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第46話 水属性には雷

ザリガニが突撃した。


しかも、速い。


(え、なんで陸上でこんな…?)


突っ込みたい。

『ザリガニって陸上で疾走できたっけ?』って。

でも、突っ込んでる暇はない。


巨大な甲殻が泥を砕き、脚が地面を掻く。

湖畔が揺れる。


しずくの頭が冴える。ガンギマリの冷静。


「散会!」


声が出た。短い指示。

ほのかとミコトも即反応する。


三人は素早く散った。


ザリガニ騎士は、止まらない。

大きく弧を描いて方向転換。

水を撒き散らしながら、滑るように旋回する。


そして——口を開けた。


「…え?」


次の瞬間。


水鉄砲としか言いようがないものが放たれた。


圧縮された水。白い筋。


しずくに向かって、一直線。


(速い…避けるの無理)


しずくは即座に銀盾を構える。

盾の縁が淡く光る。


受ける。


衝撃が盾を貫いて骨まで来た。

水なのに、鈍器。


しずくの左腕が弾かれる。

肘が痺れる。指が開きかける。


「ぐ…!」


盾が飛ばされなかったのは、運じゃない。

ミスリル強化と、盾が呼吸に合わせたおかげ。


(左…持ってかれるとこだった)


ほのかの叫びが飛ぶ。


「水鉄砲とか聞いてないんだけど!!」


ミコトが震えを押し殺した声で言う。


「あれ、圧力が高すぎます!しずくさん、腕、大丈夫ですか?」


しずくは痛みを飲み込み、短く返す。


「…だいじょぶ…まだ…いける」


コメント欄は阿鼻叫喚と爆笑が混ざる地獄。


『水鉄砲=レーザーやん』

『甲殻類TUEEE』

『ザリガニ疾走の謎は置いとけw』

『盾強化してなかったら腕持ってかれてたぞ』


追う者は、騎乗のまま赤い目を走らせる。次の狙いを探している。


“追う”目。


湖畔。逃げ道は少ない。

背後は水。足場は泥。


しずくは、盾を握り直す。

左腕が痺れている。

でも、ここで崩れたら終わる。


(甲殻類、強い)


当たり前の結論が、やけに重い。


そして、しずくは気づく。


水鉄砲の後、ザリガニの口元から泡が少し出ている。

呼吸…?

それとも、溜めが必要?


追う者は、まだこちらを見ている。

赤い目が月光にぎらつく。


しずくは左腕の痺れをこらえ、盾を構え直す。

ミコトは杖を握り、詠唱の準備。

ほのかは一歩引いた位置で弓を構えながら、ふと口を開いた。


「ねぇ…あのさ」


視線は敵を捉えたまま。

でも声は、やけに落ち着いてる。


「あのザリガニと騎士、どう見ても水属性だよね」


ミコトが一瞬、戸惑う。


「…属性、ですか?“濡れている”だけではなく?」


ほのかは即答。


「水鉄砲撃ってくる甲殻類って時点で、水属性じゃん!」

「で、RPGだと…」


ほのかがしずくを見る。


「水には雷が効くよね?」


しずくの目が、わずかに大きくなる。


(雷…)


雷光の杖。


ロックして持ち帰った杖。

たしかに雷は水属性に強い。


視聴者が、ここぞとばかりに後押しする。


『雷杖の出番だ!!』

『水属性に雷=常識』

『杖ロックしたのここで回収w』

『ミコト、MP効率いいから撃てるぞ!』

『スタン入れたら勝ち筋!』


ミコトはまだ少し迷う顔をしている。

ゲームの知識がない分、“属性相性”が直感的に分からない。


「でも…雷を水に…」

「周囲の水分まで伝導して、こちらが危険になる可能性は…?」


「それは、現実の話ね」

「でもダンジョンって、現実のルールだけじゃないじゃん」


しずくが小さく頷く。


「…アンデットに聖属性が効くようなもの」


ミコトが、雷光の杖を見る。

杖先に残る青白い光。

シャーマンの雷を思い出す。


(あれを、こっちが使う)


ミコトは息を吸って、決めた。


「…分かりました。試します」


ほのかがニヤッとする。


「よし。うちが引きつける。しずく、盾で耐えて。ミコト、雷で決める!」


「…うん!」


ミコトが雷光の杖を握り直す。

魔力調律で、消費を抑えられるはず。


杖先が、かすかに震える。


ザリガニが、再び脚を鳴らした。


ほのかが弓を構える。

「よし、新スキル」


《マーキング》


赤い紋様が、ザリガニの頭部に浮かび上がる。


「少しでも引き付けられれば!」


狙うのは急所じゃない。倒すためじゃない。


速射、連発。


細かく位置を変えながら、矢継ぎ早に撃つ。


矢が甲殻に弾かれる音が夜に散る。

威力は期待できない。

でも、視界に入る。音がする。集中が削れる。


『ほのか上手い!ヘイト取ってる!』

『威力いらん、タゲ取れ!』

『弓の正しい使いたまに


ザリガニが、ぎょろりと動いた。

黄ばんだ目が、ほのかを捉える。


狙いが定まる。


「来る!」


ザリガニが脚を鳴らす。追う者が槍を構え直す。

突撃の予備動作。


そこへ、しずくが前に出た。


「こっち…!」


泥を蹴って、ザリガニとの距離を詰める。

軽業の補正で足が滑らない。むしろ速い。


(距離がなければ突撃できない…はず)


