第16話 ずっと好きだった。譲れない想い
「ふーん」
あきらとの馴れ初めや経緯を話し終えたとたん、守兄が不機嫌そうな顔をした。
……え、なんでこんなに機嫌悪いの?
理由が分からず、戸惑う。
「アイドルねえ。遊ばれてるんじゃないのか」
ぶっきらぼうなその一言に、私はムッとした。
「ちがうよ! あきらはそんな人じゃない。傍にいて、それくらい私にもわかる。
彼は嘘をついたり、人を弄んだりする人じゃないんだから」
必死に訴えると、守兄の表情はさらに険しくなった。
すごく怒ってる、よね。なんで?
「そいつに会わせろ」
顔を背けながらも、強い声で言い放つ守兄。
「え!? でも、それはちょっと……」
彼は一応芸能人だし、そう簡単には会わせられない。
それに、やきもち焼きだし。
守兄みたいな格好いい人を紹介したら――いや、絶対まずい。
あきらはかなりの嫉妬深さを持っている。
真面目で純粋だからこそ、変な誤解をしかねない。
しかも守兄は私の初恋の人。
そんな二人が顔を合わせるなんて、どう考えてもまずいでしょ。
視線を泳がせ、言葉を詰まらせていると、
「わかった……もういい。それより」
急に真剣な顔つきになった守兄が、私をじっと見つめてきた。
その瞳には、心配の色が濃く浮かんでいる。
「今の暮らし、辛くはないか?」
いきなりで驚いたけれど、素直に答える。
「う、うん。別に。そりゃあ、正直辛いと思うときはあるよ。
でも、太陽と二人で暮らせることは幸せだし。
なにより、あのおばさんと一緒に暮らすより、断然いい!」
散々な目に遭ってきた日々を思い出し、ぞっとする。
あれが大人になるまで続くなんて、考えるだけでも嫌だ。
「……そうか」
守兄はほっと息をつき、俯いて何かを考え込んだ。
しばらく沈黙が落ちる。
次の瞬間、勢いよく顔を上げる。
「なあ、俺のところへ来ないか?」
――はい?
あまりの唐突さに、私は固まり、瞬きを繰り返す。
「ずっと考えていたんだ。そのために帰ってきたようなもんだし」
ぶつぶつとつぶやく守兄。どこか様子が変だ。
「星!」
「は、はい!」
突然の大声に反射的に返事をしてしまう。
真剣な眼差しがまっすぐ突き刺さる。
数秒間、見つめ合ったまま、彼がゆっくりと口を開いた。
「俺は、おまえのことが好きだ」
一瞬、時が止まったような錯覚を覚えた。
思わず目を瞬かせる。
情熱を帯びた瞳が、まっすぐ私を射抜いていた。
「ななっ、なんで……」
あたふたしながら、ぽつりとこぼす。
すぐに返事が返ってくる。
「ずっと好きだったんだ。アメリカに立つ、ずっと前から」
夢? 嘘でしょ。守兄が私のことを?
信じられない。だって、そんな素振り一度もなかった。
ずっと可愛い妹として見ていたんじゃないの?
守兄は少し俯き、頬を赤らめていた。
「いつから好きになったかなんて、無粋なことは聞くなよ。
自分でもわからない。ただ、気づけばいつも目で追っていて、星のことばかり考えるようになって……愛おしくてたまらなくなった。
ずっと一緒にいたいと思った」
とんでもないことが起きてしまった。
驚きすぎて、言葉が出ない。
熱を帯びた眼差しが、私をとらえて離さない。
本気なんだ。そう確信した。
「でも、どうしてもアメリカでやらなくちゃいけないことがあって。
星と離れたくはなかったけど、あのときは仕方なかった。
やっと、こうして迎えに来られた」
守兄がぐっと距離を詰め、私の手を握った。
すぐそばに迫る端正な顔。心臓が破裂しそうなくらい大きな音を立てる。
「もう離れない。星、好きだ。俺を選んでほしい」
眉を寄せ、切実な表情で懇願される。
体が硬直して、動けなかった。
息も絶え絶えになりながら、やっと声を絞り出す。
「い、今さら……そんなこと言われても。私には……」
「わかってる。あきら、だっけ? 彼氏がいるんだろ。
だったら、これからその彼氏より俺を好きになればいい。
いや、そうなるかもしれない。その可能性はゼロじゃない」
あぜんとする。
かなり強引だな、こんな人だったっけ?
焦りながら、無我夢中で首を振る。
だめ、冷静になれない。
まさかこんな展開になるなんて思わないし、しかも綺麗な顔が目の前にあって意識が飛びそう。
そのとき、横から声がした。
「守兄、とりあえず落ち着いて」
太陽だ。この状況を見かねて、とうとう口を出したらしい。
彼が守兄を私から引き離す。
「邪魔をするのか? おまえはあきらとかいう奴の味方なのか」
恨めしそうに睨みつける守兄に、太陽はわずかに怖気ずいた。
太陽は守兄のことが大好きで、尊敬している。そんな相手に嫌われるのは、きっとショックだろう。
「ち、ちがうよ。僕は守兄が大好きだよ。
あきらさんのことも別に嫌いじゃないけど、そんなに好きじゃない」
そう言って太陽が私を見る。
その表情は少し拗ねたようだった。
……え? あきらのこと、好きじゃなかったの? 初耳だ。
思えば、太陽はあきらにあまり好意的じゃなかった気がする。
「とにかく、姉ちゃんに迫るのは間違ってるよ。
ここはいったん落ち着こう」
太陽が正論を口にする。その大人びた対応に、少し驚いた。
諭された守兄は、納得したような、していないような複雑な顔をしたが、
やがて私からすっと離れた。
「ふんっ。まあ、太陽の言うことも一理あるな」
そう言って静かに頷き、正面に座り直す。
そしてまた、じっと私を見つめてきた。




