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溺れるほど、きみが好き。~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~  作者: 桜 こころ


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第8話 甘い夜と、ハンバーグの香り

「お疲れ様でした」


 可愛い制服から、質素な私服へ着替える。

 そそくさと帰宅の準備を整えると、私は店を飛び出した。


 メイド喫茶のバイトを終えた私は、急いである場所へ向かう。

 駅前通りを駆け抜け、煌びやかな店を横目に人混みをすり抜けていった。


 今日は待ちに待った、あきらに会える日だ。


 賑やかな通りを抜け、静かな道に入る。

 少し歩くと、大きなタワーマンションが見えてきた。


 そびえるガラス張りのマンションを前に足を止め、そっと見上げる。


 来るたびに圧倒される。

 やっぱり芸能人ってすごいんだなあ。なんて感心してる場合じゃない。


 私は辺りをきょろきょろと見まわした。


 住宅街の静けさ、夜の闇の中に灯るマンションの明かりと街灯。

 それ以外、今は誰の姿もない。


 ……よし。


 私は勢いよくマンションの入口へと向かった。




 玄関を抜けると、受付カウンターの向こうで制服姿のスタッフが軽く会釈した。

 私の顔は見慣れているから、何も言われない。


 預かったカードキーをかざしてオートロックを解除し、中へ入る。


 すぐに大きなエントランスが広がった。

 見上げるほど高い天井と、広々とした空間。

 荷物を預けられるロッカーや、上品なソファーセットが整然と並び、まるで高級ホテルのロビーのようだ。


 そこを抜け、重厚なエレベーターに乗り込む。

 ボタンを押すと、音もなく扉が閉まり、十一階へと上昇していった。

 あまりに滑らかで、動いている実感がないほどだ。


 十一階に到着し、静かに開いた扉を抜けると、彼の部屋へ向かう。


 一一〇三号室。ここだ。


 カードキーを認証画面にかざすと、カチャリと音がして扉が開いた。

 もう一度あたりを確認してから、さっと中へ滑り込む。


 扉にもたれながら、無事にここまで辿りつけたことに胸を撫で下ろした。

 毎回、ここへ来るまでが大変なのだ。

 目撃されないよう、細心の注意を払っている。


 もし私が、あきらの部屋に入るところを誰かに見られでもしたら、

 あきらに変な噂が立ってしまう。

 それだけは絶対に避けなければならない。


 気を抜いたそのとき、ふと鼻先をかすめる甘い匂い。


 あきらの匂い。

 彼独特の香りに、ドキドキと鼓動が早まる。


 彼がいるわけじゃないのに、すぐそこにいる気がしてしまう。


 ……会いたいな。

 あきらの顔が、浮かぶ。


 持ってきた食材の袋を抱えたまま、私はキッチンへ向かった。


 もうじき彼は帰ってくる。

 それまでに、あきらの好物、ハンバーグを作る。

 それが私のミッションだ。


「よし、やりますか」




 そして、一時間が経過した。

 時計を見ると、秒針は午後十時を指していた。


 テーブルに並んだ料理を見つめ、ため息をつく。


「仕事、長引いてるのかなあ」


 じんわりと寂しさがこみ上げる。


 はりきって作ったのに。


 昼間、彼からメッセージが入った。

 『今日は早く帰れそうだから、俺の家で待ってて』って。


 その文字を見たとき、すごく嬉しかった。

 久しぶりだったから、浮かれてしまった。

 いつも忙しいあきらが、珍しく会えるって言ってくれて。


 ……予定、狂っちゃったのかなあ。


 まあ、しかたない。そういうお仕事だもんね。

 なかなか思い通りにはいかない。


 またため息をつき、ソファーに横になる。


 そのまま目を閉じた私は、疲れていたのか、すぐに睡魔に襲われた。



 ***



「う……ん」


 人の気配を感じて、そっと瞼を開ける。

 ――目の前、息がかかる距離にあきらの顔。


「わあ!」


 驚いて飛び起きる。いっきに眠気が吹き飛んだ。

 まん丸な目で、あきらを見つめる。


「ぷっ、あはははは!」


 あきらがお腹を抱えて笑い出す。


「な、なに……」


「だって、すっごい驚きよう。可愛い」


 そう言って、ふいにあきらが迫ってくる。


 綺麗な顔が、またもアップ。

 息が止まって、そのまま見つめ合った。


 あきらが優しく口づける。


「……んっ」


 深くなる口づけに、思わず身をよじる。

 あきらが唇を離し、熱い眼差しを向けた。


「星、好きだよ」


 そう言うと、また夢中でむさぼるようにキスをする。


「続き、したい。だめ?」


 ――ドクン。心臓が大きな音を立てた。


 そ、そんなこと聞かないでよ~。

 鼓動が早まって、身体が熱い。


「そ、それは。わ、私もあきらのことは好きよ。でも」


「嬉しい」


 にこりと微笑んだあきらが、勢いよく私をソファーに押し倒し、上から覆いかぶさってきた。


 熱を帯びた鋭い眼差しが、私を見下ろす。


「ちょ、ちょっと、待って」


「待てない」


 再び、深いキス。

 そして今度は、その唇がゆっくりと下へ――


 首筋にふれた瞬間、息が詰まるような震えが走った。


「あっ……」


 あきらの手が、私の服にかかる。


「ま、待って! ご飯、あるよ。あきらの大好きなハンバーグ」


 その言葉に、あきらの動きがぴたりと止まる。


「え、本当?」


 ぱっと瞳が輝いた。

 か、可愛い。


「うん。作って待ってたんだよ、あきらのこと」


 じっと見つめると、あきらが少し眉を寄せる。


「そっか、ごめん。待たせちゃったね。思ったより仕事が長引いちゃって……

 でもラッキーだった。星の可愛い寝顔、見れたし」


 にんまり笑うあきら。


「もう、いじわる」


 寝顔を見られていたかと思うと、恥ずかしい。


「星の寝顔、可愛かったよ。今も可愛いけど」


 軽くちゅっとキスをして、あきらは上体を起こした。


 彼の温もりが離れて、ほっとするような、ほんのり寂しいような。

 変なの、さっきは焦ってたくせに。


「せっかく作ってくれた食事、ありがたくいただくよ。

 お楽しみは、あ・と・で、ね」


 そう言って、ウインクを飛ばす。


 あ、あとでって……さっきの続きのこと?

 頬に熱がのぼり、瞬きをした。


「さ、星、ハンバーグちょうだい」


 可愛い笑顔を向けられて、私はあきれつつ、笑みをこぼした。


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