表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~  作者: 桜 こころ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/74

第59話 さようなら、大好きな人

「ごめん。もう、あきらと一緒にいるの疲れた!」


 静まり返った部屋に、虚しく響く。


「えっ……」


 息を呑む気配。

 恐る恐る目を開けると、大好きな彼の傷ついた顔。


 ズキン。胸がじんじんと痛む。


 だめだ、ここでくじけちゃ。

 彼があきらめてくれるように、突き放さないと。


 私は視線を逸らし、声を振り絞った。


「あきらといると……疲れるの」


 声が震える。

 嘘をついているから。どうか、ばれませんように。


「いつも周りに気を遣って生活しなくちゃいけない。

 会うときだって、普通の恋人みたいに気軽に会えない。

 あきらの仕事のことだって、どれだけ配慮してきたか。

 それを私が楽しんでるとでも思ってたの?」


 喉の奥が熱くなるのを感じながら、勢いに任せて続ける。


「私は普通のお付き合いがしたい。普通の恋人がほしい。普通に恋愛したいの!」


 一気に言い切った。

 そうでもしなきゃ、途中で声が詰まってしまいそうだったから。


 体が震える。必死に抑えても止まらない。

 喉はからからに渇き、唾を飲み込もうとしてもうまくいかない。


 ……言ったことは、全部が嘘じゃない。

 ほんの少し、思ったこともあった。


 でも、それ以上に。


 あきらのことが好きで、愛しくて。


 一緒にいられるなら、どんなに苦しいことも乗り越えられた。


 だけど、もし傍にいることであきらの邪魔になるなら。

 彼の夢や目標の、つまずきになるなら。


 その可能性が少しでもあるなら、身を引かなきゃ。


 そう、決めたはずだった。


 なのに、じわりと涙がにじむ。

 だめ、見せちゃいけない。


 堪えろ。涙なんて出るな……! ここで泣いたら、ばれちゃう。


「なんでだよ! 俺のこと好きじゃないのか?

 離れても、平気なのかよ!?」


 あきらの叫びが胸を突き刺す。

 心が悲鳴をあげた。


 やめて……そんなわけない。私は、あなたのことが――


 胸がきしみ、心臓がズキズキと痛む。


「好きじゃない! 私が今好きなのは、守さんよ!」


 それは、悲痛な叫びとなった。


 二人とも、もう冷静ではなかった。

 いつもの私たちなら、どこかおかしいとすぐに気づけたはず。


 でも、このときは、お互い普通ではなかった。


 いっそ嫌われてしまえばいい。その方が潔く、あきらめもつく。


 だけど。

 重なった視線の奥に、悲しみが色濃く滲んでいた。

 激しく揺れるその瞳が、彼の感情の深さを物語っている。


 ……あきら、傷ついてる。


「いやだ、俺は星が好きだ! 星じゃなきゃダメなんだよ!!

 好きだ、好きだ、愛してる。ずっと一緒だろ? 俺の側にいてくれ!」


 震える叫び声。涙を浮かべた瞳。

 こんなふうに取り乱したあきらを見るのは初めてで……。


 今すぐ抱きしめてあげたい。

 そんな衝動が喉元まで込み上げた。


 でも、だめ。もう決めたんだから。


 こぶしを固く握りしめ、目をぎゅっと閉じた。

 もう何も感じたくない。

 すべての感覚を閉ざしてしまえたら、どんなに楽だろう。


 その瞬間、強い腕が私を抱き寄せた。

 逃げられないほどきつく、息が詰まるほどに。


 押しつけられるようなその温もりに、めまいがする。

 久しぶりに感じる彼の体温と抱擁が、心の奥底をかき乱していった。


 こんなことされたら、せっかく断ち切ろうとした想いが揺らいでしまう。


 やめて……お願いだから。


 そう思うのに、すぐには突き放せなかった。


 ……ああ、やっぱりあきらが好き。

 この温もりに包まれていたい。触れていたい、一緒にいたい。

 抱きしめてほしい。


 溢れる想いが止まらない。


 精いっぱいの力で、あきらを突き放す。

 もう、彼の顔を見られない。


 顔を背けたまま、かすれた声でつぶやく。


「……さよなら」


 立ち上がって、そのまま駆けだした。

 背中に彼の声が聞こえたけど、振り返らずに家を飛び出した。


 息が苦しい。それでも走る足は止まらなかった。

 涙が頬を伝っていくのも構わない。


 とにかく、あきらから離れたかった。


 ただ、逃げたかった。


 荒く短い呼吸を繰り返しながら駆け抜ける。


 誰かとすれ違いざま、ふいに腕を掴まれ足が止まった。

 振り返ると、目を丸くした守兄がいた。


「星、どうした? 大丈夫か」


 心配そうに眉を寄せ、真っ直ぐに私を見つめてくる。


「ま、もる……にぃ」


 その顔を見た途端、張り詰めていた糸がぷつりと切れた。


 ふらりと身体が揺れると、守兄が支え、抱き留めてくれる。

 そのまま彼の胸に顔をうずめた。


 声を押し殺しながら、泣く。


 背中に添えられた手が、そっと包み込んでくれた。


 ……あたたかい。


 私はすがるように、そのぬくもりに身を委ねた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