表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/54

第47話 月下の湖畔に伝わる大鋏剣…長い!『はさみ剣』になった

ザリガニが、最後に一度だけ震え終えると。

光の粒を残して、消えた。


湖畔の泥にドロップが放り出される多ように、現れた。


【通常ドロップ:上質魔石】

【通常ドロップ:巨大甲殻/湖藻にまみれた外殻片】


そして、背中に乗っていた追う者。


赤い目が瞬いた…だけ。


まるで中身が空っぽだったみたいに、鎧は水草ごと崩れ、ばしゃりと湖水に落ちて

そのまま、霧みたいに溶けて消えた。


残りは追う者のみ。

…のはずだった。


「…え?」


しずくが間の抜けた声を出した。


その【追う者】が消えた直後。


ザリガニの魔石の傍にうっすら光る何か。


湖畔の泥に、一本の大きな武器が。


剣…いや、これは…。


持ち手が独特。いやこの形状は・


「…はさみ?」


ほのかが、口を開けたまま言う。


ミコトも目を丸くする。


「刃が二枚…? え、剣ではなく…剪定鋏?」


視聴者も大騒ぎ。


『はさみwwwww』

『ザリガニの鋏そのまんま!』

『追う者=庭師説』

『花クエに刺さる装備出てて草』


しずくが恐る恐る近づくと、例のシステムメッセージが淡々と出た。



【ローグライクドロップ:月下の湖畔に伝わる大鋏剣】

【植物系素材の採取効率上昇(中)】

【植物系モンスターに追加ダメージ】

片手でも両手でも使用可能。

挟み受け成功時、相手の体勢を崩しやすくなる(小)


「採取効率…上がるって…書いてある」


しずくが小声で読む。


ほのかがお腹を押さえる。


「月下の湖畔に伝わる大鋏剣…長い!」

「『はさみ剣』でいいでしょ、これどうみたって『はさみ』だし」


ミコトは真顔で武器を見つめる。


「合理的…ですが」

「武器としてはどうなんでしょう?」


しずくは、もっと別の問題に気づく。


(ロック枠…いっぱい)


銀盾。踊り子の双剣。雷光の杖。

もう 3/3。


この大鋏剣、今ここで拾って使えるけど、持ち帰れない。


しずくが小さく呟く。


「これ…今日だけ…」


「じゃあ今日だけ使お!蒼い花を刈り取ろう!一本3000円!」


ミコトも頷いた。


「賛成です。湖畔は危険。滞在時間を短くしましょう。採取効率が上がるなら、なおさら」


しずくは大鋏剣を持ち上げようとして。


「あれ…意外と軽い」


戦士型のロングソードと、そこまで大差ない。

構えてみれば、リーチはロングソードよりもある。

結構使いやすいかもしれない。


そして何より、表示がある。


【植物系素材の採取効率上昇(中)】


(…花のための武器…ってこと?)


ほのかが周囲を警戒しながら言う。


「しずく、採取役!ミコトは後ろでホーリーライト準備!」

「うちは水面監視、また手ェ出てきたら射抜く!」


「うん」


月明かりの下。

大きな『はさみ剣』を構えた女子高生が、蒼い花へ向き直る。


今日の目的は、戦利品じゃない。


蒼い花。10本。30000円



はさみ剣は、大きい。


見た目は物騒。

「花を採る道具」じゃなくて「人を切る道具」だ。


…なのに。


意外と使いやすかった。


持ち手が“はさみ”の形だからか、力の入り方が直感的で。

刃の開閉が、思ったより繊細にできる。


しずくは膝をついて、蒼い花に刃を寄せる。

根を傷つけない角度。茎を潰さない圧。


するっと…切れた。

切り口も滑らかだ。


ミコトが感心する。


「採取効率上昇…ちゃんと効いてますね。切り口が綺麗です」


ほのかは笑いを堪えながら周囲を警戒している。


「いや、絵面がさ…」


月明かりの湖畔。

巨大なはさみ剣で、蒼い花を丁寧に収穫する女子高生。


コメント欄は、とうとう耐えられなくなる。


『剪定(物理)』

『園芸部、3層へ』

『武器が完全に庭師www』

『はさみ剣、花採り最適解で草』

『3000円畑刈ってて笑う』

『誰も湖畔の大鋏剣って言わなくて草』

『長い!はさみ剣でいい』


しずくは恥ずかしくて顔が熱くなるけど、前髪に隠れて助かった。


一本、二本、三本。


ほのかが数を数えて、テンションが上がっていく。


「はい五本!」


「水面、変化なし。急ぎましょう」


そして——最後の一本。


【蒼月花 ×10】


しずくは、思わず胸の奥でガッツポーズをした。


(できた…)


ほのかが拳を握って叫ぶ。


「よっしゃ!合計10本!30000円!」


ミコトも珍しく、少しだけ柔らかく笑う。


「初クエストとしては、いい感じですね」


しずくは小さく頷く。


『稼いだwww』

『花10本で3万、夢ある』

『ザリガニ倒して園芸して帰る配信』

『それだけ聞くと、ほのぼの』

『JKとはさみ剣は草』


視聴者の笑いが起こる中、流れが一瞬止まった。


ひとつだけ、短いコメントが目に入る。


『追う者、たぶんまた来るぞ』


それだけ。


やけに短い。やけに断言。


しずくの背中が、ぞくっとした。


(また…?)


