第40話 連れて行かれた先は
そして、次の日曜日。
よく晴れた空は雲ひとつなく、春の陽気でぽかぽかとあたたかい。
今日はどう過ごそうか。そんなことをぼんやり考えていたとき、突然、玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けると、そこに立っていたのはあきら。
私は息を呑み、その場に固まった。驚きすぎて身体が動かない。
守兄とのキスを目撃されて以来、一度も連絡を取っていなかった。
会うのも、これが初めて。
胸がきゅっと痛む。
久しぶりの再会だった。
「あきら……」
名前を呼ぶと、あきらは気まずそうに視線をそらし、小さくつぶやいた。
「ちょっと、ついてきてほしい。見せたいものがある」
見せたいもの?
思考が追いつかず、私はただ彼を見つめるしかない。
「いいから、来て」
そう言って、あきらは私の手を強引に取った。
温かさと力強さに、心臓が大きく跳ねる。
そのまま引っ張られるように外へ。慌てて近くのサンダルをつっかけ、あきらの背を追った。
外には、いつものワゴン車が停まっている。あきらが仕事で使う車。
ということは、彼女も一緒なのだろうか。
乗り込むと、運転席にはマネージャーの小森さんが座っていた。
ちらりとこちらを一瞥すると、すぐに前を向いた。
その横顔はどこか険しく、まるで怒っているように見えた。
「出して」
私の隣に腰を下ろしたあきらがそう告げると、車は静かに走り出した。
車の中、あきらはずっと窓の外を見つめたまま、一言もしゃべらなかった。
運転席の小森さんも同じように黙り込んでいて、不機嫌オーラが滲み出ている。
重たい空気を抱えたまま、車は都内の道を進んでいった。
やがて着いた先は、テレビ局。
駐車場に車が止まると、あきらは無言のまま私の手を取って歩き出した。
「ちょ、ちょっと……どうしたの? これ、どういうこと?」
戸惑いながらも、引かれるままについていくしかない。
でも、驚いた。
あきらと付き合って一年以上になるけど、こうして仕事の現場に連れてこられたのは初めてだった。
「いいから」
短く言うと、彼は一切歩みを緩めず、まっすぐ前を見据え進んでいく。
局の裏口を通るとき、警備員さんがこちらを一瞥したけれど、あきらが軽く会釈すると何も言わず通してくれた。
そのまま長い廊下を歩き続ける。
途中、テレビでよく見る俳優さんとすれ違った。
思わず振り返って目を奪われる私をよそに、あきらは気にも留めず先を急ぐ。
ほどなくして、彼の楽屋にたどり着いた。
ドアには『スターライト アキラ』と書かれている。
中へ入ると、あきらは私を振り返った。
「ちょっと待ってて」
それだけ言い残し、すぐに部屋を出ていってしまう。
突然ひとり取り残され、そわそわと楽屋を見回す。
テレビでしか見たことのない光景に、ただ見入ってしまう。
でもそれより。どうして私をここに?
まだ怒ってるのかな、あのときのこと。
彼の意図が読めなくて、不安ばかりが募る。
勝手に動くのもためらわれ、とりあえず椅子に腰を下ろす。
小さく息を吐き、あきらを待った。
しばらくするとドアが開く。
戻ってきたあきらは無言のまま衣装に着替え始めた。
壁に掛けられた豪華なステージ衣装を手に取り、迷いのない仕草で身にまとっていく。
キラキラとした装飾に包まれた姿は、もう「アイドル・アキラ」そのものだった。
そして、ようやく私の方へ振り返る。
その口元に浮かぶのは、穏やかな笑み。
「さ、行こうか」
差し出された手。
「え……行くって、どこに?」
返事の代わりに、あきらはためらいなく私の手を握る。
そして、再び楽屋を後にした。




