第54話 コーラ万能説
セレネが帽子を深く被りなおす。
目は死んでるのに、仕草は可愛らしい。
『契約しろ!!一択!!』
『セレネ俺と契約して!』
『条件?知らん!契約だ!』
『美幼女&専用クエストとか逃すな』
『しずく行けえええええ』
ほのかが小声で笑う。
「コメント、完全に暴走してる…」
ミコトが苦笑する。
「視聴者は無責任ですから」
セレネが、配信の画面をチラ見した後、指をひらりと振った。
魔法陣でも光でもない。
ただの、雑な仕草。
なのに——三人の前に、A4サイズの紙がひらりと落ちてきた。
しずくが反射で受け取る。
紙は冷たい。月の匂いがする。
タイトルは【契約内容覚書】
ほのかが覗き込む。
「え、紙!?アナログ!?」
ミコトは真顔。
「こういう時こそ、文面が大事です。読みましょう」
しずくが、震えない声で読み上げる
契約内容覚書(抜粋)
1.月の眷属セレネは契約者とHP/MPを共有する。
2.セレネを動かすには供物がいる。
3.契約後は行動を共にする。
4.契約者が死亡すると、セレネは帰る。
5.現在のセレネは契約者では制御できないため、制御可能な形態(手乗り人形ボディ)へ変更される。
読み終わって、三人が固まる。
ほのかが真っ先に反応した。
「HP/MP共有!?え、これ…実質、仲間っていうか…」
ミコトが鋭く指摘する。
「共有は危険です」
「セレネが大技を使うと、契約者のMPが枯渇する可能性があります」
「逆に契約者が瀕死なら、セレネも瀕死になります」
しずくは、供物の文字で視線が止まる。
「供物って…なに…?」
セレネが半眼で答える。
「基本は食べ物。あと、気分で」
ほのかが即ツッコミ。
「気分で!?こわ!」
セレネはだるそうに続ける。
「おなかすく。…契約、するなら、ちゃんと養って」
養ってが重い。
「供物の頻度と、具体的な最低ラインはありますか?」
「それと、供物を満たさなかった場合のペナルティは?」
セレネは一拍置いてから、面倒そうに答える。
「頻度は、活動量による」
「少ないと、動かない。たくさん動かすと、たくさん要る」
「足りないと、機嫌悪くなる」
ほのかが小声で。
「ペットじゃん…月属性ペット…」
セレネが即、ぼそっと。
「ペットじゃない。月の魔導士」
しずくが紙の4行目を見る。
契約者が死亡すると、セレネは帰る。
つまり、セレネは契約者に縛られない。
契約者を守る理由はあるけど、契約者が死んだら終わり。
重い責任だけ残るタイプ。
そして最後。
手乗り人形ボディに変更される。
ほのかが目を見開く。
「手乗り!?え、かわいいやつ!?」
ミコトは眉をひそめる。
「…形態変更は制御のためですか?」
「つまり今のセレネは強すぎて扱えない、ということでいいですか」
セレネは眠そうに頷く。
「うん。今のままは、めんどい。…だから小さくなる」
「持ち運びも楽」
しずくは覚書を握りしめた。
(これ、メリット大きい。でも…)
強い味方(ただし燃費が悪い)
HP/MP共有のリスク
供物コスト
行動を共にする=常時同行(学校生活どうする)
形態変更=手乗りセレネ爆誕
視聴者コメントは当然のように沸騰している。
『手乗り幼女!?最強www』
『供物=飯テロ回確定』
『HPMP共有はデカい代償だな…』
『でも契約しないと、ここから帰れない説』
『契約しろ!セレネ俺と契約して!』
『しずく!そこ変われ!』
ほのかが、しずくの袖をちょんと引く。
「しずく、どうする?」
ミコトは静かに言う。
「契約するにせよ、追加で確認しましょう」
「何ができるのか、供物は食べ物との事ですが、何でもいいのか」
しずくは小さく頷いた。
コミュ障だが、ここは逃げない。
(聞く。全部聞いて、それから決める)
しずくはセレネを見上げる。
「セレネ…小さくなったら、何ができるの?」
「供物は…食べ物なら…なんでもいい?」
セレネは、だるそうに目を細めた。
「質問、多い」
でも、少しだけ口角が上がった気がした。
「まあ、いいや。続ける」
月光が、また少しだけ強くなった。
セレネは、だるそうに指を折りながら説明した。
「…できること、ね」
セレネができること
夜の魔法
攻撃・防御・支援と一通りできる。
魔法による罠の感知・解除
罠解除スキルとは別系統。
魔法罠にも触れられるやつ。
戦闘参加は極力しない
「めんどい」ので基本は後ろ。
ただし——
「契約者が危なくなったら、勝手にやる」
眠そうに、平然と言う。
ほのかが小声で。
「自主的に戦う…放置系幼女」
ミコトは真顔。
「勝手にやるは怖いですが、保険としては強いですね」
しずくは一番気になっていたところへ。
「供物…は?」
セレネは即答。
「お菓子」
間髪入れず。
「チョコレート。クッキー。よき」
そして、真顔のまま最後に追加する。
「飲み物はコーラ」
ほのかが吹き出す。
「コーラ!?月の魔導士って炭酸で動くの!?」
ミコトもさすがに言葉を選ぶ。
「供物の範囲が明確なのは助かりますが…健康面が気になります」
セレネは半眼のまま。
「健康とかめんどい」
しずくは、なぜか安心してしまった。
(魂とかじゃない)
(お菓子…コーラ…)
めちゃくちゃ現代的。
逆に怖さが薄まる。
視聴者は当然大喜び。
『供物=チョコとクッキーは草』
『コーラで動く幼女www』
『これは毎回おやつ回だな』
『セレネ、俺の冷蔵庫に住め』
『収益化しろ!セレネのお菓子代を投げる!』
ほのかがしずくの肩を揺らす。
「しずく!これ、いける!お菓子なら何とかなる!うち、安売りの日知ってる!」
ミコトは最後の確認をする。
「契約後形態変更、つまり手乗り人形ボディになった場合、あなたの能力は制限されますか?それとも維持?」
セレネはだるそうに答える。
「出力は落ちる」
「でも、必要なら戻れる。…ただし、コーラが要る」
ほのかが即。
「コーラ万能かよ!」
『さすが世界で一番売れてる飲み物』
『USA!USA!』
『コ〇・コーラとコラボしようぜ!』
しずくは覚書を握りしめたまま、セレネを見た。
夜の魔法(危険だけど強い)
魔法罠対応(3層以降で絶対役に立つ)
非戦闘主義だけど保険で戦う
供物=お菓子&コーラ(現実的)
手乗り形態で同行可(学校でも…?たぶん隠せる)
しずくは小さく、でもはっきり言った。
「契約…したい…」
セレネは半眼のまま、頷いた。
「じゃ、契約しよっか」
ほのかがガッツポーズ。
「よっしゃ!!」
ミコトも小さく息を吐く。
「覚悟は決まりましたね」
月光が、ふっと優しくなる。
放浪者専用クエスト【月の眷属】
契約手続きを開始します。
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