第45話 追う者
新展開突入の為、タイトルを変更しております。
中間テスト開け、放課後。
ついに3層、初級探索者としての第一歩。
配信告知も完了。
視聴者数も、いつもより最初から多い。
(見られてる…)
しずくは落ち着こうとして、ふと気づく。
今まであまり意識してなかったものを、今日は持っている。
水、エナジーバー、懐中電灯。
「準備…できてる…」
「3層は、これまでとは違うと思います」
ほのかは元気よく拳を握る。
「よし!蒼い花!一本3000円!」
入った瞬間、ローグライクの表示。
《本日の型:斥候型》
固有スキル:【軽業】
軽快でアクロバティックな動きに補正。
《放浪者レベルによるスキル追加》
【罠解除】:通路や宝箱の罠を解除できる
【鍵開け】:一般的な鍵を開錠できる(魔法的な鍵は不可)
ほのかが目を輝かせる。
「うわ、ダンジョン攻略スキル本格的!」
ミコトも頷く。
「罠解除があると、探索の幅が一気に広がります」
「なんか…ちゃんとRPG」
コメント欄も盛り上がる。
『罠解除きた!』
『鍵開けは神』
『斥候しずく=最適解』
『回避できるパリィ盾、最強では?』
『ミミックも安心』
3層の景色は、言葉より先に息を奪った。
月の闘技場が思い出される。
まさに夜の世界。
空には無数の星々。
そして、一際大きな月。
半月。
月明かりが湖面に伸びて、揺れている。
静かで、冷たくて、綺麗で。
目の前には湖。
その中央に、浮島。
浮島の上に——巨大な礼拝堂。
星と月明かりに照らされて、白い壁が淡く光る。
幻想的で、神聖で、でもどこか不気味。
そして、浮島へ渡る橋が見える。
一本道。
逃げ道は少ない。
ほのかが思わず声を落とす。
「うわ、なにこれ…映画じゃん」
ミコトは静かに周囲を確認する。
「灯りは…月光で十分見えます」
「でも礼拝堂内部は暗い可能性があります。懐中電灯は準備して正解です」
しずくは、橋の先を見つめて、喉が鳴る。
(ここからが本番)
コメント欄は興奮で流速が上がる。
『3層だ!!』
『夜きたあああ』
『月でっか!!』
『礼拝堂かっけぇ…怖ぇ…』
『蒼い花どこ!?湖畔ってことは外周か?』
しずくは銀盾と短剣を握り直す。
軽業の補正が、足の裏を軽くする。
斥候の時間だ。
「行こう…」
ほのかが笑う。
「行くぞー!蒼い花、狩り!」
「警戒しながら行きましょう」
三人は湖畔へ足を踏み出す。
夜の湖、浮島、礼拝堂。
そして、蒼い花クエスト。
3層の冒険が始まった。
蒼い花の採取。
まずは橋を渡らず、湖の外周を進む。
湖面は静か。風もない。
水音すらほとんど聞こえない。
不気味なほど、静かだ。
そんなとき、ミコトが小さく声を上げた。
「あ、あれじゃないですか?」
指差した先。
月明かりに照らされた岸辺に、うっすら光る蒼い花がいくつか咲いている。
ほのかが目を輝かせた。
「発見!」
小走りで近づく。
『幸先いい!』
『花あるやん!』
『3000円が生えてるw』
…が、次の瞬間から空気が変わる。
『あ、ここって確か…』
『水辺=クソ』
『湖畔は危ないって相場が決まってる』
『待て待て待てww』
しずくも、同じことを思った。
(静かすぎる)
(こういう時、だいたい来る)
口から声が出ない。やはり心のなめくじは歩みが遅い。
でも身体は動いた。
斥候型の【軽業】が、足を軽くする。
しずくはほのかの背中に追いつき、服の裾を掴んで引いた。
「ほのか、待っ…」
ほのかが振り向きかけた、その瞬間。
岸辺の水面が揺れた。
花の近く。
水面の下から、何かが浮かび上がる影。
次の瞬間。
ぬちゃっと濡れた音。
水から、白い手が伸びた。
指が長い。爪が黒い。
水草みたいなものが絡みついた腕。
システムウインドウが開く
【溺死者】
月光に照らされて見えた顔は、沈んだ魚みたいに虚ろで。
それなのに、狙いだけは正確だった。
手が、ほのかの足首へ。
「うわっ!?」
ほのかの足が取られる。
しずくは一瞬で銀盾を出し、腕ごと叩き落とす。
「だめ…!水辺!」
(言えた!ちょっと言えた!)
