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溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~  作者: 桜 こころ


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第63話 つらい日々

 そして翌朝。

 玄関を出たその瞬間、大きな声が耳を打った。


「星!」


 そこには、肩で荒く息をしているあきらが立っていた。


 苦しげに顔を歪め、まっすぐに私を見つめる。

 心臓が跳ね、足が止まった。


「なに突っ立ってんの?」


 背後から太陽が現れる。

 あきらの姿を目にして、彼も息を呑んだ。


 三人のあいだに、ぴんと張りつめた空気が広がる。


「話を、聞いてくれ」


 あきらが一歩、また一歩と近づいてくる。

 体が強ばり、動けない。


「……姉ちゃん?」


 私の様子に気づいた太陽が、すっと前へ出る。


「来るな!」


 鋭い声が、朝の静けさを切り裂いた。


 思わず弟を見つめる。


「もう、姉ちゃんを苦しめないでよ」


 低く震える声には、怒りと悲しみが入り混じっていた。


「どけ。これは俺たちの問題だ。おまえには関係ない」


 あきらの声にも苛立ちがにじむ。

 その瞳には、深い悲しみが揺れていた。


「どかない」


 太陽はきっぱりと答え、両腕を広げて私を庇う。


 壁のように立ちはだかるその背中を見つめ、胸が痛んだ。

 私、いったいどれだけ心配をかけてるんだろう。

 ごめんね、太陽。


 張りつめたような沈黙が続く。


 コツ、コツ、と近づいてくる足音。

 次の瞬間、のんびりとした声が響いた。


「おやおや、朝からドラマみたいだな」


 玄関口に現れたのは、守兄だった。

 爽やかな笑顔を浮かべ、呆然と立ち尽くすあきらの横を通り抜ける。


 そのまま私の前までやってきた。


「ま、守兄……」


 名前を呼ぶ間もなく、私はぐっと引き寄せられた。

 力強い腕の中に閉じ込められる。


「星は俺のものだ。もう、あきらめろ」


 耳元で響く低い声。

 その鋭い眼差しが、あきらへ向けられるのが見えた。

 私は息を呑み、彼の腕の中で呆然とする。


 そのとき、駆けだす音が聞こえた。

 振り向いたときには、もう、あきらの姿はなかった。


 胸がズキンと痛む。


「大丈夫?」


 抱きしめたまま、守兄が心配そうに覗き込んでくる。


「う、うん……」


 ぎこちなく微笑むと、彼も優しい笑顔を返す。

 昔と変わらない、あの穏やかな笑顔。懐かしさと安心感、そしてときめきが胸に広がる。


 この人といれば、大丈夫。


 大きな愛に包まれているような感覚。

 あきらと一緒にいるときには、感じられなかったもの。


 これでいい。私はこの人と幸せになるって、決めたんだから。


 そっと彼の胸に顔をうずめる。

 トクン、トクンと響く鼓動と体温が、張りつめていた心を少しずつ解きほぐしていく。


 ……けれど、心の奥で小さなざわめきがした。


 本当にいいの? それが本心なの?


 問いかける声を、必死に振り払う。

 もう迷わない。そう、自分に言い聞かせながら。


 守兄の腕がぎゅっと強くなる。

 その温もりに包まれながら、私もそっと抱き返した。



 ***



 それからというもの――

 あきらは、毎日のように私の前に姿を見せるようになった。


 あの日、姿を消したきりだったから。

 てっきり、もうあきらめたんだと思っていた。


 でも、それは違った。


「星! 俺はあきらめないからな!」


 まっすぐな瞳で叫ぶあきら。

 その姿を見るのがつらくて、私はただ背を向けることしかできなかった。


 そして、守兄も一歩も引かなかった。


 いつも私のそばにいて、朝は家まで迎えに来て、登校にも付き添ってくれる。

 車で送ってくれるけど、人目を気にする私のために、校門の少し手前で降ろしてくれた。


 帰りも同じ。

 校門の近くには決して姿を見せず、離れた場所で待っていてくれる。

 そのまま車に乗って、夕食の買い物をして一緒に帰宅。


 二人でごはんを作って、太陽を交えて三人で食卓を囲む――そんな日々が続いた。


 夜が更けるまで、彼は帰らず、いつも傍にいてくれた。


 登下校のとき、遠くにあきらの姿を見かけることもあった。けれど守兄が一緒だったからか、直接声をかけてくることはなかった。


 家に来たときも、応対するのは守兄で、私は顔を合わせないまま一日が終わっていった。


 そんな日々の繰り返し。


 これでいいのだろうか。

 私はただ、あきらから逃げているだけ。

 守兄の優しさに甘えて、守られているだけ……。


 ふと顔を上げると、いつもそこには優しい眼差しがある。


 こんなの、きっと駄目。

 本当は私が。

 あきらと、自分の気持ちと、向き合わなきゃいけないのに。


 でも。

 あきらのことを思い出すたび、姿を見るたび、胸が締めつけられるように苦しくなる。

 どうすればいいのか、わからなくなる。


 心の奥で、いつも悲鳴のような声が響いていた。




 そんなある日のこと。


 夕食を終え、並んで洗いものをしているときだった。

 守兄がぽつりとつぶやいた。


「……俺と、アメリカへ行かないか?」


お読みいただきありがとうございます!完結に向けて、毎日更新中です。

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完結後には新作も予定しています。最後までお楽しみください。

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