、声が突然背後から聞こえてきたからだ。

 警官たちは何が起こったのか理解できていない。

 その場で驚いたのは彼だけではなく、彼の姿を真近で見ていたリアンもだった。

 一瞬であの距離をいどうしただと!

 秋雨は男が立っていたテーブルを踏みしめ左足を軸に回し蹴りを繰り出す。

 男は横へと跳ぶ。男のその反応は、ほぼ自らの動物的本能によるものだった。男は自らの意思で動いたのではなく、ほぼ無反応の反射で動いたのだ。

 男は床に転げ落ち呆然と立ち尽くしている秋雨を睨む。

「よく動いたな、だが今のは避けきれはしなかったな」

 男は腕を抑えていた。今の秋雨の一撃を避けきれず腕に損傷を負ったようだ。男の血が床に滴り落ちる。

 男は舌打ちと共に後退した。

「くそが!……舐めんなよ!」

 男は怒りの叫びを撒き散らす。男の周辺が凍りつき本気を出してきたことを確認する。先程よりも早い氷の展開。さらに質量も比べ物にならないほど肥大化している。

 一番驚いていたのはリアンだった。

「まさか、あの男は今まで本気じゃなかったのか!」

 三六〇度全方位からの向かってくる氷弾。さすがに避け切れるものではないと思ったその瞬間、突如突風が彼の周りを包み込むように吹き荒れた。同時に跳ね返された氷があらゆる方向に飛び散り砕け散る。

「なっ!」

 目の前の男とリアンは驚きの色を隠せない。

 私が精一杯で防いでいた奴の力をいとも簡単に!

