第30話 うちの彼氏は心配性
駅前を抜けると、静かな住宅街に入った。
風がほんのり冷たくて、並んで歩く肩が自然と近づく。
あきらは先ほどから何も話さない。
横顔は穏やかに見えるけど、どこか考え込んでいるようだった。
ずっとこのままは、いやだな。
さっきは少し機嫌が直ったみたいに見えたのに、やっぱり違うのかな。
そわそわして、思い切って口を開いた。
「ねえ、あきら」
「……ん?」
ようやくこちらを振り返る。
マスク越しでも、あきらの瞳はやっぱり優しい。
それだけで、安心する。
「あ、あのさ。今日はどうして……」
言いかけて、言葉が喉に詰まる。
“どうして来たの?”と聞きたいだけなのに、
また守兄のことを責められたらと思うと、怖くなった。
「なに。どうして遊園地に来たかって?」
あきらが先に言い当てた。
図星をさされ、私は小さく頷く。
すると彼は口を尖らせ、少し拗ねた声で続けた。
「それは……星に会いたくて家に行ったらさ。見かけない車が止まってて。
そこに、おまえと太陽と、あいつが乗り込むのが見えたんだ」
あちゃー、見られてたんだ。
でも、会いに来てくれたんだ。
嬉しいよ~。ちょっと恥ずかしいけど。
「で、どうしたんだろうって思って、急いで太陽に連絡したんだよ。
そしたら、遊園地に行くって教えてくれて」
え……太陽と?
いつの間にそんなやりとりするほど仲良くなったの?
私は思わず首をかしげた。
「それで、心配になって遊園地に駆けつけたってわけ」
少しむくれた顔をしたあきらが、まっすぐ私へ視線を向ける。
拗ねた表情も可愛いって、いやいや、そんな場合じゃない!
「ごめんね、黙ってて。
あきら忙しいし、いちいち報告するのもなあって思って。
それにほら、今回のはデートじゃないよ。太陽のためについていった“保護者”って感じだし」
言いながら、ちょっと言い訳っぽい気がして、そっとあきらの顔色を窺った。
まだ不機嫌そうではあるけど、少しだけ表情がやわらいだような気がする。
「……わかってる。
星が浮気するなんて思ってないし。信用してるから」
その言葉と同時に、あきらがぴたりと立ち止まった。
真正面からじっと見つめられ、心臓がどくんと鳴る。
「でも、不安なんだよ。星の周りに男がいるのが。
しかも“幼馴染”なんてさ」
あきらの頬がじわっと赤くなる。
怒ってるのか、照れてるのか、わからない。
彼はしばらく黙り込み、ふっと息を吐いた。
「なあ、本当にあいつは、ただの幼馴染なんだよな?」
疑うような視線が突き刺さる。
どうしよう。
昔、好きだったこと、言うべき?
今だって、守兄のことは好き。
けれどそれが“恋”なのか“家族みたいな好き”なのか、自分でもはっきりしない。
でも、ひとつだけ確かなことがある。
今の私は、守兄よりもあきらが好き。
その気持ちを、どうやって伝えればいいの?
言葉を探して黙り込んでしまうと、あきらがぐっと距離を詰めてきた。
「なあ、何か言ってくれよ! 俺、不安で……」
苦しそうに眉を寄せるあきら。
マスクを下へずらし、私の肩をつかんでさらに迫る。
「なあ、あいつのことは何とも思ってないよな?
星は、俺のことが好きなんだよな?」
切ない瞳が私を射抜く。
胸が弾いて、息が苦しくなる。
「う、うん。もちろんだよ。私はあきらが――」
ブブーッ。
突然、鋭いクラクションが響いた。
振り向くと、すぐそばに停まる見慣れたワゴン車が目に飛び込んできた。
この車は――




