第23話 またね…… +【あきらside】
ガラガラッと、勢いよく車のスライドドアが開いた。
「そこまで! あきら、もう時間よ」
小森さんの鋭い声が響く。
彼女はあきらにだけ柔らかな微笑みを向け、次に、私を射抜くように睨んだ。
ぞくりと背筋が震える。
あの目、苦手だなあ。
慌てて視線を逸らす。
「す、すみません。お忙しいのに邪魔しちゃって」
逃げるように立ち上がろうとした、そのとき。
腕を掴まれた。
あきらだ。
振り返ると、切ない眼差しがまっすぐに貫いてくる。
「また会える? すぐ連絡する」
懇願するような、けなげな瞳。
胸がきゅん、と鳴る。
か、可愛い……。
甘えるその表情、反則だよ。ぐっときちゃう。
「う、うん。もちろん、待ってるね」
笑顔を返すと、あきらはほっとしたように手を離した。
そのまま、私と守兄は車を降りた。
寂しそうに手を振るあきら。その姿を、小森さんがバンッと扉を閉めて遮った。
「それじゃあ」
短く言い残し、彼女は運転席へ。
ワゴン車は勢いよく走り去っていった。
小さくなっていく車を見送りながら、ようやく息をつく。
やっと、地獄絵図が終わった。
そう思ったのも束の間。
「ね、星」
隣で守兄がにこやかに声をかけてくる。
さっきまで鬼のような顔であきらとやり合っていたのに、もう機嫌は上々のようだ。
「せっかくだし、また星の家に行きたいなあ。太陽にも会いたいし。
それに……星の料理が食べたい。夕食、一緒にいい?」
無邪気な笑み。まるで別人みたい。
「う、うん。まあ、いいよ」
断る理由もない。というか、私は疲れきっていた。
ここで守兄と揉める気力なんて残っていない。
太陽も喜ぶだろうし。まあ、いいか。
そんな軽い気持ちで、このときは承諾してしまった。
【あきらside】
車窓から遠ざかっていく星の姿を見つめ、ため息がこぼれた。
「何よ、そんな大きなため息ついて。
ね、さっきの爽やかイケメン誰?」
どこか楽しそうに、小森さんが問いかけてくる。
「あの男? ……星の幼馴染だそうだよ」
唇を尖らせながら答えると、小森さんがミラー越しにふっと笑った。
「へえ、いい男じゃん。星ちゃんも隅に置けないわねえ。
でもお似合いよね。あっ、ごめん」
胸がズキンと締めつけられる。
図星。気にしていることを言われた。
本条守。彼の存在が怖かった。
幼馴染という関係が、恐ろしかった。
だって、前から知っているってことだ。
俺の知らない時間を、たくさん共有してきたってことだ。
俺の知らない星のことを、知っているってことだろ。
いったいいつからの仲なんだ。
アメリカに行っていた、と言っていたけど。
あの男の正体は?
ふたりの関係は。
まさか、あの男が初恋でした、なんてことは。
あの男が星に気があるのは目に見えている。
じゃあ、星は。星は彼のことを……。
いや、勝手に想像するのはやめろ。
考えれば考えるほど、どんどんマイナスに引きずられていく。
また、星に直接聞けばいい。
必死に嫌な思考から抜け出そうとしていた、そのとき。
「それにしても、あの人って絶対に星ちゃんのこと好きよね?
見ればわかるわ。強力なライバル出現って感じかな。 ね、あきら」
意味深な笑みを浮かべながら、小森さんが振り返る。
「前見て、前!」
思わず声が荒くなる。
けれど、信号は赤で車は止まっていた。
気づかなかったのは、俺の方だった。
「ふふっ、はいはい」
小森さんはまた前を向き、ご機嫌に鼻歌を歌い出す。
……こっちの気も知らないで。なんなんだよ。
信号が青に変わり、車が加速する。
俺の中のモヤモヤも、速度を上げて膨らんでいった。