 少女の足が震える。目の前で自分の戦っていた状況よりも激しい戦いに恐れすら感じていた。

「おいおい、こんなもんかよ?」

 秋雨は余裕の表情で周に風を吹かせつつ男を見下ろす。

「てめー……」

 男はその挑発に完全に冷静さを失い、怒りで自分すらも失っていた。

「くそがっ……お前は俺を本気にさせた―――」

 男が言い終わるその前に部屋に一つの携帯の発信音が鳴り響く。男の物だったようで、嫌々携帯を開き応じた。

「おい今戦闘中だぞ!…………あっ?……」

 秋雨はその光景をただ眺めている。リアンは彼の数少ない隙なのに体が硬直し動けずにいた。

 電話の応答をしていくうちに男が冷静さを取り戻していく。

「分かった、じゃあ切るぞ」

 男は携帯を乱暴に携帯を服の中へとしまい込む。

 場が硬直した。

 男は深く溜息を付き秋雨に目線を合わせる。

「すまんが少年、今日はここでお別れだ」

 最初に反応したのはリアンだった。男に向かって叫ぶがその足は震えていた。

「貴様っ!今更そんな事が許されると思って―――」

「――うるせーな、今呼び出しがかかったんだよ」

 頭をかきながら面倒くさそうに応える。

「じゃあな少年、次会ったときはマジの殺し合いだ」

 そう言い残すと男は忽然と姿を消す。消えたその場には嵐が通り過ぎたかのような静まりが残った。

 その沈黙の中一番初めに動いたのは秋雨だった。男が逃げたのを確認するとリアンと呼ばれていた少女へと歩み寄る。

 秋雨は傷ついた少女への心配による行動だったのだが警察はそれを理解してくれなかったようだ。

いきなりリアンの後ろで控えていた警察がライフルを構え俺へと照準を向けた。

「おいおい、何だよ。助けてやったというのにこの仕打ちかよ」

 まあ、こうなることは少しは予想していた。

突然の他者の加入。しかもそいつも標的と同じで異能を使えるともなれば、そりゃ誰しも銃を構えるのは当然のことなので。

「はあ、俺は別にあんたらを襲おうなんてことは考えてはいないよ。そこにいる彼女と同じで、セイバーの一人。あいつらとは逆の立場なんだけど」

 それでも無反応だった。

 必死の俺の弁解を全く聞いてくれない警官たちに苛立ちを感じた。

 するとその集団の一人が口を開く。

「確かに私たちは君に助けられた、だがそれも罠だと考えるのが普通だと思うが」

 はあ、こいつらどんだけ疑い深いんだよ。

「だから、俺は何にもしないって」

「証拠がない」

 ああ言えばこう言うしよ、はあ~どうしよかなこの状況。

 一向に話が前に進まない中、少女の声が流れを変える。

「みんな彼の言っていることは本当よ」

 リアンと呼ばれる少女は理解してくれていたようだった。

 その言葉に警官たちは顔色を変える。

「だがリアン……」

「私には分かる。それに実情彼の助けがなければ私たちは全滅していた」

 リアンと呼ばた少女は真っ直ぐこちらに向かってくる。

 ってかこいつも近くで見れば相当綺麗だな。

「ごめんな、彼らも悪気があってしたことじゃないんだ察してほしい。確か秋雨といったな、私はリアン・リー。リアンとでも呼んでくれ」

 右手を差し出し握手を要求される。女の子特有の肌の柔らかさを感じるが、それよりも彼女の傷の深さに目がいってしまう。

「ああ俺は秋雨、よろしくな。でさちょっといいかな?」

「何だ?」

「二人っきりで話したいことがあるんだがいいかな?」

「そうか、なら彼らを下がらせよう」

 彼女の願いに俺の時とは違い、快く、とはいかなくても簡単に了解して下がった。

 多少睨まれたのはあえて気ずかない振りをしておこう。

 彼らが下がり二人っきりになったところで俺は話題に入る。

「そんじゃ質問いいか?単刀直入に聞くが何であいつらが俺らの戦闘に手を貸しているんだ?」

「手を貸しているんじゃない、手を貸してもらっているんだ」

「貸してもらってる?何でまた」

「私が警察に出向いて理由を話したら手伝うって言ってくれたんだ」

 その言葉に俺は吹っ切れ激怒した。リアンの肩を強引に掴み、壁際へと押し込む。リアンはいきなりの事で状況で理解できずにいた。

「どっ………どうした――」

「―――どうしたじゃねーよ!何で関係ない人間を巻き込んでんだよ!」

「なんでって、それは―――」

「――俺は見たんだ。このビルの入口で死んでいる遺体を」

 リアンの体が遺体という言葉に反応しびくっと方が震える。俺は唇を噛み締めつつも言葉を続ける。

「お前が巻き込んだせいで人が死んだんだ。この戦いは俺らの償いの戦いなんだぞ!何で巻き込む必要がある!何で俺ら仲間に助けを求めない‼」

「それは……私には知り合いってのがいないし、仲間も知らないし」

 その言葉に俺は言葉を無くす。

 知り合いがいないって……

「知り合いがいないってどういうことだ」

 リアンは顔を下に向け俯く。

「っくそ」

 俺は彼女から手を強引に離しその場から少し離れる。怒りに震える自分を落ち着かせ、向き直る。

「なあリアンお前の戦う理由は何だ?」

「―――え?」

「俺はな今のこの日常を守るのが俺の戦う理由だ。だけど俺らの本当の理由はルシファーを倒して、罪の償いをすることなんだろうがな」

 俺は一息つき、言葉を続ける。

 目頭に涙が溜まっていくのが分かった。

「でもおじいちゃんが言ってたんだ。『戦う理由は人それぞれなんだ。だから理由は自分の本当に大切だと思うことを理由にするのが一番だと思うぞ』って。俺の大切なものは今のこの生活だ。だから俺は日常を守るために戦うと小さい頃から決めてるんだ」

 小さい頃から決めている俺の理由。このままの状態を維持していると、いつあいつらが事件に巻き込まれるかわからない。力なき彼らを守るために。そのために今までずっと力を付けてきた。

 血反吐を吐きそうになったこともあったが俺の意思は変わらなかった。

たとえ俺の力がバレて、距離を置かれようとも。

「ただひたすらに殺しを続ける奴らを俺は許すことができない。奴らが止めるまでが俺の戦う理由でもある」

 これが俺なんだ。

 リアンは俺を真っ直ぐ見つめ、その瞳に涙を浮かべたいた。

「強い精神ね、貴方は」

「しょうがない、俺だもの」

 くすっとリアンは笑った。その笑顔はとても優しく見えた。

「私はね中学の頃に親を奴らに殺され今まで一人で生きてきたんだ」

 殺された、その事実に俺は息をのむ。一気に空気が重くなる。

「友達もろくに出来ずにいた私は誰にも縋る(すがる)ことなんてできなかった。使命があった私には限界を感じた。そこで私は警察を頼ったの。一緒に戦ってくれって。最初の内は信じてくれなかったけど、ルシファーの存在が明確になったとき手伝うって言ってくれた」

 リアンはその綺麗な青色の瞳から涙を流し、その場に崩れる。

「だけど、それでも…人が死んだ。分かっていたはずなのに、この戦いに普通の人が入ったらダ駄目だと分かっていたはずなのに。心の奥底で一人という悲しみを感じたくなかったからずっと無視してきた」

 こいつは、俺よりも辛い人生を歩んでいるんだな。

 何も彼女の事を考えず、ただ怒りに身を任せて叫んでいた俺が恥ずかしく感じた。

 俺は袖で涙を拭い、彼女のもとへと歩み寄った。

「分かってたんだな、ずっと」

「ごめん……なさい」

 泣き続けるリアンを俺は自分の胸へと抱き寄せる。

「ごめんな、俺も何も分かっていないのに強く言い過ぎた」

「別に……貴方は悪くない」

 涙が止まらずに震えている彼女の表情が次第に明るくなっていく。

「俺もそんなに戦闘の経験はないんだ。今まで戦いづつけてきたお前は俺よりずっと強いよ」

 俺の言葉に安堵したのか、すぐに泣き止んだ。

「これからは俺もお前のそばにいるんだ。俺にも気軽に相談していいぞ」

 彼女の頬が赤くなった。赤くなった顔のままのその表情もすぐに笑顔となり俺の顔を眺める。

「うん、分かった」

「それと、あのおっさんたちを巻き込んだのはお前なんだ。お前にだけとは言わないが、彼らを守るのもお前の仕事なんだぞ」

 リアンは黙って頷く。

 やっと落ち着いたかな。

 そう思ったやさきに彼女の体から力が消え、俺の方へと力なく寄りかかってくる。

「おい!どうした!」

 服を見ると血がさっきよりも真っ赤に滲んでいた。血が止まることなく流れ続けているのが分かった。

 まさか、こいつはこの状態で今まで……

 今治療をしないと死に至ることは見ただけで分かった。俺はすぐさま外で待機しているはずの警官たちに助けを求めるためリアンを抱え部屋を急いで出た。

「おい警官!早くこいつに手当を!」

 俺の乾いた叫び声がビル全体を響きわたり、警官たちが次々と下から上ってきて彼女の治療が始まった。


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