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溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~  作者: 桜 こころ


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第45話 悲しい別れ

 雷に打たれたような衝撃が全身を駆け抜けた。

 その場に立ち尽くすしかなく、頭は真っ白で、体は硬直して動けない。


 ふと、あきらがこちらを見た。

 目が合った瞬間、彼の瞳が大きく見開かれる。


「――星!」


 駐車場に大きな声がこだました。

 その声にはじかれるように、固まっていた思考が一気に動き出す。


「あ……」


 やっと体が反応し、無意識のまま駆け出していた。

 あきらに背を向けて、ただ、逃げる。


 背後から彼の声が追いかけてきたけど、聞こえないふりをして走り続けた。


 息が苦しい。胸が締めつけられる。

 気持ちが、悪い。


 いったい何が起きているの? 頭がうまく働かない。


 ただひとつ確かなのは、今はここから、あきらから離れたいということだけだった。



 私はそのままエレベーターに飛び込み、地上一階のボタンを何度も連打した。


 エレベーターの中。

 浮遊するような感覚に身を委ねながら、ただ呆然と前を見つめる。

 ドキドキと心臓が激しく脈打ち、頭はまだぼんやりする。


 今は、あきらから逃げることしか考えられなかった。


 さっきの光景が脳裏をよぎる。

 振り払うように首を振り、目をぎゅっと閉じた。


 到着を告げる音が鳴り、扉がゆっくりと開いていく。


 その先には、あきら。


 肩を上下させ、荒い呼吸を繰り返しながら、まっすぐこちらを見ている。


 怖気づく心を奮い立たせ、一歩前に出た。

 彼の横をすり抜けようとした瞬間、腕をぐっと掴まれる。


「は、離して!」


「いやだ!」


 振り払おうとしても、びくともしない。

 必死な形相で見つめてくるその瞳からは、真剣な想いがひしひしと伝わってきた。


 怖くて、私は顔を背ける。


「お願いだ、話を聞いて」


 掴まれた腕に力がこもり、じんと痛みが走る。


 いやだ、聞きたくない。いったい何を言うつもり?

 さっきの言い訳?


 戸惑いながらも視線を戻すと、あきらの瞳がほんの少しやわらいだ。

 ほっとしたように頬が緩む。

 その表情につられて、私の肩の力も一瞬抜ける。


 その隙を逃さず、あきらは強く引いた。

 そのまま彼に連れられていく。


 強引なのに、その中でさえ優しさを感じてしまう。

 あきらは優しい人だから。

 だから、きっと……あれも違う。


 そう思いたかった。信じたかった。




 あきらに引きずられるようにして連れてこられたのは、駐車場の隅だった。

 立体駐車場の影になっていて、外からは死角になっている場所。


 そこに立ち止まると、あきらが私の方へ向き直る。

 手はまだ、しっかりと私の腕を掴んだまま。


「……聞いてくれ」


 懇願するような瞳から逃れるように、私は顔を背けた。


「聞きたくない」


 本当は、あきらを信じたい。

 でも今は、心がすり減っていて、受け止める余裕なんてなかった。


 小森さんとあきらのキスシーンが、頭の中で何度もよみがえる。


「あれは……あれは小森さんが勝手にしてきたんだ。俺がしたわけじゃない」


「もう、いい!」


 思わず声が大きくなる。


 あきらを信じていないわけじゃない。

 彼が浮気なんてするはずない。優しい人だし、私のことを好きでいてくれてるのもわかってる。信じてる。


 でも……でも!

 心が悲鳴をあげていた。


 守兄のことがあって、傷ついていた。

 本当は、その痛みをあきらに癒してほしくてここまで来たのに。

 なのに、さらに深く傷をえぐられて。


 もう、どうすればいいのかわからなかった。

 感情をコントロールできない。


 だから、言うつもりなんてなかったのに。

 つい口をついて出てしまった。


「私……ずっと我慢してきた」


 口が勝手に動く。

 奥深くに溜め込んでいた想いがあふれ出し、もう止められなかった。


「アイドルだから仕方ないって。

 普通の恋人みたいにはいかなくて、たくさん我慢した。本当はしたいこと、いっぱいあったのに。

 それでも、あきらのためならって。応援したいって思ってたのに」


 本当はこんなこと言いたくない。

 なのに、言葉は次から次へとこぼれていく。


「いつも、小森さんからもいろいろ言われて……」


「え? 何それ?」


 あきらが驚いた顔で覗き込んでくる。

 でも、振り切るように続けた。


「ずっと、つらかった! つらかったの。

 私はあきらの何なのかな? 一緒にいて、あきらは幸せなのかな」


 それは、ずっと心の中で繰り返してきた疑問。

 聞きたくて、でも怖くて、ずっと聞けなかったこと。


 あきらは戸惑っていた。

 初めて本心を突きつけられて、動揺しているのだ。


「何言ってんだよ、当たり前だろ? 俺は星と一緒じゃなきゃ」


「もう、疲れた!」


 私の叫びが、暗く重たい駐車場の空気を震わせるように響き渡った。


「ひ、星……」


 あきらは呆然としたまま、ぽかんとした顔で私を見つめていた。


 違う、こんなことを言いに来たんじゃない。


 本当は慰めてほしかっただけ。

 傷ついた心を優しく受け止めてほしかっただけなのに。


「星、ごめん。そんなに君を追い込んでいたなんて……我慢させてたなんて、知らなくて。

 でも、俺は……」


 そう言って、あきらは私を強く抱きしめた。


 いつもなら、嬉しくて幸せで仕方ないはずなのに。

 今は苦しくて、張り裂けそう。


「離して!!」


 思いきり突き飛ばすと、あきらは泣きそうな目で私を見た。


「……どうして」


 困惑した表情でつぶやいたあと、彼はうつむく。

 そして低く、ぽつりと漏らした。


「もしかして、あいつか?」


 空気がぴんと張り詰めた。

 あいつ? まさか。


 あきらが顔を上げる。その瞳は怒りに燃えていた。

 詰め寄りながら怒鳴る。


「あの、本条守だろ! あいつがいいのか?

 だから俺と別れるために、そんなこと言って、今日だってその話で俺を呼び出したのかよ」


 吐き捨てるような言葉に、心は痛み、体が震えた。


「ち、ちがう! 私は――」


「いいよ! もう」


 強い声に遮られる。


 本当は違う、勘違いだって伝えたかった。

 でも、ひどく憔悴し、うなだれるあきらの姿に、

 今は何を言っても届かない気がした。


 私も、彼も。

 ひどく傷ついていて、心を閉ざしていた。


 沈黙が落ちる。


 駐車場はしんと静まり返り、重苦しい空気に包まれていく。


「しばらく、俺たち会わないほうがいいのかも」


 あきらの言葉が、鋭く胸に突き刺さる。

 心が痛くて、涙がにじんだ。


 何か言おうとしたけれど、彼は私に背を向け、そのまま歩き出す。


「まっ……あき、ら」


 声が出ない。胸が詰まって、言葉にならなかった。


 私はただ、立ち尽くして、

 憂いを帯びた彼の背中を見送ることしかできなかった。


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