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第52話 星々の踊り子

三角の膜は維持されたまま。

そして別の星が、しずくへ向かって滑り出す。


攻撃しながら、防御。


やはり攻防一体。


しずくは盾を構え直す。


(挟む。落とす。星を減らす)


そのために必要なのは、受けるだけじゃない。


奪う。


しずくが自分を奮い立たせるように、小さく、だが強い声で言った。


「星を…奪う!」


ほのかが即答。


「いい!それ狙え!」

「うちも星を堕とす!」


ミコトが杖を握り直す。


「とにかく、あの星をどうにかしましょう。まずそこから」


月光の通路で、三人が次の一手に切り替える。


セレネは半眼のまま。


でも、その目だけが少しだけ楽しそうに見えた。



ほのかが弓を背中に格納した。


代わりに抜くのは、踊り子の双剣。


「…お願い」


ほのかの声が、いつになく真剣になる。


「星と踊って!」


双剣が、月光を受けて淡く光る。

風の刃が走る、空気を切る音が変わる。


《ダンシングソード》


二本の双剣が、風を起こしながら踊る。

そして実体の刃と風の刃、合計4つの刃が星を巡るように舞う。


同時に踊る星へ指先を向ける。


《マーキング》


星々に紋様が浮かんだ。


刃が飛ぶ、戻る、また飛ぶ。


まるで、ほのかの手から糸が伸びているみたいに、双剣が空中を走る。

まさしく踊り子。


星が迎撃する。


月の小球が軌道を変え、刃にぶつかる。


硬い音、光が散る。


双剣が舞い、風が踊り、星が応える。

月光の通路で、空の舞踏会が始まった。


二本の刃と風、四つの星。


撃ち合う、弾き合う、擦れ合う。

軌道が絡み合う。


絵面が、美しいのに意味が分からない。


『うおおおおおおお!!』

『ギャル双剣かっこよすぎ!!』

『星と踊っては名言』

『これアニメ化してくれ』

『空中戦やべえ!!』


しずくは盾を構えたまま、ほのかの踊りを見て、息を呑む。


(…すごい)


でも見惚れてる暇はない。


セレネの三角膜はすでにない。

星の数が減れば、膜は張れない。


ほのかが削っている。


ミコトが、低く言った。


「今、削れています。星の干渉が遅れてる」


ほのかが叫ぶ。


「しずく!ミコト!星、落ちるよ!今のうちに本体の隙、作って!」


双剣と星の撃ち合いが、ついに均衡を破る。


一つ、星が弾かれて壁に当たり、光が散って消える。


さらにもう一つ。

それは他の3つの星を連鎖するように巻き込んだ。

風の渦が星を包み込んで、星同士をぶつけ合わせた。


セレネの周囲の星が、明らかに減った。


残る星は2。


コメント欄が沸騰する。


『星減った!!いける!!』

『バリア弱体化きた!』

『ほのかMVP!!』

『踊り子の双剣強すぎて草』


セレネが半眼のまま、ぼそっと言う。


「へぇ…やるじゃん」


声はだるい。


そして、星が2つになった瞬間、三角配置は組めない。


今が、最大のチャンス。


ミコトが杖を握り直す。

詠唱を短く。狙いを鋭く。


ほのかは双剣を戻しながら、息を吐く。


「次、決めよう」


月の眷属にして月の魔導士、セレネ。


やる気のない顔のまま、残る2つの星を盾のように前へ出した。



しずくが前に出る。


銀盾を左手、はさみ剣を右。


足元は湿った石。

月光が壁から滲み出て、影の輪郭が薄い。


セレネは浮いたまま、半眼でこちらを見ている。


そして、ぼそっと呟いた。


「…おなかすいた」


その声と同時に、星が動く。


残る2つの星が、真っ直ぐじゃない。


大きく弧を描く。


左から回り込む星。

右から回り込む星。


挟み撃ち。


しずくの盾の正面を避けて、左右から刺しに来る軌道。


(逃がさない軌道…!)


ほのかが叫ぶ。


「しずく!左右から来る!挟まれる!」


ミコトも息を呑む。


「回避しながら受けるのは危険です!」


しずくは一瞬だけ迷って、すぐ決めた。


(挟むなら、こっちが挟む)


盾で受けるんじゃない。

左右から来るなら、中央で迎え撃つ。


しずくははさみ剣を両手で握り直し、刃を大きく開く。


二つの星が弧を描いて同時に、しずくの左右へ。


その瞬間。


しずくは一歩、前へ踏み込んだ。


左右の星が交差する真ん中へ体を入れる。


(ここ!)


