第33話 雑談配信
放課後。
銀盾が、鍛冶師のところに行っている空白期間。
「ね、これさ。盾いない間ヒマじゃん? 雑談配信でもする?」
帰り道、ほのかが軽いノリで言った。
しずくは、心臓が跳ねるのを感じた。
ダンジョンの配信は、戦ってるから喋らなくても成立する。
でも雑談は、喋らないと成立しない。
(喋れない、現実では)
(…でも、ネット越しなら)
ミコトが落ち着いた声で添える。
「個人情報を徹底して伏せるなら、ありだと思います」
「学校、住んでる地域、身内の話、制服、窓の外…そういうの全部NGで」
「じゃ、明日放課後にやろ!告知しとくねー」
その夜、しずくは布団の中で考える。
【視聴者のみんな】って、何なんだろう。
顔も知らない。名前も知らない。
でも、
初めて潜った日。犬が出たとき。
『犬はやばい』って叫んでくれた。
『居場所』って背中を押してくれた。
『俺たちが友達になってやる』って、画面の向こうから言ってくれた。
(…仲間、なのかも)
しずくは決めた。
三人で、雑談配信をやる。
翌日、放課後
三人はしずくの部屋に揃っていた。
しずくの部屋。もう一度言う、しずくの部屋だ。
ベッドと机とクローゼットだけ。
壁は何もない。カレンダーもポスターもない。
情報が漏れるものが、ほぼない。
机の上の教科書は全部クローゼットに突っ込んだ。
窓はカーテンを閉めた。スマホの位置情報も切った。
配信画角は手元だけ。
ほのかがスマホスタンドを調整しながら言う。
「よし、映ってないよね? 机の上、何もない。完璧」
ミコトも確認する。
「音も大丈夫です。外の音が入らないように、窓は閉めてありますね」
「それにこの辺りは静かな住宅街ですし」
しずくは深呼吸して、配信ボタンを押した。
画面の向こうに人数が増えていく。
コメント欄が、流れ始める。
しずくは緊張で喉が固まる。
でも、ネット越しのスイッチが入る。
「…えっと」
「今日は…来てくれて、ありがとうございます」
「盾の…しずくです」
コメントが一気に増える。
『きたあああ』
『初雑談回!』
『声かわいい!』
『緊張してて草』
『生存確認!』
しずくは頬が熱くなる。でも、ちゃんと続ける。
「最初にダンジョン入った時」
「…怖くて」
「犬…やばかったじゃないですか」
コメント欄が一斉に“犬”で埋まる。
『犬はやばい』
『犬トラウマ』
『あれは初心者殺し』
『でも勝った!』
しずくは小さく笑って、目が少し潤む。
「…あの時」
「コメントで…いっぱい言ってくれて」
「怖いのに、背中押してくれて」
「…友達になってやるって」
声が詰まる。
しずくは慌てて前髪を指で整えて誤魔化す。誤魔化せてない。
「…それ、嬉しくて」
「私、リアル…その、話せないから」
「…だけど…みんなが背中を押してくれたから」
ここで、ついに言ってしまう。
「…友達、できました」
視聴者が一瞬止まって、次の瞬間爆発する。
『え!!!!』
『知ってたw』
『おめでとう!!!!』
『泣くな泣くな』
『アオハルの匂い』
『報告感謝』
しずくは涙ぐんでしまって、声が震える。
「…ごめんなさい」
「なんか、勝手に…」
「はいはい! しずくの友達その1、ほのかです!」
「友達です!! 異論は認めません!!」
コメント欄が盛り上がる。
『陽キャだ!』
『ほのかの圧w』
『友達宣言助かる』
ミコトも、少し照れたように、でもきちんと言う。
「その2、ミコトです。仲間であり、友人です」
『合法ロ〇きた!』
『いや、まだ非合法w』
『しずくをよろしくお願いします』
しずくは鼻をすすって、ちっちゃく頷く。
「うん…友達…」
空気が和らいだところで、コメントが容赦なく質問を投げ始める。
『趣味は!』
『好きな食べ物!』
『やっぱ、ダンジョン怖い?』
