飛べなかった小鳥
マスコミ探偵3部作の探偵物です。それぞれ登場人物を共通化し、それでそれぞれ独立した話です。このストーリーの主人公・正田はここでは仕事人の殺人犯ですが、「マスコミ探偵」では殺人犯を追う探偵です
カメラークルーを引き連れ、突撃取材を敢行することにした。彼女はすでに一本義ヒルズに住まいを構えている。よほど稼ぎがいいらしい。
「俺もいつかここに住みたいっす。」
ぐちっぽいのはカメラマンの米田だ。
「ぼやかないの、ヨネちゃん。まじめにやるが一番よ。」
インタビュアーの正田がすべてのリードをする。愚痴聞きもそのひとつ。
ロケ隊はいつもボヤキばかり。外回りはつらいなあ。それにしても・・・
(貝のように閉じた扉どうこじ開けようか?)
セキュリティーはアポなしの突撃取材もはねのける。まず、接触することが難しい。途方に暮れる。そこへ知った顔がやってきた。
(ハセナンのマネージャーじゃん!ラッキーッ!)
おもわず正田の顔が歪んだ。マネージャーは島村香恋といった。一方のマネージャーも気づいた。
「……」
島村はドキッとしたようだ。JIM問題で神経が立っているのか。それにしても傍目でビクついているのが分かった。だが、入り込むためには逃してはならない。
「わ・・・ワイドステーションさんじゃない!・・・」
異様に動揺をしている。何かあるかのように。そんなこと正田には関係ない。
「いやあ!偶然ですね。あなたが女神に見える。それにしてもなぜマネージャーが?」
正田はうれしくて仕方ない。エントランスで入室コードを打つ。
「昨日から連絡とれないの。仕事はオフなんだけど、心配で・・・」
なるほど、そういうことか。何か起こっているのか?
「セキュリティーコード、知っているんだ!」
正田はあたりまえなことを聞く。商売柄黙っていられない。
「当たり前でしょ?マネージャーなんだからっ!あの子いつも寝坊するからね!それより何しに来たの?だいたい入場を許可してないわよ」
じろりと睨む。
「いやだな。そうきにしないで・・・」
駄目だと言われて引き下がったら、レポーターをやっていられないっ!
「アイドルお住まい訪問っていう企画で・・・」
ばればれの嘘話でごまかす。
「そういって!投資会社の話ならお断りよ!。」
マネージャーには通用しない。
(……バレテやがる!)
しかし、ちゃっかりビルに入り込むことができた。マネージャーはドイツ製電子キーを差し込む。
「奈緒ちゃーん。いるんでしょ?何で電話に出ないの?」
マネージャーが中に入っていく。表で正田が今後のテープの構成を考えている。
(お膳立てされるとスクープできねぇ。なんか起こってると、面白いが・・・)
不謹慎ながら芸能レポーターの性質だ。そこに大きな悲鳴が響いた。
きゃーっ!
布を割く悲鳴というが、女性の悲鳴はこれほどか?仕事をわすれ、助けに入ろうと駆け寄った。
「なんですか?入りますよ!」
人間として当然と思う行動だが、マネージャーはすぐドアノブを引き、入れないようにした。
「ダメ!絶対ダメ!」
マネージャーの行動が理解できない正田だ。
「どうして?」
「奈緒が中で死んでいるの・・・だからカメラは・・・。」
マネージャーはアイドルの哀れななれの果てを守っているんだ。正田は自分の立場に気付いた。
「!」
「あの子はアイドルよ。わかるでしょ?」
マネージャーには涙が浮かんでいた。死んで汚されるのは耐えられない、とでも言いたげだ。
その後も入室は許されず、警察と救急車が来た。現場に居合わせたといっても、結局何も見ることはできなかった。どうやら服毒自殺のようだと関係者への取材で分かった。隠されつつも搬送される顛末を、見送るしかなかった。
「確かに彼女は追い詰められていたが、自殺とは。何があった・・・」
自殺までは予想してなかった正田だった。