第5話 告白と彼の素顔
なんだかんだで、結局こうなる。
私はテーブルを挟み、彼と向かい合っていた。
さっきの盛大なズッコケに、少しほだされてしまった。
まあ、憐れんだとも言うけど。
そのあと必死にお願いされて、仕方なく聞き入れることにした。
どこかで話そうって言うから、私のバイト先に連れてきちゃった。
だって、またあんな高級そうな店に連れて行かれても困るし。
ここなら私の知り合いもいるし、周りの目もある。
もし彼が危ない人でも、危険な目にあう可能性は低いはずだ。
ここは、メイドカフェ。
店内には、可愛いメイド服の女の子たちがたくさん。
忙しそうに行き交いながら、時折そろって可愛らしい声をあげる。
「おかえりなさいませ、ご主人様~!」
改めて思った。――これ、かなりこっぱずかしい。
いつもは従業員として働いているから気にならなかったけど、客として座ると破壊力がすごいな。
男性は先ほどからそわそわと落ち着かない様子。
居心地が悪そうだし、こういう場所には慣れてないんだろう。
たしかに彼は、この店には少し不釣り合いに見える。
お客さんでこんなイケメン風の人、あまり見たことないし。
でも、この店でよかったとつくづく思った。
働いている子たちは顔見知りだし、何かあれば助けてもらえる。
男の人と会ってるのを見られるのは、ちょっと恥ずかしい。けど、背に腹は代えられない。
先ほどから店員たちの視線がちらちら刺さる。正直、居心地はよくない。
視線が合わないように外の景色に集中する。
……次のバイトのとき、絶対なにか言われるな。
心の中で小さく息をついた、そのとき。
「あの……」
彼が声をかけてきた。
「はい」
私はできるだけ冷めた態度で返事をする。
まだ彼がどんな人かはわからない。隙は見せられない、と意気込む。
「あの、なんだか誤解されている気がするので、本当のことを言いますね」
えらく神妙な雰囲気だ。
「どうぞ」
私が促すと、彼はしばらく黙り込んだ。
そして、意を決したように口を開いた。
「俺、あなたのことが好きです。付き合ってください」
まっすぐな目をして、そう言った。
「……は?」
私はその場で固まった。
彼が言うには――
今まで、何度も私のことを見かけていたらしい。
街に出かけたとき、ふと視線を向けた先に私がいて。
そんな偶然が何度も重なって、いつの間にか気になる存在になって、
目で追ううちに、好きになったんだって。
ほんとうかなあ? だって、そんなことってある?
たまたま見かけて、気になって、目で追って。
好きになった?
少女漫画か!
でも、彼の顔。真剣そのものだ。
騙そうとしているようには、まったく見えない。
うーん……。
接点を作ろうとして、あの落とし物作戦まで決行したってわけか。
私はじっと彼を見つめる。
澄んだ瞳。まっすぐで、どこか不器用そうで。
こんな人が嘘ついたり、からかったりするだろうか?
考え込みながら、視線を逸らす。
どう反応すればいいのか、正直わからない。
これが本当だとして。男性から告白されたのなんて初めてだ。
嬉しい気持ちはもちろんある。
しかし――
私はもう一度、彼を見た。
やっぱりイケメンっぽいんだよなあ。
でも、なんでそんなイケメンが、私なんかに?
確かめてみるか。
ひとつ咳ばらいをしてから、告げた。
「私に近づいてきた理由はわかりました。
でも、いきなりそんなこと言われても困ります。私はあなたのこと、よく知らないし。
それに、失礼じゃないですか? ずっと帽子とマスクつけたままだなんて。
告白するなら、取ってください」
言ってから、少し棘のある言い方になってしまったかもと気づく。
でも、これが筋でしょ。
顔を隠したまま告白するなんて、どう考えてもおかしい。
男性は困ったように周囲を見まわした。
そして、決心したように帽子とマスクへ手を伸ばし、
ゆっくりと外していった。
「え――」
思わず息を呑んだ。
だって、すっごいイケメン。いや、美少年。
俳優かアイドルかってくらいの完璧さで、目が離せない。
整った目鼻立ちに、くっきり二重。
形のいい唇がふわっと笑えば、もう芸術作品みたいだ。
私は口を開けたまま固まった。
逆に疑いが深まるんですけど?
こんなイケメンが私に告白? 怪しすぎる!
目を細めて問いただす。
「あの……詐欺ですか? 私を騙しても無駄ですよ。
すっごい貧乏なんで、お金なんてありません。
他を当たってください」
立ち上がろうとする。
完全に詐欺だと決めつけていた。
「まって!」
また手を握られる。
「もういい加減にしてください! からかってるんですか?」
反射的に叫んで、ぷいと顔をそむける。
「ご、ごめんなさい。……でも、本気です。本気なんです。
それだけは、信じてください」
切実な声に、そっと視線を向ける。
ゆらゆらと揺れる瞳と、目が合った。
トクン、と鼓動が跳ねる。
……そんな子犬みたいな目で、見ないでよ。




