第26話 また波乱の予感
よかった、なんとか誤解が解けそう。
そう思ったのも束の間。
「でも、それなら俺に言えばいいだろ?
なんで、こいつなんかに連れてきてもらうんだよ」
……まだ不機嫌。がっくり肩が落ちる。
「ほ、ほら。だってあきら、仕事忙しいし。迷惑かけられないよ。ね、太陽?」
再び弟に助けを求めるように視線を向けたが、太陽はさすがに面倒くさそうな顔をした。
「うん……どうでもいいけど、早く行こうよ。僕、ジェットコースターに乗りたい!」
ノリノリの太陽に、すかさず守兄が反応する。
「そうだよな、太陽。せっかく来たんだ、楽しまないと。
このお兄ちゃんは煩いねえ」
そう言いながら太陽の頭をくしゃりと撫で、あきらを鋭く睨みつけた。
「なんだと?」
二人の間に、再び火花が散る。
「ちょ、ちょっと、もういいでしょ!? こんなところで喧嘩しないで!」
慌てて二人の間に割って入る。
けれど、あきらがにやりと笑った。
「ふん、俺だってこんな奴といつまでも話していたくない。
せっかく遊園地に来たんだから、星、俺とデートしよう。
太陽は、この人に任せてさ」
そう言って、私の肩をぐっと引き寄せる。
それを見た守兄の表情が険しくなり、一歩詰め寄った。
「ちょっと、それは聞き捨てならないな」
「あ?」
視線がぶつかり合い、空気がぴりぴりと張りつめる。
「俺が先約なんだ。あとからやって来て星を奪うなんて、男のすることか?
ね、星。俺と約束してたんだから、今日は俺とデートだよな」
にこやかに微笑みながら、守兄が私にすり寄ってくる。
「はあ? デートだあ? 星は俺の彼女なんだぞ」
あきらの声は低く、肩を抱く手に力がこもった。
守兄はあきれたように腕を組み、冷ややかに言い返す。
「ふん、偉そうに。いつも星のこと放っておいて、都合のいいときだけ側にいる。
そんなわがまま、星が可哀そうだ。俺なら絶対にそんなことはしない」
「う……っ」
あきらが唇を噛み、悔しそうに黙り込む。
そんなに気にしてたんだ。私は仕方ないって思ってたのに。
気まずい空気が流れ、息が詰まりそうになったそのとき――
「まあまあ、いいじゃん!」
太陽が勢いよく声をあげた。
「せっかくあきらさんも揃ったんだし、ここは四人で一緒に遊ぼうよ」
無邪気な笑顔で場を仕切る太陽。
この空気が読めてないのか、それとも心臓に毛が生えてるのか。
「さ、姉ちゃん、行こう」
太陽に手を引かれる。
「え? あ、ちょ、太陽!」
そのまま私は弟の勢いに押され、ずるずると引きずられていった。
太陽に引かれるまま、私はジェットコースターの列へとやってきた。
見渡すかぎりの人の波に圧倒されながら、最後尾に並ぶ。
さすが人気アトラクション。やっぱりすごいなあ。
隣では、にこにこ顔の太陽。
そして、すぐ後ろには、不機嫌そうに顔を背け合うあきらと守兄。
相変わらず二人の間には、ピリピリとした空気が漂っていた。
「姉ちゃん、楽しみだね。一緒に乗ろう!」
太陽の一言に、背後の二人が同時に反応した。
「なに?」
「なんだって?」
ぴたりと声が重なり、二人の視線が交差する。
「星と太陽が一緒に乗るってことは……」
ゆっくりと互いを睨み合い、
「冗談じゃない! こいつと乗るくらいなら死んだ方がマシだ!」
あきらが鬼の形相で吼える。
「ふんっ、俺だって御免だね。星や太陽ならいいけど、こいつは遠慮する」
守兄も目を吊り上げ、そっぽを向いた。
ピリピリムードはさらに加速していく。
「じゃ、じゃあ、二人はちょっと待っててくれる?
私は太陽と乗ってくるからさ」
どうにかこの場を収めようと提案すると、
「え!? な、なんでそうなるんだよっ」
あきらが食い気味に詰め寄ってくる。困惑と寂しさが混ざった表情。
「怒鳴るなよ、仕方ないだろう。今日は太陽のために来てるんだから」
守兄は冷静そのもの。だが、声に棘がある。
「あっ、おまえ今認めたな? 星とデートとか言っておいて。やっぱり違うんじゃないか!」
あきらがすかさず攻撃する。
「煩いなあ。俺の気持ちの中ではデートと変わらないってことさ」
肩を竦める守兄。ちっともこたえていない。
「はっ、勝手な奴」
あきらも同じように肩を竦め、余裕の顔。
……張り合ってるのかな? もう勘弁してほしい。
どうしたものかと頭を抱えていると、列が動いた。
しめた! このタイミングしかない。
「じゃ、じゃあ、二人は待っててね。行ってきまーす!」
太陽の背を押しながら、私は逃げるように前へ進む。
横目でちらりと見れば、二人ともまだ納得していない顔をしていたが、
やがてすごすごと列を離れていった。
よかった。ひとまずは落ち着いてくれた。
でも、あんなふうに喧嘩ばかりされたら、私も疲れちゃうし。何より、あきらの正体がバレるかもってひやひやする。
ふぅっとため息をつくと、
「姉ちゃん……大変だね」
太陽が憐れみの視線を向けてきた。
弟に恋愛のことで心配されるなんて。この子、どこまでわかってるんだか。
じろっと疑うような目を向けると、太陽は無邪気に笑った。
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