“はず”を信じるしかない。


ザリガニの巨体が迫る。

近い。怖い。硬い。臭い(気がする)。


でも、ここで止める。


しずくは盾を構え、体を低く落とす。

ザリガニのハサミが、ぎりっと開いた。


騎士が槍を振り下ろす気配。


しずくは一歩踏み込み、銀盾を斜めに差し出した。


金属音、そして滑らせた感覚


槍は受け流せた。が、次がある。


ザリガニが、口を開く。


(水鉄砲!)


その背後で、ミコトは雷光の杖を構えていた。

目は敵じゃなく、魔力の流れを見ている。


詠唱に入っている。


(間に合え…)


ミコトの唇が動く。

声は小さい。けれど途切れない。


ほのかが後ろから叫ぶ。


「しずく!無理しないで!腕がやられる!」


「大丈夫…時間稼ぐ!」


『近づいて突進封じ、賢い!』

『でも水鉄砲至近距離は死ぬ!』

『ミコト詠唱間に合えええ』

『しずく耐えろおおお』

『甲殻類強すぎ笑えない』


ザリガニの口の奥で、水が圧縮される音がする。

泡が弾ける。

次の一撃は近距離、さらに重い。


しずくは盾を握り直す。

左腕がまだ痺れている。

それでも、呼吸を合わせる。


(お願い…相棒!)


淡い光が、縁で揺れた。


そして。ミコトの詠唱が最後の一節に入る。


雷光の杖先が、青白く燃え上がる。


《鋭き雷光》


ザリガニが、巨大なハサミを振り上げた。


月明かりを受けて、甲殻が鈍く光る。

避雷針みたいに高く掲げられたそのハサミ。


一直線の青白い閃光。

狙いは正確。迷いがない。


雷は、ハサミに直撃。


金属じゃないのに、導かれるみたいに吸い込まれた。

水をまとった甲殻に、雷が走る。


ザリガニの動きが止まった。


システムが伝えて来る。


【状態異常:スタン】

【属性相性、マーキング効果により大ダメージ】


次の瞬間、びくびくと痙攣し始める。

脚が勝手に跳ねる。ハサミが震える。


ほのかが叫ぶ。


「効いてる!効いてるってそれ!!」


「スタン、入りました!」


コメント欄が爆発する。


『雷杖つよすぎ!!』

『避雷針ハサミwww』

『水属性に雷、正解!』

『痙攣キモすぎて草』


しずくは、その止まった一瞬を逃さない。


踏み込む、そして。


ザリガニの口へ、短剣をねじ込んだ。


「…っ!」


硬い外殻と違って、口内は柔らかい。

ぬるい。ぬめる。嫌な感触。


しずくは感情を切り捨てた。


そのまま、短剣で蹂躙する。


ぐちゅ、という音がした気がした。

ザリガニが痙攣のまま暴れようとするが、スタンで力が入らない。


しずくは無言。

コミュ障だが、今は無言が一番強い。


ほのかが叫ぶ。


「しずく!射線あけて!」


しずくは即座に横へずれた。

軽業の補正で滑るように距離を取る。


ほのかの弓が鳴る。


《ダブルショット》


口めがけて、矢が二本。


口内から侵入した矢は、ザリガニの内部を貫いていく。


ザリガニは最後に大きく痙攣して、ぴたりと動かなくなった。


静寂が戻る。

湖面の波紋だけが、ゆっくり広がっていく。


『勝った!!!』

『連携完璧すぎ』

『しずくの口内攻撃えぐいw』

『ミコト雷が決定打!』

『ほのかの締めうますぎ!』


三人が息を整える。


倒した…倒したけど。


しずくの視線が、ゆっくり上へ向く。


そこにはまだ、水を滴らせた騎士がいる。

追う者がいる。


赤い目が、消えていない。


ほのかが小さく呟く。


「…本命、まだじゃん」


ミコトが杖を握り直す。


「次は…追う者です。油断しないで」


しずくは盾を構え直す。

短剣の先から、湖水が落ちる。


【追う者】


誰を追うのか、何を追うのか。

まだ分からない。


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