第22話 止まらない二人のバトル
「なっ」
あまりの驚きに声が出なかった。
なんで、あきらがここに?
まん丸の目で見つめる私に、あきらが鋭い視線を投げた。
「星、そいつ……なんでここにいるんだよ?」
怒りをはらんだ眼差しが、守兄に突き刺さる。
「え! えーと、なんでだろう、私もびっくりしてて」
しどろもどろに答えると、守兄がすっと横に並ぶ。
「どうも、あきらくん」
爽やかすぎる笑顔。なのに挑発にしか見えない。
あきらの眉がぴくりと上がる。
明らかに不機嫌そう。怒っているのがありありとわかった。
「星の幼馴染のあなたが、なぜ、こんなところに?」
声音に隠しきれない棘が混じる。
「星に会いたくて」
あっさり言い切る守兄に、私は固まった。
ちょっと、それ言っちゃう!?
彼氏の前でそんな堂々と。まるで喧嘩売ってるみたい。
「へえ、そうですか。……で、何のつもりですか?」
あきらの表情が一気に冷え、目が鋭さを増す。
しかし守兄は平然と肩を竦める。
「何が?」
とぼけたような声が、さらに火に油を注ぐ。
二人の視線がぶつかり合い、見えない火花が散る。
「ちょ、ちょっと待った!」
私は慌てて二人の間に割って入った。
「ここじゃ目立つから、場所変えよ? ね?」
必死で二人の顔を見上げ、お願いの気持ちを込める。
だってここ、校門の前!
通りかかる生徒や先生たちの視線が、先ほどから突き刺さってくる。
あきらだって、こんなところで正体がバレることは本意でないはず。
「……わかった」
「そうだね、こんなところで立ち話もなんだし」
二人は同時に頷いた。
ほっ。とりあえず収まったらしい。
でも、なんで今日に限って二人ともここに?
そんな疑問を抱きながら、私は二人と並んで校門をあとにした。
あきらが先頭を歩き、私と守兄はそのあとに続いた。
やがて、視界に飛び込んできたのは一台のワゴン車。
え、これって。あきらが仕事のときに使ってる車じゃない?
足が止まる。
呆然と立ち尽くす私の前で、運転席から小森さんが降りてきた。
やっぱり。小さくため息が落ちる。
「こんにちは」
小森さんは颯爽と歩み寄り、慣れた手つきで後部座席のドアをスライドさせた。
美しい笑みまで添えて。
「どうぞ」
ここで話せってこと?
不安げにあきらを見ると、彼はにこりと笑って頷いた。
「さ、乗って。とりあえずこの中なら誰にも見られないし、ゆっくり話せるよ」
そう言って、私の肩を引き寄せる。
守兄を牽制するみたいに、ふんっと鼻息まで荒い。
守兄は、ただ、あきらを見返していた。
まっすぐに、鋭い目で。
張りつめた空気が、三人のあいだに流れる。
どうしてこんなことに。
なんとも言えない気持ちのまま、私とあきらと守兄は車へと乗り込んだ。
で――やっぱり、こうなるのね。
がっくり肩を落としながら、私は両側から伝わってくる圧に耐える。
ピリピリとした重圧と空気。気のせいじゃない。
右にあきら、左に守兄。
二人に挟まれ、車のいちばん後ろの席で小さく身体を丸める。
き、気まずい。
あきらはとんでもなく不機嫌な顔。
守兄は余裕の笑み。その余裕が逆にムードを悪化させている気がする。
視線を窓の外へ逃がすと、小森さんが電信柱に背を預け、煙草をふかしていた。
どうやら外で待機中らしい。
「で。なんでこんなところへ?」
あきらの声が鋭くて、心臓が跳ねる。
と、とげとげしい!
「さっき言いましたよね? 星に会いにって」
守兄の声にも棘が!
「星は僕の彼女だ。幼馴染だからって、気軽に会わないでもらえますか?
なあ、星」
「え!」
いきなり矛先を向けられ、心臓が止まりそうになる。
「え、えーと……まあね」
もじもじと口ごもっていると、守兄がすかさず反論した。
「彼氏だからって、そんな束縛みたいなこと言うのはどうかと思うな。
星が誰に会おうが自由でしょう? 心が狭いなあ。ねえ、星」
「えっ!」
また巻き込まれてしまった。もう、疲労困憊。
でも、私がしっかりしないと。
「そ、そんなこと――」
言い返そうとした瞬間、あきらがかぶせてきた。
「なあ、星。迷惑なら迷惑って言ってやらないと。
この人、鈍いみたいだから」
わざと大きな声で挑発する。
「はあ? 君の方が鈍いんじゃない? そうやって星を束縛して。
彼女、困ってると思うなあ。星は優しいから何も言わないんだよ」
「は?」
「ん?」
二人が私を挟んでにらみ合う。
ひぃ、火花が見えるよぉ。
「ちょ、ちょっと、落ち着こうよ、ね」
笑顔を作ってみせたが、二人は同時に大きなため息。
「俺は星とふたりきりの時間を作りたくて。わざわざ少しの時間を縫って、仕事の合間に来たんだ。
こんな人に邪魔されてる時間はない。早く帰らせてよ」
あきらの一言に、守兄がすぐさま切り返す。
「そうやって恩着せがましく。俺だって、星に会いたくて仕事を早く終わらせて来たんだ。
おまえを相手にしてるほど暇じゃない」
「なんだよ、おまえだって恩着せがましいじゃないか!」
「はっ、君ほどじゃないよ」
言い合いが止まらない。
ふたりのやり取りを眺めながら、悩む。
どうすればこの状況を収められる?
というか、あきらに子どもっぽいところがあるのは知ってたけど。
守兄も意外と子どもっぽいんだな。
そう思ったら、くすっと笑いがこぼれた。
ぴたりと、言い合いが止まる。
二人が同時に私を見た。
「星?」
あきらが不思議そうに首を傾げた、そのとき――。




