飛べなかった小鳥
「こういうことは金の流れを見るのが一番っす。歌舞伎町のスピッツのホストに貢いでいたとか!No.1は金かかるでしょうね。マネージャーには少々無理な金額と聞きました。そこで、そのケンゴさんに取材したら・・・」
「したらなんなの?プライベートじゃない!その金は確かにJIMからもらったものよ。だから何なの?それで警察が捕まえるというの?」
島村がきっと睨んで反論し始めた。
「……」
正田は持っていたマイクのカバーを外しながら
「それが違法だとは思いません。なぜJIMがあなたにお金を渡したかってことですよ。」
そして覗きこんだ。
「真実見つけた!」
中は筒抜けだ。筒にカバーがついた張りぼてだった。マイクじゃない。
「!」
それを見て島村はきょとんとした。
「取材協力ありがとう!」
さっさと正田が去ると、島村の肩の力が抜けた。
「なんなのあいつ・・・マイクが張りぼてだった。」
ほっとした半面、レポーターらしくない意味のない取材に驚いた
「何のための取材だったの・・・?」
職業柄インタビューは慣れている島村だが、これは全く意外なインタビューだ。
女医も動いていた。女医の本名は百地といい、誠心医科大病院の外科医だ。翌日、経過観察中のJIMの村田が診察に来た。村田は心臓に疾患があり、心筋梗塞を起こして危うく命を落とすところを、救急搬送され百地がバイパス手術した。もう半年前の話だ。
「術後の経過は良好。数値も範囲内ね。」
村田はシャツのボタンを閉じつつ
「先生には本当に助けてもらったよ。あの時しんでいれば、楽しいこともなくなっちまう・・・」
ちょっと村田はおどけた。
担当医師と患者のありきたりの会話がかわされる。一通り経過を確認したところで、百地が改まって話し出した。
「それより社長・・・私の個人的話聞いてくださらないかしら?」
百地の言葉は、もちろん服務規定違反だ。不思議と女医が言うと耳に逆らわない。
「え?私に?いったいなにを?」
担当医の突然の提案に戸惑った。医者から相談など聞いたことない。
「ここではなんですので今夜お暇あるかしら?」
美人に頼られるとまんざらでもない。
「命の恩人の言うことを、断わりませんよ。そうですね、麻布でいい店を知ってます。」
あっさりと成立した。
ここは夜の麻布のバー「難破船」だ。大人の雰囲気の店にカウンターがある狭い店だ。マスターは黒服でグラスを磨いている。百地は胸のあいた大人のドレスにピアスをつけていた。すでに男女がグラスを傾けている。昼間と違って村田は紳士的な感じは消えていた。よこしまな下心が感じられる。
「先生からお誘いとは・・・なんです?」
昼間とは雰囲気が違う。
「プライベートで患者と飲むことはありませんわ。でも今夜は特別・・・」
百地のもったいぶった言い方が村田を煽る。百地の視線に貫かれると男は妙な気分になる。喋り方も上品でありながら、魅力のある声だ。医者と言うより、女優と言った方があっている雰囲気を持っている。大人の色気と言うのが似合う女性だ。
「かかりつけのお医者は嫌いかしら?私景気いい話が好きでして、社長にご指南仰ごうと、おもいましたの。」
百地から医者らしくない言葉が飛び出した。
(オイッ!妙と思ったら同類の人間か!欲しいのは金か・・・)
村田はほっとした。村田から見ると、医者たるもの、お固いもので何を考えているかわからなかった。だが金に目をくらんでいるなら、わかりやすい。自分と同じ価値観の人間だ。それに、村田にとっては百地の体に興味があった。
「『金のなる樹』について知りたいわ。大きな収入あっても人間って面白いものですわ。さらに欲しくなる。長い付き合いじゃございませんこと?」
ものは言いよう。百地の言葉に、村田は納得した。
「もし教えてくれたら、私も社長に差し出しますわ・・・」
村田は思わずむせた。せき込む村田に、さらに百地が
「人間はお金に弱いものね。この話無理だったかしら・・・?」
「げほっ、いやいや、そんなことはない!先生も入れてやるよ。『食う側』でだ。簡単に稼げるぜ。だいたいうまい話が世の中、あるわけねえ。それなのに全資産差し出してくるのよ。信じるやつが悪いのよ!」
もう村田の地がモロにでていた。
「まあ!嬉しい!」
百地もなかなかの演技で、女優でもいけるかもしれない。村田も調子ついてきた。話は百地のしりたい核心から始まった。村田にとっても心のトゲになっているようだ。