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第56話 しずくの〇は硬い(公式)

魔石を回収し終えて、三人は立ち止まった。


地下墓地をもう少し回るか。

礼拝堂に戻って上階を目指すか。


ほのかが言う。


「地下稼げるし、もうちょい回っても」


「ただ、今は安全に見えるだけの可能性もあります」

「3層はまだ情報が少ない。礼拝堂側の動線も確保しておきたいです」


しずくは頷くだけ。

判断が怖い。

でも、二人がいるから言葉にできる。


そのとき。


肩の上のセレネが、急に声の温度を変えた。


いつものだるさが薄い。

眠そうなのに、やけにはっきりしている。


「しずく」


名前を呼ばれて、しずくの背筋が伸びる。


そして、セレネが爆弾を落とした。


「お前は月の契約者だ」


その言い方は、ただの確認じゃない。

宣告みたいな重さ。


「月は表は優しい。蒼い星を照らす光」


白い月光、礼拝堂の夜。

さっきの契約の優しい光。


全部、思い当たる。


セレネの声が低くなる。


「裏は暗い。傷つき、光も差さない…暗く、寒い」


さっきの奔流。

息を奪う夜の魔法、冷たい黒。


あれが裏の片鱗。


そして最後に。


セレネは、しずくの耳元で囁くように言った。


「…暗い月に呑まれるなよ」


しずくの喉が、きゅっと鳴った。


ほのかも、ミコトも言葉を失う。


コメント欄も、一瞬だけ静かになる。


『…重い』

『急にシリアス』

『月の裏側…』

『呑まれるって何…』



ミコトが、少しうつむき思案する。

そして、顔を上げた。


「…呑まれる、とはどういう意味ですか」

「契約者、しずくさんに起こる変化ですか?」


セレネはだるそうに戻りかけながら、でも核心だけは落とす。


「月の力は便利…便利すぎると、自分がどっち側か分からなくなる」


ほのかが思わず言う。


「闇落ち、みたいな?」


セレネは即答しない。

半眼のまま、少しだけ視線を逸らして。


「似てるかも」


それだけ。


しずくは胸の奥が冷えるのを感じた。

さっき盾が「まかせろ」と言った。

嬉しかった。安心した。


力に頼るのは、気持ちいい。


コミュ障で、友達もいなくて、

怖い世界で、

それでも前に出られる力。


その力が、もし——自分を変えるなら?


しずくは小さく呟いた。


「私…呑まれたら…どうなるの…?」


セレネは、しずくの頭を小さな手で、ぽん、と叩いた。


「知らん…だから、呑まれるな」


優しくない、慰めでもない。


ただの忠告。


そしてそれが、妙にしずくの心に刺さった。


「…なら、今後は力の使い方を意識しましょう」

「危険な兆候があれば、私が指摘します」


ほのかも頷く。


「うちも見る。しずくが変になったら、ぶん殴ってでも止める」


『ぶん殴らないで』と、しずくは思うけど、言えない。


でも。


その言葉が、嬉しかった。


友達の言葉だったから。


セレネの目じりが下がる。

やる気がなくったみたいに。


「で、どっち行くの…コーラを所望したい」


台無しである。


ほのかが吹き出す。


「シリアスからのこれ!」

「はいはい、帰ったらコーラね!」


ミコトが真顔でまとめる。


「礼拝堂へ戻りましょう。地下墓地は安全に稼げますが、何かある気がします」

「ダンジョンが、3層がそんなに甘いはずはありません」


しずくは頷いた。


肩の上の小さな重みが、確かにそこにいる。


優しい月と、暗い月。


その両方を抱えたまま、

三人と一体は、階段へ向かった。




地下の階段を上がるほど、空気が変わる。

腐臭が薄れ、代わりに古い木と蝋の匂い。


そして。


上に近づくほど、汚い声が聞こえてきた。


喉の奥で鳴らす不快な声。


ほのかが、指で「止まって」と合図する。

気配察知が、微かに反応している。


そっと、階段の影から覗いた。


礼拝堂の広い空間。

祭壇の前。


そこに、カエルもどきが4匹。


白くてぬめった皮膚。

銛や鉈、武器を持ってる。

目がでかい。絵面が最悪。


だけど、行動が違った。


祭壇に向かって、整列して。


祈ってる。


両手(っぽい手)を胸の前で組み、

ぶつぶつと汚い声で、何かを唱えている。


ほのかが、思わず小声で漏らす。


「え?あいつら…何かを崇めてる?」


ミコトが眉をひそめる。


「儀式…だから、聖属性魔法を使える?」


しずくも納得しかけてしまう。


(見た目は最悪なのに、やってることは神聖)


