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溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~  作者: 桜 こころ


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第67話 あいしてる

 ――あきら。


 どうして、ここに?

 呆然と立ち尽くしたまま、数メートル先にいる彼を見つめた。


「へへっ、ごめん。僕が呼んだんだ」


 隣にいた太陽が、少し照れくさそうに笑う。


「太陽……!」


 弟が、あきらを? どうして――。

 驚きで言葉を失う私に、太陽が真剣な眼差しを向けた。


「だって、姉ちゃん。自分に嘘ついてるでしょ?

 僕を騙せると思った?」


 にやりと自信ありげに笑うその顔に、ドキリとした。

 さ、さすが我が弟。


「星!」


 あきらが駆け寄ってきた。

 目の前に立った彼は、荒い息を整えながら、まっすぐな瞳で私を見つめる。


 久しぶりに近くで見るあきらの顔。

 その瞳に込められた熱に、鼓動が早鐘を打ち始めた。


 目が離せない。


「おい、おまえ……」


 守兄がすかさず間に割って入ろうとする。

 けれど太陽が両手を広げ、彼を制した。


「はいはい、守兄。ここは我慢」


 太陽が軽く背中を押すと、守兄は一歩下がった。


 周囲の音が遠ざかる。

 人々のざわめきも、アナウンスの声も消え、まるで広いロビーに私とあきらだけが残されたみたいだ。


 視界にあるのは、彼の存在だけ。


 静まり返った空間で、ただ見つめ合う。

 突然の登場に、頭が真っ白になって言葉が出ない。


「……星が好きだ」


 あきらの声が、心にそっと触れる。

 名前を呼ばれただけで、胸がきゅっとなった。


 久しぶりの再会だった。

 ずっと避けてきた彼と、こうして向き合うのは本当に久しぶりで。


 遠くから姿を見かけることはあっても、守兄や太陽が間にいて、近づくことさえなかった。


 あきらが、私の肩を掴む。

 その手はとても力強くて熱い。


「行くな!」


 切実な声。

 その必死さに、心が揺れた。


「だって……もう、決めたことだから」


 やっとそれだけを返す。

 込みあげてくる想いを、必死に押し込めた。


「星がいないとダメなんだ。何も手につかない。

 仕事も、プライベートも、俺、ほんとに壊れそうなんだ」


 うつむきながら絞り出す声。

 肩は小刻みに震えていた。


 抱きしめたい衝動に駆られる。

 胸が締めつけられ、息が苦しくなった。


 あきらが顔を上げる。


 涙に濡れた瞳が、まっすぐに私を射抜く。


「アメリカへ行くって聞いて、いてもたってもいられなかった。

 星がいない世界でなんて、生きていけない。俺、ずっと苦しくて……」


 苦悶の表情で言葉を吐き出すあきら。

 短い呼吸を繰り返しながら、必死に気持ちをぶつけてくる姿に、胸が熱くなる。視線を逸らせない。


「さよならを告げられたあの日から、俺の世界は真っ暗になった。

 何もやる気が起きなくて、毎日がただ過ぎていくだけ。

 ――改めて思ったんだ。俺には星が必要だって。

 永遠にいなくなるかもしれないって考えたら、俺、俺……っ」


 ぽろりと、一筋の涙が彼の頬を伝う。


「仕事だって、星がいたから頑張れた。すべてに意味があった。

 星がいないなら、もうどうでもいい!」


 叫ぶ声が、胸に深く突き刺さる。

 心が大きく揺れ動き、痛みに似た熱が込みあげた。


 仕事がどうでもいい。


 その言葉が耳にこびりついて離れない。

 あきらの口から、そんな言葉を聞く日が来るなんて。


 それが、私のせい?


 心がぎゅっと縮み、激しい痛みが襲った。

 だめだ、それじゃ意味がない。


「なんでよっ! あんなに楽しそうに仕事してたじゃない。

 夢だってあったでしょ? ファンの子たちだって、あなたを待ってるのに!」


 声が震える。

 溜まっていた思いを吐き出すように、必死に言葉を重ねた。


「仕事を頑張るあきらが、夢を追う姿が素敵で……好きだった。

 だから……私は――」


 喉がきゅっと閉じ、声が出なくなる。

 涙がにじみ、視界がぼやけた。


 そう、だから私は身を引いた。

 あきらの夢や仕事の邪魔になりたくなくて。


「ああ、そうだよな……星は優しいから、俺のことを考えてくれたんだよな」


 あきらの声が静かに降ってくる。

 その瞳は澄んでいた。


「でも、それは間違ってる。

 星がいたから頑張れたんだ! 星がいなきゃ何もできない、意味がない。

 自分を保てない、頑張れないんだよ!」


 その叫びに、心が震える。

 あきらは大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。


 そして、真っ直ぐに私を見据える。


「星、愛してる。

 これからもずっと、俺の傍にいてくれ」


 熱い気持ちが流れ込んでくる。

 彼の想いが痛いほど伝わってきて、こらえきれずに涙がこぼれる。


 胸の奥で、ずっと渦巻いていた不安が、涙と一緒にあふれ出しそうになる。

 祈るような気持ちで、彼を見上げた。


「あきら……私、そばにいていいの?

 あなたの夢や仕事の足かせにならない?」


 声が震え、また涙が落ちる。


 あきらは一瞬きょとんとしたあと、ふっと笑った。


「なんだ、そんなこと気にしてたのか。

 もう、星は……ほんと、バカだな」


 顔を背け、短く息をつく。

 そして、困ったように笑いながら、もう一度私を見つめた。


「星じゃなきゃ、ダメなんだよ。

 俺には君が必要なんだ。

 愛してる。俺のそばにいてくれ」


 一言一言が胸に沁みていく。

 冷たく固まっていた心が、彼の言葉で少しずつ溶けていった。


「あきら……っ」


 気づけば、体が勝手に動いていた。

 あきらの胸に飛び込む。


 一瞬驚いたように息をのんで、それから強く抱きしめてくれた。


 あたたかい。


 懐かしい匂いと鼓動に、胸がいっぱいになる。


「……好き、愛してる」


「ああ、俺も」


 私はそのまま、あきらをぎゅっと抱きしめた。


 世界が二人だけになったみたい。

 今まで感じていた怖さなんて、どこかへ消えてしまった。


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