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第59話 鳴り響く鈴の音

カエルもどき二体が、司祭の前に立ち塞がった。


無闇に突っ込んでこない。

左右に広がり、こちらの動きを待っている。


ほのかが舌打ちする。


「守りに徹してる…いやらしい」


ミコトは一歩下がり、視線は司祭の左手、鈴に固定。


しずくは盾を前に出し、距離を測る。


(護衛を崩さないと司祭に届かない)


(でも、司祭の行動が先に来る)


そのとき、司祭が鈴を鳴らした。


音は小さいのに、空気が震える。


燭台の影が揺らいだ。


司祭の前方に、赤い球が浮かび上がる。


人魂?

それ以外の言い方が見つからない。


赤い光が、ふわり、ふわりと漂う。


そして、ゆっくりと、こちらへ向かってくる。


遅い。

でも、逃げ場を探るように曲がる。


視聴者がざわつく。


『うわ、人魂ミサイル』

『遅いけど嫌なやつだ』

『司祭、召喚型か』

『遅いってのが、面倒だな』


司祭が、もう一度鈴を鳴らす。


赤い光が、増える。


二つ、三つ。


鈴を鳴らすたびに、一つずつ増えていく。


(放置すると、弾幕になる)


ミコトが、ハッと息を呑んだ。


魔力調律持ちだからこそ分かる。

目で見えるより先に、肌が感じる。


「あれは…!」


ミコトが声を落として断言した。


「純粋な魔力の塊です。恐らく、低速な魔力誘導弾」


しずくの心臓が一段跳ねる。


(魔力の塊なら、盾で弾ける?)


(でも数が増えるなら…)


ほのかが即、判断を求める。


「ミコト、あれって撃ち落とせる?矢で割れる?」


ミコトは瞬時に首を振る。


「分かりません」

「物理で散る可能性もありますが、逆に破裂して範囲に広がる危険も…」


しずくが言う。


「増やさせない…」


狙いは決まった。鈴を止める。


司祭に近づけないなら、護衛を崩す。

護衛が硬いなら、誘導弾を受け流しつつ前へ出る。


ほのかが弓を引き絞る。


「しずく、前。ミコト、援護」

「司祭の手、鈴を狙う」


ミコトが頷き、杖を握る。


「ロープで足止めします」

「誘導弾は、しずくさんの盾で捌ける可能性があります。数が増える前に動きましょう」


司祭が、また鈴を鳴らす。


四つ目の赤い光球が生まれた。


球はゆっくり、確実に迫ってくる。

逃げ道を塞ぐように広がりながら。


しずくは銀盾を構え、息を吸う。


(弾幕になる前に、止める)



「…あの誘導弾さ。ギリギリまで引きつけて、相手にぶつけるとか、いけそう?」


ほのかのその一言で、空気が「戦術会議」に切り替わる。


ミコトが一瞬考えて、すぐに頷きかけるが、止めた。


「理屈としては可能性は高いです」

「あれは純粋な魔力の塊で、司祭が目標を指定しているだけなら、目標の位置を直前ですり替えれば…」


しずくは盾を握ったまま、ぽつりと呟く。


「当てたい…」


ミコトが結論を出す。


「やるなら、しずくさんが受け流し役です」

「盾で、当たる瞬間だけ角度を付けて流す」

「ほのかさんは隙を作る。私はロープで1体止めます」


ほのかがニヤッとする。


「つまり、誘導弾をカエルもどきに押し付ける感じだね」


しずくは小さく頷く。


「盾で…運ぶ」


「よし、やろう」

「しずく、ギリギリ得意でしょ?盾しずくの本領発揮」


しずくは盾を構え直し、赤い人魂の軌道を見た。


遅い。

でも、確実にこちらへ来る。


ミコトが一歩前に出る。


息を吸って、詠唱。


白い光が走る。


《ホーリーロープ》


カエルもどき一匹に絡みつき、ぎちぎちに締め上げた。

銛を振り回そうとしても、動けない。


「拘束!」


的ができた。


同時に、しずくがもう一匹へ詰める。


盾を前。

はさみ剣はまだ振らない。


狙いは誘導弾。


赤い光球が、ゆっくり、でも確実に距離を詰めてくる。

一つじゃない。複数だ。


しずくは視界の端で赤を捉え続ける。


(遅い…でも曲がる)


カエルもどきが銛を突く。

しずくは銀盾で軽く流す。


戦いながら、タイミングを測る。


『しずく、二つ同時に見てる』

『近接しながら誘導弾管理は上級者』


その背後で、ほのかが弓を引き絞る。


狙いは司祭。


左手の鈴。


「止める!」


コンパウンドボウの滑車が静かに鳴る。

照準がブレない。


ほのかは、動く骨の関節に合わせて呼吸を止めた。


司祭が、ゆっくり鈴を上げる。


鳴らす、直前。


ほのかが放つ。


矢が飛ぶ、左手へ、鈴へ。


当たれば、鳴らせない。


だが司祭は、護衛越しにこちらを見ていた。

赤い眼窩の光が、矢の軌道を読んだみたいに揺れる。


司祭の左腕が、ほんの僅かに角度を変える。


鈴が、きらりと燭台の光を弾く。


(外れる?)