ミコトも反応が速い。
「アンデットです!」
杖を構え、詠唱。
《ホーリーライト》
柔らかい光が、湖畔を白く染める。
光が溺死者を覆う。
「ギィィ…!」
焼けるように仰け反り、手が引っ込む。
水面がぶくぶく泡立つ。
一拍おいて、魔石が浮かんできた。
コメントが爆発する。
『出たー!!』
『やっぱり水辺www』
『ホーリーライト刺さる!』
『しずくナイス引き!』
ほのかが、息を吐きながら弓を構える。
「…マジで『あるある』すぎるんだけど!」
しずくは花を見て、息を整える。
蒼い花は、確かに光ってる。
そして、足元にもうっすら光る採取ポイントの表示。
システムメッセージが淡々と出た。
【採取対象を確認:蒼月花】
【注意:水辺周辺は危険】
(…注意、遅い)
しずくは膝をつき、慎重に花を一本摘む。
【蒼月花 ×1】
もう一本。
【蒼月花 ×2】
その時。
湖面が、さっきより大きく揺れた。
水の下を、何かが移動している。
溺死者とは比べ物にならない、重い気配。
コメントがざわつく。
『待って、波紋でかくね?』
『本命来るぞ…』
『夜の湖、やばいやついる』
『あれか…』
しずくは顔を上げる。
月明かりの湖面。
そこに、ゆっくりと浮かび上がる影。
鎧…?
水に沈んでいた金属が、きしむように姿を現す。
崩れた兜。苔と水草。
そして、手に握られた長い何か。
捻じれた槍。
水没した鎧の騎士が、岸辺へ一歩踏み出した。
システムウインドウがゆっくりと騎士の名を表示した。
【追う者】
「…っ」
ほのかが息を呑む。
ミコトが小さく言った。
「追う?何を…」
『騎士だと…』
『あれ、甲殻類じゃないの?』
『いやな予感がしてきた』
しずくは銀盾を構え直す。
蒼い花はまだ、全然足りない。
でも、逃げ道は湖畔。
背中は水。
水をしたたらせた【追う者】が、こちらを向く。
兜の隙間。
そこが赤く光った。
中身がいる光じゃない。
冷たく、機械みたいな殺意。
しずくは反射で盾を構える。
足が、軽業の補正で床を捉える。
ミコトは半歩下がって、杖を握りしめた。
詠唱に入れる距離。逃げる距離。
ほのかが弓を取ろうとした、その瞬間。
湖面が再び揺れた。
さっきの波紋とは違う。
さらにでかい。
水そのものが押し上げられるみたいな圧。
しずくの背筋が凍る。
(大きい…やばい)
月明かりの湖面が、ぼこぼこ泡立つ。
そして、水面が割れた。
巨大なザリガニが、ぬらりと姿を現す。
甲殻は黒に近い深緑。
目は濁った黄。
ハサミが、橋の柱くらいある。
『うわあああああ!?』
『ザリガニ!?!?』
『夜の湖に甲殻類はやめろwww』
『うわぁ…ある意味3層で一番やばいの来た』
騎士が、ゆっくりと動いた。
ザリガニの背に、まるで固定されるように乗った。
ザリガニが脚を鳴らす。
騎士が槍を上げる。
月明かりの中。
【ザリガニ騎士】爆誕。
しずく、唖然。
「…え」
ミコト、呆然。
「…え…?」
ほのか、叫ぶ。
「なにそれ!騎士は馬じゃないの!?」
視聴者、爆発。
『ザリガニ騎士は草』
『馬ってなんだっけ』
『透明な世界観どこいったw』
『でもデカすぎて普通に怖い』
『甲殻類+騎士=硬いに決まってる』
ザリガニが、ズズ…と岸へ這い上がる。
水が滝みたいに滴る。
騎士の赤い目が、三人を順番に見た。
狙いを定めるように。
次の瞬間。
ザリガニが脚を踏み鳴らした。
湖畔の泥が跳ねる。
突進の予備動作。
ミコトが、やっと声を取り戻す。
「…しずくさん!前!」
「ほのかさん、距離を!」
ほのかが弓を構え直す。
「了解!てか…」
息を吸って叫ぶ。
「あれ、絶対硬いよね!?」
しずくは、盾を握り直す。
硬い、速い、でかい。
しかも、上に騎士。追う者。
(ここで逃げたら、蒼い花が)
しずくの視線が、足元の採取ポイントに落ちる。
まだ、2本。
3000円畑は、まだまだ先。
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