2.3
少し楽しみにしていた夜のショーを涙を呑んで諦めてきただけあって、駅に着いたのは日が落ちきるまでにはまだいくらか余裕があるくらいの時間帯だった。
車内は来るときとは比べものにならないほどに乗り心地がよくて、たった二、三人につき一両を丸々貸し与える鉄道会社の粋な計らいにわたしはすっかり満足していた。
それなのに左側に座っている彼女はといえば、電車に乗ってからというもの、日頃の威勢のいい面影はどこかへと消えていってしまっている。
夕空が向かいの広い窓からなかに染み入れてくるあかね色の繻子は、彼女の痛みも周りの静寂もみんな飲み込んでしまうくらいに辺りを覆い尽くしていた。
朝はごうごうと轟いていた足下の線路も、今は時折たんたんと乾いた音を鳴らすだけ。もの柔らかなその音に合わせて、わたしの視界からはほんの一瞬ずつだけ、かすんだ朱色が奪われた。
不安定な色を映した瞳の彼女は、ときの間も休むことなく春の暮を見続けている。
ほんの数センチメートルの距離から見つめられているのにも気づかず、彼女の眼は遠い空に奪われていた。
視線をまた外に戻して少ししたとき、離れたビルの屋上から三つ連れの鳥が空に飛びこんで小さな光になった。
「今、銀の鳥が飛び立ったわ」
彼女は連れだって飛ぶ鳥たちを指さして言った。
そんな彼女も、わたしも、ずっと向こうでげんなりしているサラリーマン風の男性も、きっと思うことは違っていたのだろうけど、それでも足を軽快に打ち鳴らす温かい床はその誰もが感じていたはずだ。
「ねぇ、お世話になったお礼に、今夜はわたしがなにかおいしい料理を作るから楽しみにしててね」
笑った彼女は、底抜けにご機嫌で穏やかな電車のなかの、他の誰よりも生彩に満ちていた。