第7話 パーティー結成
探索者協会。
更衣室から出て来た私たちに、いくつかの視線が向く。
夕方の光がガラスに反射して、床がやけに明るい。
「ここで、パーティ申請ね」
神宮ほのかが、慣れた足取りで受付へ向かう。
ギャルの歩幅って強い。
私の歩幅は小さい。
でも今日は、一人じゃない。
ほのかの装備はレンタル一式。
ショートボウを肩にかけ、プロテクターを装着。革の手袋。
腰に矢筒、背中に小さめのリュック。
それだけで、彼女のもう一つの顔が見える。
(…ちゃんと戦う装備だ)
私は自分の左腕を見た。
銀のバックラーがある。
「持ち込める」ことが確定した盾。
手のひらが少し汗ばんだ。
受付のお姉さん。例の受付嬢が、私たちを見るなり目を丸くした。
「佐倉さん、来たの?…って、二人?」
ほのかがニッと笑う。
「パーティ組みたくて。申請お願いします」
「おっけー。えっと…前衛と弓、バランスいいわね」
受付嬢は端末を叩きながら、ちらっと私の方を見る。
私は反射で目を逸らした。
現実の私は、視線に弱い。コミュ障だが。
「神宮さん、職は?」
「アーチャー、レベル2です。固有が鷹の目。職スキルが、気配察知、ダブルショット」
「へぇ、いい構成。堅実で偉い」
ほのかが少し照れたみたいに肩をすくめる。
「堅実じゃないと、死ぬんで」
その言い方が軽くない。
受付嬢も、冗談っぽく笑って、でも目は真面目だった。
「そうね。じゃ、パーティ登録。お互い承認して」
端末に表示された申請画面。
ほのかが先にタップする。迷いがない。
私は指が止まる。
(パーティ…私が?)
押した瞬間、何かが変わる気がした。
怖い。
でも、ほのかが隣で小さく言う。
「だいじょぶ。うち、逃げ足はある」
(私の祖父みたいなこと言う…)
私は息を吸って、タップした。
《パーティ登録:成立》
《メンバー:佐倉しずく/神宮ほのか》
受付嬢は、ほのかの方に向けて言った。
「神宮さん、レンタル装備はいつも通り。矢筒と矢の管理だけ気を付けてね。予備は?」
「リュックに入れてます。矢、消耗品だから」
「えらい」
そして次の瞬間、受付嬢は私の側にほんの少しだけ身を寄せて、ほのかには聞こえないくらいの小声になった。
「…協会の上、ローグライクスキルに興味もったぽい」
「…え」
心臓が、嫌な跳ね方をした。
受付嬢はさらに小さく続ける。
「固有ユニークだしね…。今すぐどうこうって話じゃないけど、耳に入ってると思って。目立つと、良いことも悪いこともあるから」
目立つ。
それが欲しかったはずなのに、怖い。
私は喉が乾いて、声が出ない。
受付嬢は最後に、いつものプロの笑顔を取り戻した。
でも声だけは、少しだけ“素”だった。
「まあ、頑張りなさい」
その一言が、妙に重い。
励ましなのに、警告みたいで、背中が冷えた。
ほのかが「なに話してたん?」と首を傾げる。
「な、なんでも…」
くそ雑魚なめくじムーブ。
受付嬢は二人に向けて、手続きを終えた端末を示した。
「今日の注意事項。パーティ初日って事故りやすいの。前衛が頑張りすぎる、後衛が距離詰められる。二人とも、引き際だけは絶対共有して」
ほのかが真顔で頷く。
「気配察知で“数”と“方向”見る。しずくは盾でライン作って。無理なら即帰還」
「うん…」
私は返事は小さいけど、理解はしている。
ダンジョンでだけは、ちゃんと判断できる。ガンギマリになるから。
ほのかは弓を肩にかけ直し、革手袋をきゅっと締めた。
矢筒が腰で軽く鳴る。
「じゃ、行こ。“相棒”」
「相棒…」
その言葉だけで胸が熱い。
私はちょろい。
でも、受付嬢の小声が頭の奥に残っている。
(協会が、興味…)
私のユニークは、私の武器で、私の夢の梯子で。
そして、誰かに狙われる“理由”にもなる。
私は銀盾が左手にあることを、もう一度だけ確認した。
(守る。ほのかも、私も)
ゲートの虹色が、二人を待っている。
ゲートをくぐる直前、私はほのかと視線を合わせないまま、小さく手を上げた。
“行くよ”の合図。
ほのかはそれをちゃんと拾って、同じくらい小さく頷く。
「うち、後ろ。しずく、前。無理ならすぐ下がる」
「…うん」
パーティ初日。
現実では会話がぎこちないのに、ダンジョンだと“必要な言葉”だけが出る。
虹色の膜を抜ける。
石畳。湿った空気。
いつもの通路。
そして、目の前にウィンドウ。
《職業:放浪者》
《本日の型:魔術型》
《初期装備を支給します》
光が落ちて、装備が出現した。
杖。
ローブ。
そして、ステ補正。
《基礎ステ補正:INT↑/STR↓》
「…え」
私は杖を持ったまま固まった。
