第37話 ふたりの思い出
そして、気分が晴れないまま、数日が過ぎた。
あれから、あきらからは一度も連絡がない。
私の方から連絡しようとしても、指が止まってしまう。
「ごめん」って? それとも「会いたい」?
どんな言葉を選んでも、しっくりこない。
でも、このままなんていやだ。
気持ちを疑われたままなんて……悲しいし、悔しい。
あきらのこと、こんなにも好きなのに。
思い出すのは、あのときの顔。
痛々しいほど傷ついた表情。
私のせいだ。あの場でちゃんと言えなかったから。
ごめんね、あきら。
考えれば考えるほど心は沈み、連絡を取る勇気は遠のいていった。
気分もどんどん沈んでいくばかり。
***
ある日の放課後、学校の帰り道。
風がびゅうっと吹き抜ける。
気分が落ち込んでいるせいかな。
いつもの通学路が、やけに長く感じた。
自転車を押しながら、とぼとぼ歩く足取りも重い。
「はあ~……」
大きくため息をついた、そのとき。
「星」
不意に名前を呼ばれ、顔を上げる。
そこに立っていたのは――守兄。
スタイリッシュなスーツ姿。
ダークグレーの色合いが、大人の男性って感じで、やけに似合っている。
仕事帰り、なのかな。
気まずそうな顔。視線もウロウロとせわしない。
そんな彼を私は複雑な気持ちで見つめた。
一瞬だけ、あきらかと期待してしまった。
……違う。そんなはずない。
あきらが、私に会いに来るわけない。
自分の浅はかな考えに、ふっと笑う。
そのとき、守兄がゆっくり近づいてきた。
徐々に近づくその姿に、心臓がトクトクと脈打つ。
目の前で立ち止まった彼は、少し間を置いてから静かに口を開いた。
「……この前は、ごめん。
俺もちょっと強引だった。星の気持ちを聞かずに勝手なことを。
本当に反省してる」
深く頭を下げられ、慌てて首を振る。
「い、いいよ。もう」
小さく俯いた私に、やさしい声が落ちる。
「ちゃんと謝りたい。それに、二人で行きたい場所があるんだ。
これから少しだけ、俺に時間をくれないか?」
「え?」
思わず顔を上げる。
守兄の真摯な瞳がまっすぐに私を捉える。
ほんのり熱を帯びて、必死な想いが伝わってきた。
断るなんて、できなかった。
守兄に連れられ辿り着いたのは、近所の小さな公園だった。
遊具は少なく、広さもそこそこ。けれど、どこか落ち着く場所。
ここは、私たちにとって大切な思い出の場所だった。
初めて守兄と出会ったのも、よく一緒に過ごしたのも、この公園。
なつかしい。最近は全然来てなかったから。
「なつかしいな」
守兄も同じ気持ちなのかな。
目を細めてゆっくり辺りを見渡す守兄の声が、やけに優しく心地いい。
なんだか心があたたまる。
「そうだね。よくここで遊んだよね」
私が笑うと、守兄がこちらを見て同じように笑った。
その顔が嬉しそうで、とても魅力的で、ドキッとする。
慌てて視線を逸らす。
この間のこともあるし、油断しちゃだめ。
あきらを悲しませるようなことは、もう二度としたくない。
「思い出すよ。星との日々を」
守兄はそう言いながら、砂場へ歩いていく。
立ち止まり、振り返った。
その瞳は驚くほど優しく澄んでいた。
「この砂場で、お城作ったよな。
うまくできなくて、星、泣いたり怒ったりしてさ。
ころころ変わる表情が可愛くて、ずっと見ていたいって思った」
懐かしそうに笑い、守兄は空を仰ぐ。
「俺のあとを必死でついてくる星が、また可愛くてさ、
いつからだろうな……。君を女の子として好きになったのは」
心臓がどくんと跳ねる。
そういうこと言うの、ずるい。
守兄は何かを思い出したかのように、くすっと笑った。
けれどすぐに、その瞳に影が差す。
「もっと、早く言えばよかったな。
格好つけて、男として一人前になってから告白しようなんて思ったから。
だから、星は他の男に――」
悔しそうにぎゅっと拳を握る。
唇を噛む横顔が、苦しげに歪んだ。
見ていると、こっちまで辛くなる。
やがて守兄は、まっすぐに私を見据えた。




