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第44話 お茶とテストとクエストボード

図書準備室。


机の上には、英単語帳、問題集、ノート。

紅茶の湯気。

ミコトの手作りクッキーの、甘い匂い。


ほのかがシャーペンを走らせて、眉をしかめる。


「え、ここ引っかけじゃん。性格悪っ」


「作問者の癖ですね。毎年ここが出ます」


しずくは、二人を見ていた。


(これ…)


友達と同じ机で、同じ問題を見て、同じ時間を過ごす。


それだけのことが、こんなに胸が温かいなんて。


しずくは、ノートに書き込みながら、心の中で小さく叫ぶ。


(うれしい…楽しい…)


そして、ふと思う。


(こ、これが青春…アオハル?)


視界の端で、ほのかがクッキーをつまんだ。


「これ、やば。うま。ミコト、嫁にこない?」


ミコトが真顔で返した。


「勉強してください」


ほのかが笑う。


「はいはい、首席先生〜」


しずくは、思わず小さく笑ってしまった。


「ふふ…」


自分の笑い声が出たことに、少しびっくりして、すぐ前髪で隠す。


ミコトが、しずくを見る。


「佐倉さん、今の問題合ってます。その調子です」


しずくの胸が、きゅっとなる。


褒められるのが嬉しい。

でも、それ以上に——


“ここにいていい”って言われたみたいで嬉しい。


ほのかも、しずくのノートを覗き込む。


「しずく、字きれいじゃん。ノート見やすっ」


しずくは一瞬固まり、でも小さく答えた。


「…え…あ、ありがと…う」


返事ができた。


それだけで、今日は勝ち。


ダンジョンじゃなくても、

小さな勝利は積み重なる。



「つーかさ、明日もやろ」

「図書準備室、うちらのセーフエリアじゃん」


ミコトが頷く。


「賛成です。中間テスト終了までは、勉強会を続けましょう」


しずくは、胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。


セーフエリア。


ダンジョンの中だけじゃない。

学校にも、ある。


ここだ。


図書準備室でのひとときは、

しずくの大切な時間になりつつあった。




日が落ち始める。


校内放送が流れた。

「下校の時間です。速やかに下校してください」


いつもなら騒がしいグラウンドも、今日は静かだった。

テスト前期間。部活も短縮。声も少ない。

世界が少しだけ、音量を下げたみたい。


図書準備室。


ミコトがノートを閉じて、きっぱり言った。


「今日はここまでにしましょう」

「復習を忘れないようお願いしますね」


ほのかが椅子にもたれ、ぐーっと伸びる。


「はーい。…いやマジ助かった」


それから、思い出したように手を叩く。


「あ、そうだ。L〇NEグループつくろ」


ミコトが一瞬だけ目を丸くして、それから静かに頷く。


「はい。情報共有の場として、いいと思います」


ほのかがにやっと笑って、しずくのほうを向く。


「しずくもほら、三人グループ作ろ?」


しずくは、心臓が一瞬だけ跳ねた。


(…え…グループ)

(ふ、二人組つくって…)

(班決めで…忘れられて)


怖い。

でも、怖いより嬉しいが勝った。


しずくは小さく頷いて、スマホを出した。


「うん…」


カメラがQRを読む。

ピロン、と音が鳴る。


画面に、新しい名前。


しずくの携帯に、初めてグループができた。


(グループ…輪に入れた)


たったそれだけで、世界が少しだけ明るくなる。


ミコトも、友達。


ほのかも、友達。


しずくの胸の奥に、ふわっと温かいものが広がった。


(うれしい…)


でも、次の瞬間。


その温かさが大きいほど、反動みたいに不安が湧く。


(こんな幸せで…いいのかな)


(いつか、消えたりしない?)


しずくは思わず、スマホを両手で握りしめた。


「グループ名どうしょっか?」

「しずくと愉快な仲間たち、とか?」


ミコトが即座に訂正する。


「図書委員グループでお願いします」


ほのかが笑う。


「かたっ!」


しずくは、二人のやりとりを見て、胸の不安が少しだけ溶けた。


(大丈夫…今は、ここにある)


スマホの画面に並んだ名前が、確かに証拠だった。


白澤ミコト。

神宮ほのか。


そして、自分。


テスト期間は、あっという間に過ぎていった。


しずくは、こつこつ積み上げた分だけ手応えがあった。

(努力って、ちゃんと返ってくるんだ…)


ほのかは、問題用紙を見た瞬間に顔が輝いた。


(やば、山当たった!!神!!)


ミコトはいつも通り、淡々と、静かに進める。

迷いがない。首席の圧。


中間テストが始まると、学校は静かだった。


朝の教室。

ノートを見返す音、単語帳をめくる音。

誰もが必死で、声が小さい。


なんだかんだで進学校。

テストは皆、ちゃんと本気なのだ。


そして、中間テスト終了。


明日から土日。


図書準備室で、簡単な打ち上げをすることになった。


ミコトが奮発して、シフォンケーキを焼いてきていた。

ふわっと甘い匂い。


ほのかは得意げに言う。


「こもれびマスター直伝のコーヒー、披露するよー」


ドリップの音。

湯気、香り。


しずくは、心の中で小さく呟く。


(これ…ほんとに青春…)


ケーキとコーヒーを楽しみながら、

自然と話題は、次の冒険へ。


3層。礼拝堂、湖の浮島、地下墓所。


ほのかがスマホを取り出して、にやっと笑う。


「ね、まずクエストボード確認しない?」


ミコトも頷く。


「依頼の内容次第で、初手の動きが変わります」


しずくも小さく。


三人の画面が、同じクエストボードを映す。


3層。礼拝堂。


そこに、ひとつ目を引く依頼があった。


【採取依頼】3層:湖のほとりに咲く蒼い花


花一輪につき3000円

ポーションの材料としてほしい。なるべく急ぎ。

依頼主:匿名の錬金術師


ほのかの目が、がっつりお金の目になる。


「花一輪で3000円!?これ10本で30000円じゃん!!」


「なるべく急ぎ…需要が高いか、供給が少ないか」


しずくは、画面を見つめながら小声で呟く。


「…蒼い花…湖のほとり」


3層礼拝堂は湖の真ん中の浮島。

湖のほとり、という言葉が妙に引っかかる。


「これ受けようよ!初クエスト!お金!」


しずくは、嬉しさと不安が半分ずつ湧いた。


(採取は戦闘より安全…?)


(でも、3層は本番…)


ミコトが落ち着いて言う。


「受けるのは賛成です」

「ただ、条件を確認しましょう。採取ポイントは地下ではなく湖のほとり」

「礼拝堂の外周に出る必要があるかもしれません」


ほのかがニヤニヤする。


「外周いいじゃん、景色見たい!」


しずくは、カップを両手で包みながら小さく頷く。


「…やってみたい」


探索者になって、初めてのクエスト。


蒼い花。


初級探索者としての、第一歩が始まる。

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