「魔法使い…だと…」
コメント欄が、一拍遅れて燃え上がる。
『魔術型きたwwwww』
『放浪者のガチャ回だ!』
『盾しずく、今度はメイジ!?』
『パーティ組んだのか!?相方弓!?』
『前衛魔法使いの匂いがする…』
ほのかが私の横、いや少し後ろに立って、弓を構えた。
ショートボウ。革手袋。矢筒。
その姿はちゃんと後衛。
「しずく、…魔法系?」
「たぶん…」
声が小さい。現実と同じ。
でも判断は速い。
私は胸元のウィンドウを追う。
《使用可能な魔法》
【マジックアロー】
小さな魔法の矢を放つ(誘導性:高)
短い詠唱で連射可能
【マジックブロウ】
杖先に魔力を集中し殴る(物理+魔法)
詠唱なし
「近接もある…」
ほのかが驚いたように目を丸くする。
「魔法使いなのに殴れるんだ」
「杖、鈍器として使えないこともない。けど…STR下がってる」
「殴り方が大事だね。受けて、崩して、当てる」
言い方がもう“相棒”。
私はちょろいので、ちょっと泣きそうになった。
私は左手の銀バックラーを軽くなでる。
ロック装備。確定の相棒。
コメント欄がさらに加速。
『銀盾きたあああ!』
『ロック装備の実物確認回!』
『魔術型+銀盾=前衛メイジ爆誕www』
『え、盾装備できるの!?』
『放浪者やべぇ、職の概念壊してる』
「職の概念は壊してない…たぶん」
反射でツッコめた自分にびびる。
ネット越しの私、やっぱ別人。
ほのかが後ろで、矢をつがえる。
「しずく、作戦。うちは距離取って削る。しずくは盾で前で受けて、魔法」
「前で受けて…魔法?」
「いける。だって、しずく。追い込まれたら冷静になる」
「それは…言わないで」
言い合ってる間に、通路の奥から小さな足音。
ラットの群れっぽい。
ほのかの《気配察知》が反応したのか、声が低くなる。
「来る。方向、正面。数…たぶん4。小さいの」
私は深呼吸して、杖を右手に持ち替えた。
(魔法使い?)
怖い。未知。
でも、盾がある。ほのかがいる。
私は杖を前に向けて、短い詠唱というほどでもない“言葉”を口にした。
「……マジックアロー」
杖先に小さな光が生まれて、矢の形になり、すっと飛ぶ。
通路の奥で、赤い目が一つ、弾けた。
『誘導やっばw』
『命中率高すぎ』
『詠唱短いの強い』
『弓いらないのでは(暴論)』
『弓担当が泣くwww』
「泣かないし!」
ほのかが即ツッコんで、矢を二本連射した。
「《ダブルショット》」
矢が二本、並んで飛んでいく。
一匹目が倒れる。二匹目がよろける。
私も続ける。
「………マジックアロー」
短い。連射できる。
矢はふわっと軌道を変えて、逃げようとしたラットの横腹に刺さる。
「当たる」
「当たり前。誘導強いって書いてあったじゃん」
ほのかの声が、少し笑ってる。
ラットが1匹残る。
前に出てくる。噛みつき距離。
私は盾を構え、最後の一匹が跳んで来た瞬間、銀盾で軽くいなす。
そして、杖を短く振り下ろした。
「マジックブロウ」
詠唱なし。
杖の先端に、密度の高い光がまとわりついて、
鈍い音。
手応えに、魔法の痺れが混じる。
ラットが光になって消えた。
コメント欄、沸騰。
『前衛メイジやべぇwww』
『盾で受けて殴って魔法撃ってるの意味わからん強さ』
『放浪者、職ガチャで最適解引き続ける女』
『相方が弓なのも綺麗すぎる構成』
『これが“配信で友達作り”か(尊)』
私は胸の奥がくすぐったくなって、でも顔は熱くなる
(友達、ほのか…)
ほのかが小声で言った。
「しずく、今日の型…当たりだよ。前衛魔法使い、普通いない」
「普通じゃないの…私?」
「普通じゃない。でも、悪い意味じゃない」
その言い方が、すごく優しかった。
私はちょろいので、盾を握る手に力が入った。
現実でこんな言葉言われたら死ぬ。
でも今は、死なない。HPが高いから。
そして、通路の奥がまた静かになる。
静かすぎる。
ほのかが眉をひそめた。
「気配、もう一つ。大きいの。さっきより重い」
犬だ。
たぶん。
私は銀盾を上げて、杖を構えた。
前衛魔法使い。
盾持ち。
相棒は弓。
コメント欄が期待と不安でざわつく。
『犬来るか?』
『盾メイジvs犬、始まる』
『しずく、ガンギマリ準備』
『気配察知有能すぎ』
私は小さく呟いた。
「犬はやばい。犬はやばい」
ほのかが吹き出した。
「それ、コメントの口癖じゃん」
「うつった…」
二人で、ほんの一瞬だけ笑った。
そして次の瞬間、暗がりから“それ”が現れる。
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