飛べなかった小鳥
「この遺言書は、本人のもので間違いはない。そこに挙げられた名の中には、大物政治家の名があった。」
どうやら検事は大物代議士を問題視しているようだ。
「そいつはおもしれぇ。世の中よくなるぜ。」
この不良は別の思いを持っている。
「あくまでこれは“被告”だ。変に結びつけるな。」
これはあくまで犯罪被害者の恨みを晴らす集団だ。テロリストではない。ネットカフェはその狂暴性が少し出てきた。政治家に反感があるようだ。
「俺に指図するんじゃねえっぺよ。だいたい、お前、偉そうだべ。世の中お前みたいな偉そうなやつが捻じ曲げたんだべ。まずお前を裁いてやる!」
もう一触即発だ。でも、検事は相手にする気が無い。
「ははは・・・」
「なにがおかしい?」
検事の笑いは、挑発ではないが、あからさまに鼻で笑ってる。当然ネットカフェが興奮する。それを見て、面倒な男だ、とばかりに諭す。
「俺が誰か知っているのか?ここに集まった人間はそれぞれ見知らぬ人間さ。本来なら俺は君らと遠い存在なんだよ。見もしらない人間殺してなんになるのかね。目的を果たすのが大事なのでは?」
インテリのいやみは挑発にしかならない。
「てめぇ、いつか殺す!」
レポーターはネットカフェの肩に手をかけた。
「まあまあ。仲間割れはよそうぜ。結果が大事なんだよな、検事?」
検事としては大物政治家を問題視してメンバーを集めたが、仲間割れしそうになった。本当に、ここは社会の縮図かもしれない。どうも、人間的に検事はリーダーに向ないようだ。レポーターがまとめる。
「本来会うことのない俺たちだ。大物政治家がいるので、慎重に進める、これでいいじゃないのか?この辺で終わろう。」
「そうそう。さっさと始めましょう!」
きりのない無駄話に女医も同意する。さすが他のホストと女医はつまらないケンカは売らない。
「今の話投資会社JIMの社長がキーパーソンよ。あたしの患者だから私がききだすわ・・・」
女医は知り合いの様だ。捨て台詞のように
「それと、検事。最後に言っておくわ。無駄話は耳触りよ!」
さすがの検事も形無しだ。
サンセットTVの控室から局前の「お笑いMOTTO!」のセットが見える。正田は見下ろしてつぶやいた。
「アイドルの次はお笑いか?」
島村は死んだハセナンから「傾奇3兄弟」に鞍替えだ。
「真実の言葉は逃さねーぜ。」
マイクから刃物を出し入れした。もちろん違法だ。正田はいったい何者なのか。
「斜めになりまーす」
傾奇3兄弟は水球帽に蝶ネクタイ、短パンといういで立ちで、気持ち悪がられて人気が出てきた。
本番を終え、袖に下がった。
「お疲れさまー」
島村はタオルを差し出す。すると暑苦しい連中なので、汗をタオルで拭きまくっていた。そこに正田がマイクを持って現れた。マイクにMDと、一人取材のようだ。島村も気づいた。本番中で看板付きの移動バスの影に隠れての取材だ。
「なんのつもり?私は関係ないでしょ?それともなに?傾奇3兄弟の宣伝うってくれるの?」
島村も使えない話は乗れない。レポーターは当然のように切り返す。
「確かにハセナンは死にました。」
「わかったわね?私も忙しいの!邪魔しないで!」
島村は怒り心頭でその場を去ろうとした。島村にしてみれば終わった話を蒸し返してほしくないし、第一、妙な噂を立てられては、かなわない。
「でも、話は終わってないっす。当時あなたがハセナンの噂の発信源という人がいます。そこであなたへ疑問がありまして・・・。」
正田が言うと、島村はびくっとした。やましさを表すかのように。
「…。バカ言わないで…。」
島村は目をそむけた。正田は努めて落ち着いた口調で続ける。
「あなたがなぜJIM問題でマネージャーらしからぬ行動があったかを調べていたら・・・」
詰問する正田に、最初と打って変わって、島村の顔に血の気はない。