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溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~  作者: 桜 こころ


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第58話 最善の答え

 昔を思い出しながら、ゆっくりと言葉を紡いでいく。

 懐かしい日々が、記憶の奥底から静かに蘇ってきた。


「守兄と出会ったのは、私がまだ幼い頃。たぶん六歳くらいだったかな。

 本当のお兄ちゃんみたいな存在で、優しくて、頼りになって。

 いつも後ろをついて歩いてたんだ」


 当時のことを思い浮かべると、自然と頬がゆるみ、くすっと笑みがこぼれる。


「でも、ある日を境に、彼のことを意識するようになったの。

 “お兄ちゃん”から、“男の人”に変わった。

 勝手に恋をして、好きになって……。

 でも、十歳も年が離れていたから、相手にされるはずないって思ってた。

 彼にとって私は、妹みたいなものだって」


 あの頃の胸の高鳴りが、じんわりと甦ってくる。

 焦がれるような、甘くて切ない感情。


「まだ子どもだったから、これが恋なのかもよくわからなかった。

 告白なんてできなくて、ずっと心にしまい込んでた。

 そんなとき、私が十二歳のとき。

 突然、守兄は私の前から姿を消してしまったの。

 理由も告げずに、アメリカへ飛び立ってしまって……」


 あのときの寂しさを思い出すだけで、胸が張り裂けそうになる。

 大切な何かを引き剥がされたようで、悲しくて、寂しくて。


 それほどまでに、あの頃の私にとって守兄と離れることは、耐えられないほどつらかった。


「ああ、もう終わったんだって思ったの。

 私の初恋は終わったんだって。だから忘れようって決めた。


 それでも、しばらくは守兄のことが好きで……なかなか忘れられなくて。

 でも私の人生もそれなりにいろいろあったから、そのうち彼のことを思い出す時間も少しずつ減っていって。

 やっと忘れられそうになった」


 そう言いながら、あきらを見つめる。

 彼もまた、じっと私を見返していた。


「そうして、あの別れから四年が経って、また私の前に彼が現れたの。

 本当に驚いた。もう二度と会えないと思っていたから。


 アメリカへ発つ時も、帰ってくる時も、待っていてほしいなんて一言もなかった。

 だから、あれは永遠の別れだと思ってた。


 それなのに、再会できただけでも信じられなかったのに……まさか“好き”なんて。

 本当に夢かと思ったくらい、驚いたの」


 胸の奥に溜まっていた感情を吐き出すように、ゆっくりと息をつく。


「守兄がいなくなって、彼の存在が私のなかで薄れていくなか、

 あなたと出会った。そして、恋をした」


 にこりと笑みを浮かべると、あきらが少し目を見開き、すぐにその目元がふっとやわらいだ。


「もう彼のことは忘れた、つもりだった。


 でも……」


 しんと静まり返る。


 先ほどから、あきらは身動きひとつせず、じっと私を見つめている。

 その視線が痛くて、思わず目を逸らした。


「守兄と再会したとき、やっぱり嬉しかった。

 だって、初恋の人だったから。それに、私にとって彼は大切な存在で。

 つらいとき、苦しいとき、いつも心の支えになってくれた。

 忘れていた想いが、また溢れてきて」


「……うん」


 低く静かに相槌を打つ彼の表情は固いまま。

 真っすぐ向けられる視線に、鼓動が跳ねる。


 落ち着こうとお茶を一口含み、姿勢を正した。


「私は、あきらが好き。それは本当。

 ……守兄のことも、好きだけど」


 喉が少し震える。

 それでも目を逸らさず、言葉を続けた。


「でも今、付き合っているのはあきらで、私の想いもあきらにある。

 本当は断ろうと思ったんだよ。実際、何度も断った。

 でも、あきらといろいろあって、揉めたり、喧嘩したり、ショックなことが続いて。

 精神的に参っちゃって。そんなとき、守兄がそばにいて優しく支えてくれた」


 一息ついて、苦笑いがもれる。


「でも、それを理由にしちゃいけないよね」


 言い訳なんてしたくない。伝えたいのは、そこじゃない。

 ぐっと力を込め、あきらを見つめ直す。


「私たちのこと……これまでのことも、これからのことも。

 いろいろ考えたの」


 ふたりの未来。

 あきらのため、私のために。


 ふと、小森さんの言葉が脳裏をかすめる。


「今回のことで、改めて考えたんだ。

 あきらにとって、私にとって、一番いい道を」


 ごくりと喉が鳴る。


「……あきらは、私といない方がいいんだと思う」


 言葉を口にした瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。

 覚悟していたはずなのに、心が凍りついたように冷えて、息がうまくできない。


 数秒の沈黙。


「は? なに言ってるの?」


 呆れたような声。

 あきらが勢いよく身を乗り出してきて、怒りを含んだ瞳が私を射抜く。


 そうだよね。いきなりこんなこと言われたら、混乱するに決まってる。

 喧嘩して、やっと会えたと思ったら、

 他の人と付き合っていて、そして今度は別れ話。


 理不尽すぎる。怒るのも当然だよ。


 それでも、これがあきらのためなの。

 彼に、私は必要ない。


 震える唇をかみしめ、ぎゅっと目を閉じる。


 これから言おうとしていることが、怖くてたまらない。


 想いを振り切るように、思いきって叫んだ。


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