第6話 純粋な瞳に、心ほどけて
「わ、わかった。信じるから」
私は少し迷いながらも、そっと腰を下ろした。
男性はほっとしたように微笑む。
その笑顔が、また可愛いんだ。いっきに顔が熱くなる。
動揺を隠すみたいに、視線をさまよわせながら言った。
「で、でも、まだ完全に信じたわけじゃないからね。
だって、あなたみたいな、その、格好いい人が……おかしいでしょ?
私はどこにでもいる平凡な子なのに」
そう、特別美人でも可愛いわけでもない。それは自分が一番わかってる。
こんなイケメンから告白される要素、ひとつもない。
簡単に「はいそうですか」なんて、信じられるわけがない。
普通、裏があるって思う。
けれど、彼の視線はずっと私を捉えたまま。
そこには、あきれるほどの愛おしさが滲んでいた。
ドキドキ……心臓が早鐘を打つ。
やだ、慣れてないから。
こんなの、騙されちゃいそうじゃん。私、単純?
「君は綺麗だよ。とても。可愛いし、誰よりも」
――ズキュン!
心臓を撃ち抜かれたみたい。
な、なんてこと言うの!?
口をあんぐり開けたまま、まん丸の目で彼を見た。
だって、信じられる?
こんなイケメンが、そんな夢みたいな言葉を言うなんて。
彼はくすっと笑った。その笑い方すら可愛い。
「そうやって表情がコロコロ変わるとこも、素直で可愛いって思う。
きっと、君の性分なんだろうね」
イケてる男子が、きらきらスマイルを炸裂させる。
ひ、ひぇー。可愛いし、カッコいいし。
全身がじわりと熱を帯びていく。
きっと、いま真っ赤。
やっぱり、からかわれてる?
力が抜けて、足腰はへなへな。夢を見てるみたいだ。
そんな自分を必死で保ちながら、彼を見据えた。
「あの、私のこと、何度も見たって言いましたよね?
いったい――」
どんな私を見ていたというのだろう。
彼はにこりと笑った。
思いを馳せるように、ふっと斜め上を見上げ、ゆっくり語り出す。
「街で、君を見かけたんです。
困っている人を見ると、放っておけないんですよね?
最初は、迷子の子どもを案内している姿。
次は、雨の日に傘を持たない人に傘を差し出していた君。
そのあとも、苦しそうにうずくまる女性に声をかけて介助していたり……
ほかにも、たくさんあります」
彼の瞳がきらきらと輝き、まっすぐ私を見つめる。
時おり何かを思い出したように、ふわっと嬉しそうに笑うのだ。
その笑顔が可愛くて、つい見惚れてしまう。
「みんな忙しくて、人のことなんて見ていないのに。
君は、困っている人や悲しんでいる人をすくいあげていく。
誰もが気づかず通り過ぎるものを、ちゃんと拾って、大切にするんだ」
彼は目を細めて、幸せそうに微笑む。
そして、少し息をついてから、そっと言葉を継いだ。
「そんな君を見ていると、僕まで心が洗われていく気がしたんです。
ああ、こんな人間もいるんだって」
今まで笑顔だった彼の表情が、すっと沈む。
「……僕の周りは、計算高い人ばかりでした。
すぐに掌を返す人、妬みや嫉みで足を引っ張る人。
汚い大人たちばかりで、うんざりしてた。
だから、君がすごく眩しくて。
ずっと見ていたい、傍にいたいって思ったんです」
彼は、またまっすぐに私を見た。
「だから会いたくて。暇さえあれば、あの場所に通ってました」
本当なんだ、と直感する。
彼の澄んだ瞳が、そう語っていた。
心が揺れる。
「どうにか君との接点を作りたくて、落とし物で気を引こうって思ったんです。
心優しい君なら、絶対に拾ってくれるって。
……卑怯ですよね、親切心を利用するなんて」
眉を寄せて、自嘲気味に笑う。
悪い人には、とても思えない。
「君と初めて話したとき、舞い上がるほど嬉しかったんです。
だからあんな、急に誘うようなことをしてしまって。
怖がらせて、ごめんなさい」
彼が深々と頭を下げる。
「や、やめてください。もうわかりましたから……あなたの想いは」
思わず口からこぼれた。
だって、あまりにも誠実で、まっすぐで。
とても綺麗で澄んだ心を見せつけられているよう。
「ほんとうですか!?」
彼の瞳がぱっと輝き、ぐいっと近づいてくる。
至近距離から見つめられて、心臓が跳ねた。
こんなの、平気でいられる女子なんているの?
私は彼をそっと見つめ返した。
子犬みたいに潤んだ瞳。
憎めないんだよなあ。
「純粋」って言葉が、こんなに似合う人も珍しい。
このとき、私はもう彼の虜だったのかもしれない。




