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第34話 お泊まり会

配信を切った瞬間、しずくの部屋に静けさが戻ってきた。

コメントの流れも、通知音も、全部ふっと遠のいて。

耳が、少しだけ寂しくなる。


「終わった…」


しずくが小さく呟いたところで。


ごそっ。


ほのかとミコトが、部屋の隅に置いてあった大きなバッグを、当然のように持ち上げた。


しずくは気づいていた。

気づいてたけど、配信で使う機材かな?と自分に言い聞かせて、突っ込めなかった。


ほのかが、満面の笑みで言う。


「はい!今日はこのままお泊まり会!」

「あ、おじいちゃんには許可とってるから!」


「…えっ」


しずくの脳が追いつかない。


「い、いつのまに…」


ミコトが、何でもないことのようにさらりと答える。


「先日、連絡先を交換しましたので」

「おじいさまに、ご迷惑のない範囲でと、事前にご相談しました」


「事前…」


しずくの人生に、そんなイベントは存在しない。

友達とファミレス?ランチタイム?雑談配信?

全部、ここ数日の異常事態だ。


そして今、お泊まり会。


(私、どうなってるの)


胸の奥が、落ち着かないのに、嬉しい。



玄関でのやり取りは、もっと異世界だった。


武人そのものみたいなおじいちゃんが、

ほのかとミコトを見て、ふっと目を細める。


「よく来たな。俺は離れにいる」

「母屋は好きに使え。何かあれば呼べ」


それだけ言って、背中で語るように去っていった。


しずくは、玄関に残された二人を見て、思わず小声。


「ほんとに…いいの…?」


ほのかは両手を広げる。


「いいって言ってたじゃん! おじいちゃん太っ腹すぎ!」


ミコトが手を合わせる。


「では、夕ご飯を作りましょう」

「材料も準備してありますので」


しずくの脳は沸騰寸前だ。




まずは晩ごはん。

台所に立つと、ミコトが持ってきた袋から材料が次々出てくる。


ひき肉、玉ねぎ、パン粉、牛乳、卵、ナツメグ、ソース用のケチャップとウスター。

付け合わせのサラダ用の野菜まで、きっちり。


「え…準備、完璧すぎない?」


しずくが目を丸くすると、ミコトは淡々と答える。


「成功率を上げるためです」


ほのかが笑う。


「ミコトは、料理も探索も勝ち筋から作るタイプ!」


しずくも最低限の料理はできる。祖父と二人暮らし。

見栄えより、食べられるものを作るのが正義だと思っていた。


ほのかは、家で兄妹のご飯を用意している。

手際がいい。冷蔵庫の中を見て、即座に何が使えるか判断して動く。


結果、台所は妙に連携が良かった。


玉ねぎをみじん切りにするミコト


ひき肉をボウルに入れて手早く下準備するほのか


その横で、しずくはフライパンと皿を準備しつつ、手順を追う


「しずく、パン粉ここね。牛乳でふやかして」

「う、うん…」

「卵は割る係お願い」

「割るのは…得意…」


ほのかが、こね始める。


「うわ、これ気持ちいい。粘りが出てきた!」


しずくは、種がまとまっていくのを見て、少しだけ安心した。

料理は、手順がある。会話よりずっと分かりやすい。


焼き始めると、台所に香りが立ち上る。

肉の焼ける音がして、油が跳ねて、蓋の内側に蒸気がたまる。


「いい匂い…」


しずくがぽろっと言うと、ほのかがすぐ拾う。


「でしょ! これもう勝ち確!」


「焦げだけは避けましょう。裏返すタイミングは…今です」


三人で皿に盛ったハンバーグは、見た目からして強い。

ふっくら、艶、肉汁の気配。ソースもいい感じに絡んでいる。


一口食べたほのかが、目を見開いた。


「うまっ!!」

「え、待って。私たち天才じゃない!?」


ミコトは小さく頷く。


「よくできたと思います。おいしい」


しずくは、言葉が出ないまま、もう一口食べた。

口の中が温かい。胃が落ち着く。


いつもは、おじいちゃんとの夕飯。

静かで、悪くない。むしろ好きだ。

でも、今日は会話がある。


「この前のゴブリンさ、まじで目がキマってたよね」

「撤退戦の動き、しずくさんが一番落ち着いていました」

「…私、追い込まれると…静かになる…」


笑って、食べて、また笑う。

ランチの時も思ったけど、誰かと食べるご飯って、こんなに美味しいんだ。

しずくは改めて実感した。



食器を片付けて、いよいよお風呂。


佐倉邸の風呂は、和風でとにかく広い。

湯船が家庭の風呂じゃない。旅館みたいだ。


ほのかが、目を輝かせる。


「え、なにこれ!でっか!!」

「しずく、これ毎日入ってんの?勝ち組すぎ!」


しずくは照れて、視線を逸らす。


「…おじいちゃんが…こだわった…」


ミコトが湯気の向こうで、少しだけ表情を緩めた。


「落ち着きますね。良い造りです」


三人でわいわい洗って、背中を流し合って、湯船に沈む。

湯が肩まで包んで、ふっと力が抜ける。


ほのかが、湯船の縁に肘を置いて、天井を見る。


「なんかさ、こういうの青春って感じしない?」

「定義は難しいですが、楽しいは事実です」

「…うん…たぶん…」


しずくは湯船の中で、指先を見た。

いつもは一人で入る湯。今日は、笑い声が反響している。


(…私、浮かれてる)


浮かれていい。

今だけは、そう思えた。



お風呂から上がって、パジャマ。

布団を敷いて、髪を乾かして、部屋にお菓子と飲み物を並べる。


ほのかが、布団にダイブして叫ぶ。


「よーし! 恋バナ――」

「不要です」

「即答!?」

「…私も…無理」


三人、顔を見合わせて、笑う。


結局、話題は自然にダンジョンになる。


「視聴者の人たち、思ったより“ちゃんと見てる”よね」

「今日の配信も、空気良かったですね」

「…みんな、怖いけど…優しい」


ミコトが、少しだけ柔らかい声で言う。


「画面の向こうでも、人は人です」

「ただし、距離感は大事です。個人情報は絶対に守りましょう」


しずくが真剣に頷くと、ほのかが笑って頭を撫でる。


「しずく、真面目すぎ。そこがいいんだけどね」


しずくは、されるがままになってしまう。

(くすぐったい…でも、嫌じゃない)


話は、自然に次へ向かう。


「2層ボス、連携してくるんだよね」

「前衛と後衛のセット。シャーマンはヒーラー狙いと情報があります」

「…じゃあ、私が…ミコトのカバー?」

「はい。私は詠唱の位置を固定せず、動きながら準備します」

「私は射線を切らさない!」


しずくは布団の上で膝を抱えて、小さく言った。


「私たち…ちゃんとパーティー」


ほのかが即答する。


「当たり前じゃん。友達パーティーだもん」


ミコトも頷いた。


「友人であり、仲間です」


夜が更けていく。


布団に入って、部屋の明かりを落としても、しずくはすぐ眠れなかった。

隣から、ほのかの小さな寝息。

反対側から、ミコトが布団を整える微かな音。


(明日がある)

(明日も…三人)


それが、しずくにとって何よりの励みだった。


「…ダンジョンで青春も…悪くない」


暗い部屋で、しずくが小さく呟くと。


ほのかが半分寝た声で返した。


「でしょ…」


ミコトも、眠気を含んだ声で。


「…はい。悪くないです」


しずくは、笑って目を閉じた。

また明日。

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