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第29話 放送禁止回

ホブゴブリンの巨体が、霧みたいにほどけて消える。

残ったのは、床に散るドロップ。


素材。魔石。


ほのかが肩を落とす。


「うわ、巣穴の主倒したのに通常か」


ミコトは冷静に頷く。


「巣穴の主でも、必ずレアが出るわけではありません」

「ですが、戦果としては十分です。まず生還が第一です」


「うん。でも宝箱…」


ほのかが視線を前へ向けた。


通路の奥。部屋のさらに奥。


そこに——宝箱。


木箱じゃない。

金属の補強が入った、いかにもなやつ。


そして、いかにもすぎる。


箱の周りの床が、やけに綺麗。

埃がない。足跡もない。

“通ってください”みたいに空いている。


しずくがぽつりと呟く。


「…これ…罠…?」


ミコトが即答する。


「罠です」


ほのかも即答する。


「罠だね」


三人が同時に同じことを言って、少しだけ笑いが出る。

それくらい、あからさまだった。


コメント欄も大盛り上がり。


『罠箱wwwww』

『それ踏んだら死ぬやつ』

『罠にしか見えない宝箱初めて見た』

『開けるな危険!でも開けろ!』

『フラグ立ってて草』


「結論から言います。近づかず、観察して、解除できなければ撤退しましょう」


ほのかが苦笑い。


「正論すぎる…でも宝箱」


しずくは盾を上げたまま、一歩も近づかない。。


「まず…床…かな」


ミコトが頷く。


ほのかが気配察知に集中して、顔をしかめる。


「周囲の気配は、薄い。でも薄いのも怖い」


しずくは目を細める。


(この箱、開けたら何か出る)

(というか、出るのは“敵”だ)


「もし飛び出すなら、ホーリーロープで縛ります」


「しずくは盾で押し返しね。私は射線確保。でもさ」


ほのかが宝箱を見ながら言う。


「この罠、解除できる?私たち、盗賊いないけど」


「…開けるなら…私が一番前…」


「開けるならの前に、方法を決めましょう」

1)棒でつつく

2)遠隔で開ける(紐をかけて引く)

3)床の罠確認(石を投げる)


ほのかがニヤッとする。


「参謀、罠解除までカバーしてくるの強い」


しずくは盾を握り直して、決めた。


(開けるなら、正面からじゃない)


宝箱はロマン。

でもロマンの裏には、だいたい地雷がある。


しずくは宝箱から、絶対に目を逸らさなかった。

あからさますぎる宝箱は、信用できない。


「まず、床の反応を見ます。石を」


ほのかがうなずき、小石を拾って軽く投げた。


コロコロ…。


反応なし。


ほのかが思いついたように、言う。


「もし、魔物が中に潜んでいるならさ」

「これ投げてみない?」


と言って、カニ缶をポーチから取り出した。


「…魔物って…カニ食べるの?」


ミコトは複雑そうな顔をしたが、止めなかった。


「よし!投げる」


ほのかがカニ缶を握りしめ、振りかぶる。

そのままサイドスローで、カニ缶を投げた。


すると——箱が、動いた。


「…え?」


一拍遅れて、宝箱の蓋がぱかっと開く。


そのままカニ缶が吸い込まれる、そして…。


ぐしゃりと缶を潰す音。


出てきたのは、歯。


びっしり。


蓋の内側にも、箱の縁にも、歯。

粘ついた唾液の糸が、光を反射する。


箱の底から、舌みたいなものが、ぬるりと伸びた。


《ミミック》


コメント欄、爆発。


『ミミックwwwwwww』

『定番すぎて草』

『はいミミック!』

『カニ缶を食うのかよ!』

『ほのかのサイドスロー美しい…』


ほのかが叫ぶ。


「ミミック!!やっぱり!!」


ミコトも目を見開いてるのに、声は冷静。


「定番!でも実物は初めて見ました」


しずくは思わず口から出た。


「…え、箱?」


コミュ障の素直な疑問。

視聴者がさらに草。


『え、箱?が可愛すぎるw』

『盾しずく天然すぎ』


次の瞬間。


ミミックが跳んだ。


箱なのに、脚がある。

床を蹴って、しずくへ一直線。


蓋が大きく開いて、食う角度。


しずくの脳が一瞬で切り替わる。


(食われる)


