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3.4

 また明日から始まる仕事に向けて、わたしにはまだ寝る前にするべきことがいくつかあった。

 明日会社に着ていく服の選定と、歯磨きと、丸三日ほったらかしにしていた肌へのいたわりと。

「そうだわ。それと」

 独り言はおばさんへの第一歩、と口を手で押さえて、カーテンと壁の隙間に体を滑り込ませた。

 がらりと開けた窓の外。春の宵に浮かぶのは程遠い下の方からのほのかな春色を受けてかすむ静かな月で、わたしは彼女に代わって報告をしなければならなかった。

 冴恵さんは、確かに計画を成し遂げました。彼女はその思惑どおり、彼女の言うところのくだらない男に連れられてどこかへ行ってしまいました。以上。

 直径一・五センチメートルの小さな春月は、木の枝がさざめくごとに移ろう花のかけらよりも遙か遠いところからささやかに頷いた。

 彼女が彼にしたお願いが聞き入れられたのか、もしくは元より叶っていたのかはわたしの知るところではなかったが、ずっと前に初めて彼に会ったときにも、今日ふたりにさよならを言って別れたときにも、彼の瞳に映っていたのは、彼女だった。

 窓を閉めて明るい夜に別れを告げ、わたしはほっと息をついた。

 振り向けばそこにある、昨日よりも少しだけ広くなった質素で約やかなわたしの部屋は、わたしの体、わたしの生活に間違いなくフィットしていた。


(了)

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