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溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~  作者: 桜 こころ


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第19話 振り返れば……

 駅前を少し歩けば、にぎやかな通りに出る。

 古着屋やアクセサリーショップなどが並び、休日のせいか若者たちでいっぱいだ。


 カフェの前には順番待ちの列ができていて、甘い香りがふわりと流れてくる。


 隣にあきらがいるだけで、この景色さえ特別に見える。

 歩きながら、繋がれた手をそっと見つめた。


 ……なんだか照れる。

 触れているだけで胸が熱くて、くすぐったい。


 いつまで経っても慣れないな。こうしていられる時間が、ただ愛しい。


「ん? どうしたの?」


 考えごとをしていた私に、あきらが顔を近づけてくる。

 その距離の近さに、心臓が跳ねた。


 付き合ってもう一年。

 体の関係こそまだだけど、キスだってしてるのに――いまだにこんなにときめく。


「ううん、何でもない。楽しいね」


 そう笑うと、あきらも同じように笑った。


「うん! 星と一緒だから」


 その無邪気な笑顔に、心があたたまる。


 パーカーにジーンズのラフな格好なのに、彼だけ光をまとっているようだ。


 あきらが人気なの、わかる気がする。

 黙っていると格好良くて、笑うと可愛い。しかも、まっすぐで一生懸命。

 そんな人を応援したくならないわけがない。


 なんて一人で考えていたとき、あきらが何かを見つけたように声を弾ませた。


「あ、クレープ食べる? 星、好きでしょ?」


 少し先のクレープ屋を指差している。

 クレープは私の大好物。


「うん、いいね」


 そう言うと、あきらの顔がぱっと華やいだ。




 それから私たちは、仲良くクレープを食べた。

 たまにお互いのを一口ずつ交換して。


 ほんと、仲良しカップルみたい。


 嬉しくて、頬が緩む。


 食べ終わったあとは、見たかった映画を観て、また街をぶらぶらと歩いた。


 それだけのこと。

 なのに、満たされていく。


 普通のデート。


 けれど、それは私たちにとって、とても貴重な時間だった。


 あきらはアイドル。

 本当なら、こんなふうに街中を歩くのは危険だし、マネージャーさんに怒られることだってある。

 それでもあきらは、私との時間を優先してくれた。


 少しでも会えるときは会おうとして、寂しくならないようにメッセージも電話も欠かさない。


 彼は、何よりも私を大切にしてくれる。


 ……ときどき思う。

 もし私が「アイドルをやめて」と言ったら、きっとあきらはやめてしまうかもしれない。

 でも、そんなこと絶対に言えない。


 だって、彼はアイドルという仕事に誇りを持っていて、

 何より、その仕事を心から愛しているから。


 だから私は、そんなあきらを応援したい。

 頑張ってほしいし、隣で支えたい。

 夢を追いかける姿を、ずっとそばで見守っていたい。


 こっそり会わなきゃいけない。公にはできない関係だけど、それでもいい。


 あきらと一緒にいられるなら。


 それは覚悟の上だった。


 ふと、小森さんに言われた言葉が頭をよぎる。


 私だって、あきらの邪魔になりたいわけじゃない。

 ……でも、会いたいんだもん。


 そんなことを考えていたら、気持ちが少し沈んでしまった。

 歩く足が自然と遅くなる。


「どうしたの?」


 あきらが振り返る。


「え……うん」


 言葉を探していると、あきらが優しく微笑みかけてくる。


「どうした?」


 澄んだ瞳に見つめられ、胸がきゅっとなる。

 彼はふわりと私の両手を包み込み、至近距離で見つめてきた。


「あの、この前は、ごめんね」


「何のこと?」


 首をかしげる仕草が可愛くて、ずるい。


「小森さんから聞いたの。あの時、あきらが落ち込んでた理由……。

 一緒にいたのに、気づけなくて」


 肩を落とすと、あきらがくすっと笑った。


「なんだ、そんなことか。星は気にしなくていいんだよ。

 それに、星に会えたから元気になったんだ。あれからちゃんと頑張れてる。大丈夫!」


 ガッツポーズをして笑うあきら。

 きっと私を励ましてくれている。


 ああ、愛おしい。本当に優しいんだから。


 そんなふうに言われて、ほっと気持ちがゆるんだ。


「そっか……でも、やっぱり気づきたかったな。

 あきらを慰めてあげたかった。知ってたら、もっと優しくできたのに」


 ぽつりとこぼした瞬間、あきらの瞳がぱっと輝いた。


「本当? じゃあ今、優しくしてよ」


 マスクを下げ、目を閉じる。

 顔を近づけ、じっと待っている。


 え、ここで!?


 思わず辺りを見回すけれど、誰もこちらを気にしていない。

 それでも、あきらが顔をさらしていることが心配でたまらない。


 そっと目を開けた彼が、小さく催促する。


「はやく」


「う、うん……」


 わかってる。彼はキスをおねだりしているのだ。

 ダメなのに、「してあげたい」と思ってしまう。


 少しだけなら、いいよね。


 私はゆっくりと顔を近づけていった。

 唇が触れそうになった、そのとき――


「星!」


 鋭い声が響いた。

 心臓が跳ね、息が止まる。


 振り返ると、そこに立っていたのは守兄だった。


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