銀盾を前に置く、腰を落とし衝撃に備える。


ミミックの噛みつきが、銀盾に食いつく。


歯が金属を削る音。あの歯医者の嫌な音に近い。


背筋が凍る。


しずくのHPバーが、じわっと減る。


「…うわっ」


噛む力が強い。引き剥がせない。


ミコトが叫ぶ。


「佐倉さん、無理に引かないで!噛み込みます!」


ほのかが2つ目のカニ缶を手に取る、それを思いっきり投げた。


「盾じゃなく、カニを食え!」


カニ缶が開いた口の内に入る。

ミミックがびくっと震える。


でも離れない。

舌が伸びて、盾に絡みつこうとする。


「きもっ」


しずくの本音が出た。


ほのかが最後のカニ缶を掴む。


今度はきれいなオーバースローで、ミミックの上目掛けて投げる。


盾に絡みつこうとした舌が、カニ缶に反応する。


そのまま舌で缶を絡めとると、飛び上がりカニ缶を飲み込む。


『カニ好きミミックは草w』

『カニは正義』

『これ、ミミックの防御あがるんじゃねw』


外れた瞬間、しずくの剣が走る。


箱の蝶番、蓋の付け根を狙う。

“口を閉じさせない”。


ミミックが嫌な声を出した。


「ギャッ!」


ほのかが息を吸って、追撃。


《ダブルショット》


口の中へ、柔らかいところへ。

確実にダメージが通る。


「佐倉さん、次噛みに来たら盾で受けてください」

「私がロープで拘束します」

「神宮さんは口内狙いを、短期決戦です!」


しずくが頷く。


「うん…!」


ミミックはまだ動く。

箱のくせに、しつこい。



ミミックが跳ねるたび、蓋の歯がカチカチ鳴る。

口の中に矢が刺さっているのに、まだ動く。


そして…ぬるりと。

箱の奥から、舌が伸びた。


太く、筋肉の塊みたいで、湿っている。


狙いは——ほのか。


「えっ」


気づいた時には遅い。


舌がほのかの腕に巻き付き、次の瞬間には胴に回った。


ほのかの体が持ち上がり、足が床から浮いた。


「っ、ぐ…!」


弓を引くどころじゃない。呼吸が削られる。


視聴者、爆発。


『舌きたあああああ!!』

『拘束系ミミックwww』

『ほのか捕まった!!』

『助けろ盾しずく!』

『ミコト!ヒール!』

『これ放送していいんですかw』

『保存した、永久保存した!』


ほのかのHPが、じわっと減っていく。


(見えるのが怖い)


ミコトが叫ぶ。


「神宮さん、無理に引き剥がさないで!」


ほのかが苦しそうに笑う。


「わかってる…これ…地味に…やばい…」


しずくの視界が、また赤くなる。


(ほのかがやられる)


コミュ障の思考は遅い。

でも、戦闘の判断は速い。


しずくは盾を構えて踏み込む。


狙うのは舌そのもの、じゃない。


根元。


舌は切っても伸びる。

根元を痛めれば、締め付けが緩む。


「ミコト!」


しずくが短く叫ぶ。


ミコトは即、理解した。


「根元にロープ!動きを止めます!」


《ホーリーロープ》


光の紐が、ミミックの口元、舌の付け根を絡み締め上げる。

ミミックがびくっと震えて、一瞬だけ拘束が緩む。


その一瞬を、しずくは盾で押す。


ミミックの側面に体当たりみたいに盾をぶつける。

箱の重心がずれ、舌が下がる。


しずくが剣を走らせる。


舌の途中を切るんじゃない。

付け根を狙う。箱の縁ギリギリ。


ぬるい感触、嫌な手応え。


ミミックが叫ぶ。


「ギャアアッ!!」


舌がびくんと跳ね、締め付けがほどける。


ほのかが床に投げ出される。


「げほっ…っ…ありがと…」


《ヒール》


淡い光が包む。


ほのかが息を整えながら、目だけは笑ってる。


「箱、むかつく。あんな恥ずかしい真似を…よくも」


しずくが小声で言う。


「…ほのか…怒ってる」


「怒ってる」


ほのかが即答した。


視聴者がさらに沸く。


『怒りのギャル弓w』

『盾しずく救出うめぇ!』

『ミコトのロープ神!』

『ミミック、今日で絶滅させろ』

『いや、もう一回…なんでもないです』


ミミックは舌を引っ込めながら、歯をカチカチ鳴らした。

まだ食う気満々。


しずくが盾を上げ直す。


「次…来る…」


ほのかが弓を握り直す。


「来いよ箱。そのイキッた口を永遠に閉ざしてやる」


「口内集中で終わらせましょう」


宝箱はロマン。

ロマンはだいたい噛む。


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