湖面は静か、風もない。

さっきと同じ、静かすぎる夜。


はさみ剣の刃先から、雫が落ちる。


しずくは蒼い花をリュックにしまい、周囲を見回した。


礼拝堂は遠くで静かに佇んでいる。

橋はまだ渡っていない。



しずくは、はさみ剣を肩に担ぎながら考えていた。


持ち手が“はさみ”形状だから、片手でも扱いやすい。

両手で持っても、絵面以外は問題なさそう。


しずくは自分のいつもの相棒を見る。


銀縁バックラー。

呼吸に合わせてくれる盾。


(盾があると…安心する)


ここは絶対に手放したくない。

しずくは結論を出す。


普段は——銀盾で受けて、はさみ剣は片手で添える。


そして、火力がいる場面。


両手持ちに切り替えて、挟む。


ほのかが横から覗き込む。


「しずく、なに考えてるの?」


しずくは少しだけ言葉に詰まって、でも言った。


「やばいとき…両手で…はさむ…」


ほのかが一瞬固まり、次に吹き出す。


「やばいときは、はさむw」


ミコトは真顔で頷いてしまう。


「確かに」

「盾で受けて、相手の武器や手足を挟めれば…拘束できます」


しずくは、ちょっとだけワクワクした。


ほのかが肩を軽くたたく。


「いいじゃん。盾しずくに“挟み技”追加!新境地!」


ミコトも小さく笑う。


「次からは“園芸部”ですね」


しずくが、珍しくツッコミを返せた。


「…なんで…そうなる」


二人が笑う。

しずくも、少しだけ笑った。


運用は決まった。


普段は盾。

必要なときだけ、両手で挟む。


湖畔を離れ、三人は礼拝堂へ向かう。


目の前に橋。


湖の中央の浮島へ続く一本道。

月明かりを受けて、橋の欄干が白く浮かぶ。

静かで、綺麗で不気味。


ほのかが、ぽつりと言う。


「…これさ」


しずくも頷く。

ミコトも同時に頷く。


三人の意見が一致する。


「絶対、何かくるよね」


コメント欄も同じテンションで流れる。


『あるあるwww』

『橋=イベント』

『フラグ建築やめろw』

『一本道はだいたいボスか罠』

『落ちたら即死系?』


しずくは橋の入口で足を止める。

軽業の補正で体は軽いのに、心は重い。


(こういう場所、好きじゃない)


逃げる場所がない。遮蔽物がない。

水辺、橋、夜。


要素が揃いすぎてる。


「まずは確認しましょう」

「橋に罠がある可能性もあります。しずくさん、お願いできます?」


しずくが小さく頷く。


「…うん…見る」


地面、欄干、継ぎ目。

不自然な凹み、違う色の石。


ほのかは弓を構えたまま、湖面を見張る。


「水面、動いてないけど…逆に怖い」


しずくは橋の最初の一歩を踏み出さずに、深呼吸した。


(ここは…落ち着け)


相棒。そして、片手で持てるはさみ剣を腰に添える。


いつもの安心と新しい手札。


準備はできてる。


ミコトが小さく言った。


「行きましょう」


ほのかも頷く。


「よし。中央で何か出ても、左右に逃げられない。なら、前に抜けるだけ!」


「うん」


三人は、同時に橋へ踏み出した。


その時。


橋の下、湖面のどこかで。


金属が、石に当たるような音がした。


コメントが一瞬止まる。


『…今の音なに?』

『来るぞ』

『来たな』

『これは…あれか』

『殲滅対象来たな』


しずくは、盾を構え直す。


橋を渡り始める。何もない。


落ちない、罠もない、奇襲もない。


あまりにも普通に渡れて、逆に怖い。


三人とも、最後まで緊張を切らさずに渡り切った。


そして、目の前に礼拝堂。


巨大な正面扉。

石造りの壁、月明かりに白く浮かぶ装飾。

静かで、神聖で、冷たい。


ほのかが小さく言う。


「…やっと本丸」


しずくが扉に手をかけようとした、その瞬間。


ほのかの気配察知が発動した。


「後ろ!!」


水が泡立つ音。


浮島の縁、湿った地面の割れ目から、泡が湧くような音。


しずくが振り向く。


地面が盛り上がる。

ぬるり、と白いものが出てくる。


大きな白いカエル…に見える。


でも、違う。


手足がある。

人の手足みたいな関節で、這い出てくる。


『きもいの来たあああ』

『目でかすぎ無理』

『白いカエルに手足は付けるな』

『銛持ってるの最悪』

『生理的に無理選手権優勝』


システムウインドウが現れる。


【カエルもどき】


2匹のカエルもどきが、銛を構える。

礼拝堂の扉を背にする三人。

逃げ道は橋のほうだけ。


でも、橋まで距離がある。

しかも背中を見せたくない相手。


ほのかが弓を引く。


「まず片方落とす!」


ミコトが杖を握り直す。


「私は拘束…ホーリーロープで足を止めます!」


目がでかい。銛が怖い。

でも、やることは決まった。


礼拝堂の入口での洗礼開始。


続きが気になる方は、ブクマお願いします!

また、少しでも面白いと感じた方は評価お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