表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~  作者: 桜 こころ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/74

第68話 逃走中

 ふと気づくと、ぱらぱらと拍手の音が耳に届いた。


 え、なに?


 驚いて顔を上げ、周囲を見回す。

 いつの間にか、私たちの周りには人だかりができていた。


「ど、どうなってるの?」


 突然の光景に戸惑っていると、あきらが苦笑した。


「まずいな」


 ざわざわと周囲が騒ぎ出す。


「ねえ、あれ……スターライトのアキラじゃない?」

「ほんとだ、絶対そう!」


 近くにいた女性たちが興奮気味に囁き合う。

 その声に反応して、あちこちでスマホを構える人の姿が見えはじめた。


 や、やば……っ!

 あきらを見ると、彼も眉をひそめていた。


 そのとき、ようやく気づく。

 ――帽子もサングラスも、マスクもしていない。

 素顔、丸出し。


 これじゃ騒ぎになるに決まってる。


「あきら、どうしよう!」


 声が上ずり、鼓動が早鐘を打つ。

 パニック寸前だ。


 そんな私たちの前に、影がすっと立った。


「ここは任せて」


 振り向いた小森さんが、にこっと笑う。


「俺も手伝うよ」


 その隣で、守兄が軽くウインクした。


 ……なにこれ。

 なんで二人が?


 呆然と立ち尽くす私をよそに、


「行くぞ!」


 あきらが私の手をぐっと握り、そのまま駆けだした。


「え、ええっ!?」


 引きずられるように、私も走り出すしかない。


 人波をかき分け、空港のロビーを全力で駆け抜ける。

 驚いた人々が道を開けるようにして、次々と身を引いていく。


 途中で振り返ったが、もう小森さんと守兄の姿は見えなかった。


 遠くの人だかりを見つめる。


 二人とも無事でいて。

 心の中で祈りながら、私は必死にあきらの背中を追いかけた。




 しばらく走り続け、空港の外へ飛び出す。

 視界が開けた先に、見慣れたワゴン車があった。小森さんの車だ。


 あきらは迷わずその車へ駆け寄り、ドアを開けて叫んだ。


「乗って!」


「う、うん!」


 その気迫に押され、慌てて車へ飛び乗った。




 ふぅっと息を整えながら、そっと横を見ると、あきらもほっとしたような顔をしていた。


 車内はしんと静まり返り、さっきまでの騒ぎが嘘みたい。


「星、あのさ」


 あきらがぽつりとつぶやいた――そのとき。


 ガラガラッ、とスライドドアが勢いよく開く。


「おじゃましまーす」


 太陽が飛び乗ってきて、ちらりと私とあきらを一瞥する。

 そのまま運転席の後ろに腰を下ろし、ふうっと大きく息を吐いた。


「はあ、疲れた……ほんと、二人にはいつも振り回されるよね」


 こちらを振り返り、いたずらっぽく笑う。


 私はぽかんと太陽を見つめた。


 すると今度は運転席側のドアが開き、小森さんが素早く乗り込んでくる。


 続いてスライドドアが開き、守兄が勢いよく乗り込んできた。

 私にちらりと視線をよこしてから太陽の隣へ腰を下ろし、ドアを閉める。


 車内には、三人の荒い息づかいがしばらく響いていた。


 私はあきらと目を合わせる。

 お互いに目をぱちくり。


「ほんと、困るのよね。こういうことされると」


 沈黙を破ったのは、小森さんだった。

 振り返った彼女は、少し眉を寄せて私を睨む。


「ご、ごめんなさい……」


 慌てて頭を下げる。

 私たちのせいで迷惑をかけたことくらい、わかってる。


 まさか、あんな大騒動になるとは。

 申し訳なくて、肩を落とす。


 すると、あきらがすぐに口を開く。


「小森さん、そういう言い方はないだろ」


「わかってる! わかってるわよ……」


 そう言って、小森さんがふっと力を抜くように笑った。


「もういいわ。二人の気持ちは、よーくわかったから。

 生半可じゃないってことがね」


 どこか寂しそうに呟いたあと、彼女はやわらかく笑う。


「星ちゃん、今まで意地悪してごめんなさい。

 二人のこと応援するわ。絶対に守ってあげる。

 見てなさい、私がいれば百人力なんだから」


 ウインクされ、私はぽかん。

 小森さんはおかしそうに笑った。


「だって仕方ないじゃない。

 あきらったら、あなたがいないとまったく仕事にならないんだから」


 やれやれと首を振る彼女に、あきらが情けない声をあげる。


「そ、それ言うなよぉ……」


「ふふっ、事実でしょ?」


 くすくすと少女みたいに笑う小森さんに、私もつられて笑ってしまう。

 二人は楽しそうに会話をはじめた。


 緊張がゆるんだところで、私は守兄の横顔をうかがった。


 ……さっき、私たちのこと見てたよね? どう思ったんだろう。

 どんな顔をすればいい? 何を言えばいいの。


 アメリカに行くって決めたばかりなのに、またこんなふうに揺れてしまって。いったい何度、彼を裏切った?


 じっと見つめ続ける。

 やがて守兄の視線がこちらへ向き、目が合った。


 心臓が跳ねる。けれど、逸らさなかった。


 ここで逃げたら、もう本当に彼に顔向けできない。


 彼がふっと笑う。いつもの笑顔。なのに、どこか違う。

 やわらかくて、落ち着いていて……でも、ほんの少し寂しそう。


 そして、何も言わずに前を向いた。


 ただ、それだけ。


 胸がじわりと痛んだ。

 拒絶された。

 やっぱり、傷つけたんだ。

 もう、前みたいに笑い合えないのかな。


 それは、私が選んだ道。


 じくじくと胸が痛み、きしむ。

 身を裂かれるような寂しさが押し寄せてくる。


 ……勝手だな。傷つく資格なんてないくせに。


 うつむいたとき、手をそっと握られた。

 驚いて顔を上げると、あきらが優しい笑みを向けていた。


 そうだ。

 私はこの人を選んだ。


 守兄を差し置いてまで、あきらの手を取った。


 胸の痛みがまたぶり返す。

 でも、まっすぐに彼を見つめ返した。


 やがて、車は静かに走り出した。




 窓の外の景色が流れていくのを、ぼんやりと眺める。

 気づけば、もう家の近くだった。


 家から数メートル先の脇道で車が停まる。


 私と太陽、そして守兄が順番に降りると、

 小森さんとあきらを乗せた車は、静かに発進した。


 あきらはこれからまだ仕事があるんだって。相変わらず忙しいんだから。

 でも、そんな中で来てくれたんだ……。


 車が見えなくなるまで手を振り、そっと息をつく。

 それから三人で肩を並べ、家へと歩き出した。


 歩きながら、横目で守兄の横顔をそっとうかがった。


 あれ? そういえば、なんで守兄はここで降りたんだろう。


 小森さんが「送ってあげる」と言っていたのに、

 守兄は断っていたっけ。


「あー……疲れた」


 太陽がぽつりとつぶやいて、先に家の中へ入っていく。

 玄関のドアが閉まると、残されたのは私と守兄だけ。


 き、気まずい。


 ふたりの間に沈黙が落ちる。

 ちらりと彼を見上げると、守兄がようやくこちらを見た。


 にこりと優しく笑う。


 ああ、やっぱりこの笑顔。どこかほっとする。


「ねえ、星。少し公園に寄って行かない?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