その瞬間、しずくの前に赤い光球がちょうど来た。


しずくは決める。


誘導弾を弾くんじゃない。運ぶ。


銀盾を、斜めに。


パリィじゃなく、流す。


赤い球が盾に触れる直前、しずくは縁の角度を変えた。


嫌な熱、じりじりとした魔力の圧。

盾が鳴る。


空気が割れたような音が響く。


赤い球が軌道を変え、弧を描く。


拘束されたカエルもどきへ、その進路を変えた。


ミコトが叫ぶ。


「そのまま!当たって!」


カエルもどきがもがく、でもロープは解けない。


赤い魔力の光が、カエルもどきに迫る。


そして同時に、ほのかの矢が司祭の左手へ、鈴へ。


当たるか、弾かれるか。


礼拝堂で、すべてが重なる。


司祭が鈴を懐に寄せた。

左腕を盾にして、矢を受ける。

緑色の血が滴り落ちた。


そして、赤い球が拘束されたカエルもどきに接触した瞬間。


小さな破裂音。


炎じゃない、火薬でもない。

魔力が弾けたみたいな爆ぜ方。


白い皮膚がめくれ、緑の液体が飛び、

カエルもどきがそのまま吹っ飛ばされた。


ホーリーロープが、引きちぎられるように散る。


視聴者が叫ぶ。


『当たったああああ!』

『誘導弾リダイレクト成功!』

『爆発するタイプかよ!』

『これ、直撃したらやばくね』


しずくは盾を構え直しながら、息を吐いた。


(…爆発)


「…これ…光球同士ぶつけたら…連鎖する?」


ほのかが即反応する。


「やば、それできたら弾幕を相手にそのまま返せる!」


ミコトは冷静に結論を急がない。


「可能性はあります」

「同じ魔力塊なら干渉して暴発。ただし、こちらが近くにいると巻き込まれます」



その時、司祭が右手でフードを脱ぎ捨てる。

白く滑った皮膚、充血しているのか、赤い瞳に緑の線が走った。

カエルもどき、だが目が違う。

異様に大きいが、どことなく人の目にも見える。


「緑…みどりぃぃぃぃぃぃぃぃ」

「あか、あか、あか、赤ぁぁぁぁぁぁ」


口が裂けるように開いた、空気を押しつぶし、すべてを呪うような叫び。

緑を垂れ流しながら、司祭が鈴を鳴らそうと左腕を掲げる。


銛を構えたカエルもどきが、司祭に駆け寄る。

何かを鎮めるように、縋りついた。


「何あれ…切れたの?」


ほのかが、踊り子の双剣を抜きながらミコトを見る。


「わかりませんが…緑の血に嫌悪がある?」

「赤い血を羨んでいる…?」


軽く頷きながら、司祭へ視線を戻す。


「緑、赤うるさい!切れる男は嫌われるよ!」


視聴者が即拾った。


『カエルもどき性別あるのか』

『すまん見分け方がわからん』

『ハーフっぽいんだよなぁ、こいつ』

『てことは…つまり』


双剣を放ちながら、ほのかが叫んだ。


「黙りなさい!」


《ダンシングソード》


双剣が舞う。

狙いはただ一つ。


掲げられた鈴。


細い軌道で、左手首から先へ、繊細に切り込む。


『鈴狙いかっけえ!』

『投擲つよい』

『軌道が美しい…』


一方、ミコトは吹っ飛ばされたカエルもどきへ視線を向ける。


まだ生きている。

瀕死。でも、倒しきらないと立ち上がる。


ミコトは杖を握り、息を吸って——詠唱。


雷光の杖を突き出すように構えた。


魔力調律で、無駄を削って、最短で。


「…落ちてください」


雷が走る。


狙いは、瀕死のカエルもどきの頭。


そして、しずくは残る誘導弾を見た。


赤い光球が、まだ浮かんでいる。


じわじわ近づき、

また増える。


(連鎖できるなら)


(私は、盾で当てることができる)


しずくの目が、赤い球と球の間を測る。

目の前のカエルもどきが離れた分、余裕ができた。


距離、タイミング、角度。


そして、空中で舞う双剣が司祭の左手、鈴へ迫る。


当たれば、鈴は止まる。

止まれば、弾幕は終わる。


「赤、赤、赤、赤、赤!」


「ぐぐぎゃ…ぐぎゃ」


双剣を無視して叫び続ける司祭。

縋りつくカエルもどき。


鈴だけで終わるとは限らない。

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