矛盾が、逆に怖い。


肩の上でセレネが、だるそうに言う。


「あれか、儀式ではない」


しずくが小声で聞く。


「…違うの?」


セレネは半眼のまま、淡々と落とす。


「呼び水。祈りの形を真似てるだけ。上に、いる」


ほのかがぞわっとする。


「上って…礼拝堂の上階?」


ミコトがすぐ理解する。


「祭壇に祈ることで、上の存在に“気づいてもらう”」

「つまり、彼らは何かを待っている?」


セレネが小さく頷く。


「そんな感じ」


視聴者コメントも不穏に揺れる。


『信者じゃなくて召喚儀式か…』

『上にいる=ボス側の存在?』

『カエルが聖属性って逆にやばい』

『まあ…悲しい種族よ、見た目最悪だけどな』

『辛辣で草』


セレネが、ぼそっと追加する。


「見つかったら、増えるよ」

「ここ、あいつらの縄張りだし」


しずくの背筋が冷える。


(戦うなら、静かに)

(でも、放っておくと何かありそう)


選択肢は二つ。


今ここで奇襲して、4匹を速攻で落とす。

祈りを続けさせたまま、こっそり迂回する。


ほのかがしずくの目を見る。


「どうする?」


しずくは、息を吸って——小さく言った。


「…止めよう」


ミコトが頷く。


「静かに、確実に」

「私が拘束、ほのかさんが仕留め、佐倉さんが前に出て遮断」


セレネがだるそうに一言。


「手早く…炭酸が恋しい」


台無しである。


でも、その軽さが逆に心を落ち着かせた。


三人は視線を交わし、

階段の影から、息を殺して前へ出た。


階段の影で作戦を固めた、その直後。


肩の上のセレネが、だるそうに言った。


「まあ、頑張って」


頼りになるようで、ならない。


そしてセレネは、しずくの肩からするりと滑り落ちた。

どこへ行くのかと思ったら。

しずくの胸元へ、ふわっと潜り込んだ。


「私は寝る」


ほのかが「え?」って顔をする。


ミコトが「あ?」って顔をする。


しずくが「は?」って顔をする。


『おいwwwww』

『そこは寝床じゃないwww』

『月の眷属、JKの胸元で寝るなwww』

『セレネ変われ』


胸元のあたりから、セレネの声がした。

布越しで、ちょっとくぐもっている。


「少し硬いな」


「…まあいいか」


そこで、完全に黙った。


寝た。マジで寝た。

寝息だけが届く。


『硬い疑惑爆誕www』

『しずくの胸は硬い(公式)』

『セレネ辛辣で草』

『ぺったん…いや硬い…?』

『月の眷属、ソムリエすぎる』

『ま、まあ成長期だし…やっぱ草』


ほのかが笑いを堪えながら、肩を震わせる。


「し、しずく…今の…胸、硬いって…」


ミコトは真面目に止めようとして、途中で負ける。


「ほのかさん、今は集中…ぷっ」


しずくは顔が真っ赤になる。

脳が処理落ちする。沸騰状態だ。


でも、逆に空気が軽くなった。


さっきまでの不穏さ。

暗い月に呑まれるなの重さ。


それが、胸元(硬い)に消えていった。


ほのかが小声で言う。


「…セレネ、自由すぎる。でも、なんか安心するね」


ミコトが頷く。


「緊張を強制的に緩める能力…ある意味、最強です」


しずくは胸元をそっと押さえながら、深呼吸する。


(寝てる…)

(今は、私がやる番)


そして、視線を祭壇へ戻す。


祈るカエルもどきが4匹。

笑ってる場合じゃない。


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