表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~  作者: 桜 こころ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/74

第44話 追い打ちの接吻(くちづけ)

「ま、守兄……?」


 何が起きたのかわからなくて、ただ彼を見つめることしかできない。


「星、好きだ。好きだ!」


 荒々しい声が響く。

 いつもの冷静な守兄じゃない。


 息は荒く、目まで血走っていて、まるで別人のようだ。


 戸惑う間もなく、唇を奪われる。


「……っ、いや!」


 叫び、顔を背けて必死に抵抗する。


 手を伸ばして押し返そうとするが、あっけなく掴まれて床に押し戻された。

 両手を押さえつけられ、身動きがとれない。


 次の瞬間、首筋に唇が触れる。


「あっ、やだ!」


 必死にもがいても、力が強くて、どうにもできない。


「やめて……やめてよ、守兄」


 涙声で訴えると、彼の動きがぴたりと止まる。

 見上げると、哀しみに濡れた瞳が私をじっと捕らえていた。


 どうして、こんなことになってしまったの。

 混乱でうまく思考が働かない。


 そのとき。


 ガラガラッと玄関の扉が開く音がした。


「ごめん、ちょっと荷物忘れた」


 太陽の声だ。こちらへ近づいてくる。


 守兄ははっとしたように私から体を離し、立ち上がった。

 私を一瞥すると、そのまま逃げるように駆け出した。


 そのとき、廊下から太陽が姿を現した。


「うわっ! 守兄?」


 ばったり出くわした太陽が驚きの声をあげる。

 けれど守兄は振り返りもせず、そのまま走り去ってしまった。


 太陽は呆然と背中を見送り、ぽつりとつぶやく。


「……いったいどうしたっていうんだよ」


 こちらへ視線を向けると、目を丸くした。


「えっ!? 姉ちゃん、大丈夫? 何があったんだよ!」


 駆け寄ってきた太陽に支えられ、私はゆっくり体を起こす。

 その瞬間、こらえていた涙がじわりと溢れ、止まらなくなった。


「ふっ、うぅ……」


 泣き続ける私の横で、

 弟は戸惑いながらも、ずっと寄り添ってくれた。




 次の日の朝。

 部屋の入り口に立った太陽が、優しく声をかけてきた。


「姉ちゃん、大丈夫? 僕、学校行ってくるね」


 そう言って、しばらく気遣うように佇んでから、静かに家を出ていった。



 私は布団の中で丸まったまま、ドアの閉まる音に耳を澄ませる。


 昨日、守兄に押し倒されたあの瞬間から、私はショックで何もできなくなっていた。


 部屋に閉じこもり、食事も取らず、ただ眠るように時間をやり過ごす。

 途中、太陽が世話をしてくれていた気がするけど、その記憶も曖昧で霞んでいる。


 弟に甘えてしまって、申し訳ない。

 頭ではわかっているのに、体が重くてどうしても動けなかった。


 学校へ行くこともできなくて、今日は休むことにした。


 はぁと大きなため息をこぼしながら、また思考にふける。


 あきらに会いたい。


 昨日のことを思えば、守兄を気にするはずだよね。

 ……なのに。

 心の中に浮かんでくるのは彼のこと。


 胸に残った不安も恐怖も、癒してくれるのは彼しかいない。

 あの温もりに包まれたい。そっと抱きしめてほしい。


 すがるような気持ちで、私はあきらに連絡を取った。



 きっと、私の声はいつもと違っていたのだろう。

 電話をしてすぐに、あきらの声色が変わった。


 どこか張り詰めたような響きになって、私が「会いたい」と言うと、二つ返事で了承してくれる。

 仕事は大丈夫なのかと尋ねると、彼は明るい声で「大丈夫」と返した。

 きっと忙しくても、私のために時間を作ってくれるに違いない。


 あきらは、そういう人だから。


 迷惑をかけている自覚はある。

 普段の私なら気を遣って、こんなことは言わなかったはずだ。

 でも……今はひとりでいることが耐えられない。


 早くあきらに会いたかった。

 会って、あの笑顔が見たい。抱きしめてほしい。


 その想いが何よりも勝っていた。


 急いで着替え、身だしなみを整える。

 本当ならそんな余裕なんてなかったけど、やっぱり乙女だ。

 好きな人に会うなら、きちんとした姿で会いたい。



 あきらと約束した場所へ向かう。

 気持ちが逸って、鼓動が大きくなっていく。


 早く、会いたい。


 彼の笑顔が脳裏によみがえり、それだけで心が少し軽くなった。


 待ち合わせの場所は、近所にある大きなショッピングモールの地下駐車場。

 一番下の階、隅の方の目立たない場所だった。


 内緒で落ち合うとき、私たちはいつもここを使っていた。


 人も少なく、誰の目にもつきにくい。


 エレベーターで最下層へ降り、扉が開くなり飛び出して、あたりを素早く見回す。

 ……人はいない。大丈夫そう。


 いつものように周囲の確認を済ませ、私はまっすぐ目的の場所へ歩いていった。




 視線の先に見えてきたのは、いつものワゴン車だった。

 小森さんが普段運転している、あの車だ。


 胸がざわつく。

 こんなときでも……あきらはあの車で来るんだ。

 もしかして、今日も一緒なんだろうか。

 私と会うのに。


 気持ちが一気に沈んだ。ふたりきりだと思っていたから。


 いつもそうだ。

 あきらと私が会うとなると、小森さんは必ずそばについてきて、まるで監視するみたいに目を光らせる。

 二人きりにはさせない、と言わんばかりに。


 まあ、デートや、あきらの部屋で会うときまではさすがについてこないけど。

 それでも送り迎えはたいてい彼女の役目。


 小森さんの鋭い視線を思い出すたび、胸がぎゅっと締め付けられる。


 ワゴン車を見つめながら、ふっとため息をもらす。


 今日は、ふたりきりがよかったな。

 でも、贅沢は言えない。

 あきらだって仕事場から急いで駆けつけてくれたのかもしれない。


 それに、小森さんは彼がその足で来られるように送ってくれたのかも。


 感謝しなきゃ、だよね。

 そう思い直して、車へと足を踏み出した。


「……え」


 足が止まる。

 心臓が早鐘を打ち、血の気が引いていく。


 目は見開き、まばたきすらできなかった。



 視線の先にあったのは、


 車の前で、あきらと小森さんがキスをしている姿だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ダブルショック!? 物語が動きそうですね〜 次が楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