片方を挟む。

もう片方がはさみ剣に当たる。


腕が痺れる。視界が一瞬白くなる。


だが、止まった。


その直後。セレネが、懐から何かを取り出した。


小さな杖、おもちゃみたいに細い。

でも、月光を吸い込むように淡く輝いている。


ほのかの声が上ずる。


「え、杖!?星だけじゃないの!?」


ミコトが顔色を変える。


「本体も魔法を行使する気です!」


しずくの喉が乾く。


星が2つになって、チャンスだと思った。


でも、違う。


星が減ったからこそ、セレネは“次の段階”に移った。


杖を構えたセレネが、眠そうな声で言う。


「そろそろ、飽きた…だるい」


月の光が、さらに強くなる。


壁が白く発光し、通路の影が消えていく。

まるで昼みたいに明るいのに、温度は冷たいまま。


そして、セレネの杖先に、細い光が集まり始めた。


それは星とは違う、

線の光。まっすぐで、鋭い。


しずくが盾を構える。


ほのかが双剣を握り直す。


ミコトが息を吸う。


「来ます!」


セレネの杖先に集まった細い光が、一瞬黒くなった。


白い月光の中で、黒だけが際立つ。

穴みたいな黒。


そのまま無気力に、やる気なしの動き。


セレネが、杖を突く動作をした。


狙いはミコト。


しずくが叫ぶ間もない。

ほのかが動く間もない。


杖がミコトを刺した。

…ように見えた。


実際に触れたわけじゃない。距離がある。

でも、刺されたとしか言いようがない。


その瞬間。


ミコトの胸に衝撃が走る。


肺の上。

肋骨の内側が、内側から叩かれたみたいに痛い。


呼吸ができない。


「っ!」


ミコトが膝をつく。

手が喉へ、目が大きく開く。


吸えない。吐けない。

呼吸そのものが奪われた。


ほのかが叫ぶ。


「ミコト!?」


視聴者が一斉に叫ぶ。


『夜の魔法じゃねーか!!』

『見えない魔法!』

『やばい、不可視攻撃!』

『ミコト落ちたら終わる!!』


ミコトは震える手で杖を握りしめる。

でも詠唱ができない。呼吸ができないから。


しずくの脳が冷える。


(狙いはヒーラー)

(ミコトが倒れると、終わる事が分かってる)


セレネは半眼のまま、だるそうに言った。


「うるさいの、止めただけ」


“止めただけ”。


その言葉が、逆に怖い。


ほのかがミコトに駆け寄る。


「ミコト!」


セレネの周囲にはまだ星が2つ残っている。

近づけば弾かれる。星に撃たれる。


しずくは迷わない。


盾を前に出し、ミコトの前へ滑り込む。


(守る。まず守る)


ほのかが背中をさするが、ミコトは苦しそうに喘いだまま。


(止める)


しずくの視線が、セレネの杖へ向く。


あの黒い一瞬。

夜の魔法。

見えない攻撃。


視聴者の言葉が刺さる。


『夜の魔法=不可視』


しずくは、はさみ剣を握り直す。


(星を無視できない)


(でも今、護らないとミコトが死ぬ)


ほのかが叫ぶ。


「しずく!うちが星引きつける!ミコトを守って!」


しずくが頷く。


そして、しずくはセレネを見据える。


月光の地下通路。

白い壁、黒い一瞬。


セレネの杖が、もう一度動こうとしていた。


しずくは理解した。


見えないだけ。

何もないわけじゃない。


セレネの杖が黒く光る瞬間。

そこから伸びる直線上に、何かが走っている。


なら、読むのは光じゃない。


杖の向きだ。


しずくはセレネの目じゃなく、杖先だけを見る。

わずかな角度、重心の移動、突く予備動作。


視線を一点に固定する。


ほのかはほのかで動いていた。


「お願い!」


《ダンシングソード》


双剣が舞う。投げる、戻る、また投げる。

残り2つの星へ、しつこく、粘着質に絡みつく。


星が弾き返そうとする。

でも、さっきより動きが鈍い。


星も疲れている。


その瞬間、セレネの杖が黒く光った。


ミコトを刺している。


もう一度来る。


しずくは迷わない、射線を読む。


直線、ほんの僅かな角度修正。

狙いはミコトの胸。


(ここだ)


しずくは盾を合わせた。


銀盾の面を、杖先の延長線へ。

呼吸を合わせる。受けじゃない。弾く角度。


そして…何も見えないのに、確かに当たった。


黒い衝撃が盾にぶつかり、火花みたいな月光が散る。

盾の縁が淡く鳴った。


夜の魔法を弾いた。


《パリィ成功》


空気が止まる。


視聴者が凍りついたあと、爆発する。


『え????????』

『夜の魔法をパリィ!?!?』

『見えないのに読んだwww』

『盾しずく人間やめた』

『神パリィだ』


ほのかも一瞬、手が止まる。


「しずく…すごい」


ミコトは少しづつ呼吸が戻ってきている。

しずくの盾が間に入ったことで、圧迫が少しだけ和らいだように肩が動いた。


セレネの表情が、初めて大きく変わる。


半眼が、少し開いた。


眠たげな目が、しずくをちゃんと見る目になる。


「え?」


驚き、明確な驚き。


そして、心底めんどくさそうに続けた。


「まじで…?」


その声だけは、さっきまでより少しだけ温度があった。


しずくは盾を構えたまま、息を吐く。


(当たるなら弾ける)


(見えないなら読む)


ほのかが我に返って叫ぶ。


「しずく今の神!よし、星落とす!いける!」


双剣が再び舞う。


星が2つ。

セレネの防御は、もう薄い。


セレネは小さな杖を握り直し、ぼそっと言った。


「めんどいけど…合格、近いかも」


でも、まだ終わらない。


試験は様式美。


最後の一手が来る。

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