『好みのタイプは!』
『彼氏いますか!?』
固まる。
ほのかが笑いながら突っ込む。
「彼氏は早すぎw許さんぞ」
『すでに保護者枠w』
『ほのかさん、しずくをください!』
「趣味は…ゲームかな」
「…好きな食べ物は…甘いもの」
「ダンジョンは…怖いです」
「…でも、慣れるっていうか」
「…怖いまま、やる」
『魔石のおかげで、この国成り立ってるしな』
『それが探索者』
『盾の名言』
ほのかがニヤニヤしながら読む。
「好みのタイプ! 」
しずくは顔真っ赤。
「えっと…」
「こわくない人」
「優しい人…」
『尊い』
『守りたい』
『彼氏候補集合』
ミコトが締めに入る。
「本日の個人情報はここまでです」
『締めw』
『ミコトが言うなら仕方ない』
話題を切り替えるように、ほのかが本題へ。
「で! 今日のメイン! 銀盾、強化出してます!」
しずくも頷く。
「ミスリルで…流し性能と、対魔法性能を上げてもらってます」
『対魔法は正しい』
『3層から、魔法増えるぞ』
『パリィ盾は伸びしろしかない』
『あの時、銀盾でてなかったらと思うと怖いな』
ミコトが補足する。
「相手が魔法を使うようになると、盾の“受け”より“流し”が重要になります」
「直撃を防ぎ、体勢を崩さないことが生存率に直結します」
ほのかが納得に表情。
「ミコト解説ありがてえ」
「…盾、戻ってきたら…試したい」
ほのかが視聴者に向けて言う。
「方針としては、まず2層のボス!」
「ここ突破して、駆け出し卒業、初級探索者になる!」
『いける』
『ボスは連携してくるぞ』
『慎重にな』
さらに質問が飛ぶ。
『パーティー人数増やす予定ある?』
『4人目とか?』
「今は三人で安定しています。増やすなら、信頼が前提です」
「かわいい子なら、大歓迎!」
「ほのかさん!」
「冗談ですw」
しずくは小声で、でも本音。
「…今のままが…安心…」
『尊い』
『友情パーティーいいなw』
コメントが次の爆弾を投げる。
『同年代にユニーク職、“勇者パーティー”いるけどどう思う?』
『高校生4人組で、すでに4層らしいぞ』
『構成:イケメン勇者、美少女戦士、殴りヒーラー、あと太った魔法使い』
『魔法使い君、追放されそうw』
情報量が多い。ほのかが吹く。
「魔法使いだけ雑すぎw」
しずくは少しだけ肩がすくむ。
比べられるのは、怖い。
でも…。
ミコトが先に言ってくれた。
「他者の進度は、私たちの価値を下げません」
「私たちは、私たちの勝ち方を積みます」
ほのかも頷く。
「そうそう。うちらは、こつこつ伸びるチームだから!」
「あと、勇者がイケメンとか知らんし!」
『勇者ざまぁw』
『ギャル強い』
『でも正論』
しずくは、少し考えてから言う。
「…すごいと思う」
「でも…私たちは…私たちで」
「三人で、進む」
『イケメンには負けないで!』
『応援する』
『盾しずく覚悟決まった』
配信時間がいい感じになって、ミコトが時計を見て言う。
「そろそろ終わりにしましょう。明日の準備もあります」
「最後に、しずくから一言!」
しずくはカメラを見る。
画面の向こうにいる“みんな”を、ちゃんと見る。
「今日は…ありがとう」
「ダンジョンって怖いけど」
「…なんか」
言葉を探して、ふっと笑う。
「ダンジョンで青春も…悪くない」
コメント欄が、温かく埋まる。
『最高』
『青春してる』
『次も待ってる』
『三人とも推せる』
配信終了ボタンを押す直前。
ほのかが小さく言った。
「ね。今日、めっちゃ良かったよ」
ミコトも頷く。
「しずくさんの世界が増えました」
しずくは、胸の奥がじんわり熱いまま、電源を落とした。
(視聴者のみんなも、私の居場所なんだ)
続きが気になる方は、ブクマお願いします!
また、少しでも面白いと感じた方は評価お願いします!




